多くの化粧品会社の広報から「本当はリリースにこう書きたいけれど書けない」という言葉をよく耳にする。薬機法によって表現が厳しく制限されているからだが、その悩みを乗り越えるべく、各社はどのようにしてメディアや消費者に伝えているか。“実験”をキーワードに商品の特長を伝える2ブランドの取り組みを紹介する。
「ローラメルシエ」メディア向け発表会
「ローラメルシエ(LAURAMERCIER)」はこのほど、化粧下地“ピュアキャンバスプライマーブラーリング”の処方をリニューアルする。今川夏実アシスタントブランドマネージャーは「今回のリニューアルで有用なスキンケア成分を配合しているが、薬機法の関係でリリースに書くことができない。(メディア向け発表会という)直接伝えることができる機会で商品の実力を知ってほしいと考え、“実験”という形を採ることにした」と話した。
発表会では“ピュアキャンバスプライマーブラーリング”の肌のテカリを抑えてサラサラ肌にする効果を検証する実験からスタート。ローズオイルを両手の甲に馴染ませ、皮脂のテカリを再現する。片手に“ピュアキャンバスプライマーブラーリング”を馴染ませると、テカリがなくなりサラサラとした肌へと変化。油とり紙で確認すると質感の違いは一目瞭然だった。
次に、シリコンフリー処方による崩れにくさを検証。スティック状のアイシャドウ“キャビアスティックアイカラー”で2本の横線を腕に引く。10分ほど経った後、シリコンを配合していた2代前のプライマーを1本の線に、“ピュアキャンバスプライマーブラーリング”をもう1本の線にのせる。両方とも馴染ませると、2代前のプライマーはアイカラーと混ざって崩れていく。その要因について今川アシスタントブランドマネージャーは「ほとんどのベースやカラーメイクはシリコンが配合されている。シリコン同士は混じりやすい。そのため、プライマーにも入っていると化粧崩れにつながる」と話す。今回のシリコンフリー処方により、化粧が崩れることなく、肌を滑らかに整えることができるようになったという。また、メイクを施した上から塗布することも可能になり、化粧直しにも有用なアイテムへとアップデートした。
「ファンケル(FANCL)」こども向け事業セミナー
「ファンケル」はこのほど、初となる子ども向けスキンケアライン“クリアアップ”から泡洗顔料とジェルミルクを発売した。同社は子どものスキンケアに着目し、2023年から研究と啓蒙活動に着手。商品の発売に先駆け、メディア向けに同社の研究内容や啓蒙活動を発表した。
総合研究員の大浜寧之さんは「スキンケアとは何か」を解説する講座を24年から実施。小学生から大学生までを対象に、サイエンスの面白さとファンケル商品の素晴らしさを伝えている。
“クリアアップ”は、“プレ思春期”と定義する6歳から12歳までをターゲットとしている。大浜さんは「この年齢の子どもたちは自分で意思を持っている」と話す。そのため、自発的に行動したくなるように働きかける講座作りを心がけているという。「行動変容に必要なのは好奇心と納得。その段階を踏んでから行動につながる」と続ける。
今回は日焼け対策と洗顔の講座を披露した。「肌とはそもそも何か」という問いから講座はスタート。大浜さんによると「肌は4大敵から身を守る鎧だ」という。クイズ形式でメディア参加者にヒントを出しつつ、紫外線、乾燥、摩擦、温度の4つの回答に導く。これらの負担から肌を守るために「季節に合った服を着る」「肌に触るときは摩擦を起こさないようにする」といった注意点を挙げる。
「中でも紫外線はとても厄介なので一緒に勉強しよう」と問いかけ、紫外線とは何かという議題に入る。おおよそ子どもたちは「太陽光に入っている」という回答になるため、「太陽光を分解すれば紫外線が見えるはず」と水を入れた水槽に光を当てて壁に虹を再現。参加者に虹の中で紫外線だと思う箇所にシールを貼ってもらう。「紫」の漢字が入っているため、紫色の上にシールを貼る参加者が多いが、「紫外線」の漢字を見ると「紫の外側の線」と分解でき、虹の外側にあるために目に見えないことを説明する。「紫外線から身を守るために帽子やサングラス、服を着用するが、肌は守ることができない。その時に必要なものとして日焼け止めがある」とつなげる。ここで「子どもたちは日焼け止めの存在をしっかり認めてくれるようになる」という。さらに、子どもたちを対象にした講座では自分ごととして捉えてもらうためにAIで作成した画像を提示。紫外線対策をした場合としなかった場合で夏休みを過ごしたらどうなるのかを視覚的に表現する。これらを経て「紫外線対策しよう」という気持ちに導く。
次にビーズに日焼け止めを塗布し効果検証を行う。紫外線が出るライトを、日焼け止めを塗ったビーズと塗っていないビーズに10秒ほど照射する。その差を見せることで、日焼け止めの効果を視覚的に訴求する。さらに、参加者が風船に目と鼻と耳と口を書き、自分の顔に見立てて日焼け止めを塗る。実際に塗ったらアボカド程度まで縮小し、塗りムラを分かりやすく表現し、日焼け止めをきれいに塗る難しさを伝える。その後、5点塗り(額・両頬・鼻先・あご先・両目尻の下に点で置く)で広げていく方法を伝授する。
「太陽が登っている間は自分の顔を守ってくれる日焼け止めも太陽が沈んだ後は異物になってしまう。顔に塗ったまま寝てしまうと肌にとっては負担」と投げかけ、顕微鏡で日焼け止めを塗った肌を見る。白浮きしない程度に日焼け止めを伸ばしても、顕微鏡で見ると日焼け止めが膜を張っている様子が見える。
「このままで寝てしまうと肌に良くないので落とそう」と伝え、洗顔のパートに入る。同社の洗顔パウダーを使用して泡を作り出す。「パウダーに対して水はたっぷり使用する」「極端に熱い水も冷たい水も肌にとっては負担のため、ぬるま湯で洗う」「摩擦を起こさないように転がすように洗う」「拭く時にゴシゴシしない」といったアドバイスを伝えながら洗顔を実践。洗った後に、顕微鏡で日焼け止めが落ちていることを確認し、日焼け止めを塗ること、落とすことの重要性を伝える。
2ブランドは“実験”でメディア参加者に商品の特長を訴求できたものの、消費者への伝え方には課題が残る。デジタルPOPを活用して映像化するなど工夫が求められるだろう。