「ニナ リッチ(NINA RICCI)」でデザイナー経験を積んだ加藤大地デザイナー(34)が、2024-25年秋冬シーズンに新ブランド「オムナ(HOMMENA)」を立ち上げた。ブランド名はフランス語で“男性”を表す“homme”の語尾に“a”を加え、イタリア語で女性名詞を表す仕様にした造語だ。「ユニセックスブランドと打ち出すのはしっくりこず、男女どちらの身体構造も美しく見せられる洋服を届けるという思いを込めた」と話す。現在の卸先は、東京・浅草のセレクトショップ「トキズ(TOKIS)」と大阪・堀江のセレクトショップ「パレットアートアライヴ(PALETTE ART ALIVE)」の2アカウント。
デビューシーズンは柔らかなピンクやライラックカラーをキーカラーに、キッチュなハートモチーフを散らした30型で構成する。
不均一に寄せたドレープやシワ、大きく張り出した後身頃、首元の余り布を内側に折り込んで“なで肩”を強調したようなショルダーライン。生地とパターンメイクの妙で、どこか違和感のあるシルエットを作り出す。代表格はポリエステル生地にコンブ加工を施してハリを持たせたコートや、アルミをシルクでボンディングして紙のような質感を再現したジャケットだ。アバンギャルドに思われそうなデザインだが、あくまでも“ひとクセ”程度に押さえる絶妙なバランス感覚と、遊び心のあるディテールによって、不思議と「愛らしい服」としてまとまっている。
価格帯はアウター6万7200〜24万3400円、パンツ5万7300〜16万3200円、タンクトップ・Tシャツ2万5600〜2万8500円、シャツ〜5万8500〜14万1400円、ニット9万600〜15万円。
加藤デザイナーいわく、「今季は『サイズが合っていない服だけど、かわいいから無理やり着ちゃおう』がテーマ」。“トゥー スモール デニム ジャケット(TOO SMALL DENIM JACKET=小さすぎるデニムジャケット)”や“トゥー ビッグ テイラー ジャケット(TOO BIG TAILOR JACKET=大きすぎるテーラードジャケット )”といったアイテム名にもその考えが表れている。「昔の僕は肥満児で、着たい服を着られないもどかしさがあった。その経験が生かされているのかもしれない」と振り返る。
イオンの衣料品バイヤーからデザイナーに
加藤デザイナーは一風変わった経歴の持ち主だ。早稲田大学で心理学と社会学を学んだのち、イオングループの中核会社であるイオンリテールに入社。ウィメンズ服とメンズ服のバイヤーを務める中で服作りに携わりたいという思いが高まり、4年で退職した。その後、服飾専門学校エスモードに入学すると、在学中に「第45回神戸ファッションコンテスト」で特選を受賞し、パリ留学の切符を手に入れる。「ニナ リッチ」で2年のデザイナー経験を経て、「オムナ」を立ち上げた。
「イオンでは機能性を重視する男性と、デザイン性を重視する女性の顧客心理を学び、『ニナ リッチ』では「フルー(flou=女性服)」と「テイラー(taileur=男性服)」の両方を手掛けるチームで経験を積んだ」という加藤デザイナー。「オムナ」の主軸であるジャケットやシャツ、パンツといった硬派なテーラードアイテムと、どこか遊び心を感じさせるデザインは、そういった彼のキャリアの紆余曲折を映し出している。僕は、ルールの多いメンズ服も好きだけど、パッと見て胸がときめくデザインも大事にしたい。愛らしさと機能性を両立できたら」。
34歳とデザイナーとしては遅咲きのスタートだが、その分豊富な経験を生かした服作りに期待したい。