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藤原ヒロシが語る新店「V.A.」と「タイムラグの面白さ」 「僕は未来にほしいものを買う」

2002年にオープンし、20年にわたって東京・表参道を行き交う人々を見続けてきたカフェ・ラウンジ「モントーク(montoak)」が、22年3月31日に惜しまれつつ閉店。それから2年が経ち、建物はそのまま、装いを新たに、カフェとショップが併設するコンセプトストア「V.A.(ヴイエー)」が24年12月15日に誕生した。もともと「モントーク」は、オープンカフェの先駆けとして1972年に開業した「カフェ ド ロペ(Café de Ropé)」を前身とする。

70年代から続く伝統を守りながら、今の時代に合わせて、全体のディレクションを藤原ヒロシが、カフェ監修を「バワリーキッチン(BOWERY KITCHEN)」などを運営する山本宇一が、ストアデザインを「ザ・パーキング銀座(THE PARK・ING GINZA)」などを手がけた荒木信雄が行った。

今回はプレオープンの会場で、ショップのコンセプトをはじめ、街の再開発、流行や情報との向き合い方についてなど、藤原ヒロシに話を聞いた。

プラスチックスの2人とお茶をしていたら……

——コンセプトストア「V.A.」のプロジェクトは、どのように進んでいたのでしょうか。

藤原ヒロシ(以下、藤原):「モントーク」が閉店したあと、建物や跡地をどう活用していくのかを模索していく中で、かつて「モントーク」がそうであったように、原宿のランドマークとして残していきたいということで、運営元のJUNから相談を受けました。

——「カフェ ド ロペ」や「モントーク」にもよくいらっしゃっていたと?

藤原:しょっちゅう来てましたね。原宿の歴史が語られる時って、1970年代のこと、原宿セントラルアパートと喫茶「レオン」を中心とした話が多いじゃないですか。僕もぎりぎり「レオン」には行ったことがありますが、上京したのが82年なので、個人的に原宿のカフェといえば「カフェ ド ロペ」と、その後の「モントーク」なんです。

——この場所での印象的な思い出はありますか。

藤原:当時プラスチックス(Plastics)のトシちゃん(中西俊夫)とチカちゃん(佐藤チカ)と僕の3人でお茶をしていたら、すごい人だかりができたんですよ。プラスチックスってこんなに有名なんだと思っていたら、少し離れた席にジュディ・オングがいて、人だかりはそっちだった。ジュディ・オングも来るんだなと思って、あれはちょっとびっくりしましたね。

アニエス本人による書き下ろしロゴのアイテムも

——V.A.=VARIOUS ARTISTSという店名はどのように?

藤原:チームで話し合う中で、最初は源馬(大輔)くんが言ったのかな。「V.A.」って昔はコンピレーションとかのCDやアナログレコードでよく見ましたよね。いろんなアーティストの楽曲が入っているアルバム。その感じで、多種多様な人たちの集合を表す名前でいいなと思いました。最近は音楽の聴き方が大きく変わって、そういうアルバムに接する機会も減ってしまったのもあって、逆に新鮮かなと。

——カフェとショップの併設というアイデアはどこから?

藤原:最初は洋服屋の中で、パン屋とかドーナツ屋をやりたかったんですよ。「ドーバー ストリート マーケット(DOVER STREET MARKET)」って、基本的にどのお店も上層階に「ローズベーカリー」というカフェが併設されていますよね。でもニューヨーク店はベーカリーが1階にあって、中2階で「ナイキ(NIKE)」とかを見ていると、パンのいい匂いが漂ってくる。それがすごくいいなと思って、参考にしました。

——カフェ監修の山本さんやストアデザインを担当した荒木さんとはどんなことを話しながら、お店を作っていったんですか?

藤原:カフェに関しては、どんなメニューを出すかなど、全て山本さんにお任せしました。ストアに関しては、荒木さんは古いものを残しながら新しくアップデートしていくのが得意なので、今回も元の建物の構造自体は残してもらいたいってうのは伝えて、デザインを考えてもらいました。

——ショップに入るブランドのディレクションについては?

※オープン時のポップアップスペースでは「チャンピオン(CHAMPION)」、「エンダースキーマ(HENDER SCHEME)」、「リーバイス(LEVI'S®︎)」、「エル・エル・ビーン(L.L.BEAN)」、「ニューエラ(NEW ERA®︎)」などのブランドと協業したアイテムのほか、高橋盾「アンダーカバー(UNDERCOVER)」デザイナー、や西山徹「ダブルタップス(WTAPS)」「ディセンダント(DESCENDANT)」デザイナーが同ストアのために制作したアイテムをそろえる。

藤原:今のオープンの段階では、チームのみんなで選定したブランドに入ってもらっていますが、この先は「V.A.」という名前の通り、ポップアップストアとして、いろんなショップが出店する感じがいいかなと思っていて。そのためにカフェスペースの仕切りとかも可動式にしてあるんですよ。なので、1階のショップだけでなく、2階のカフェもあわせて、それなりに自由度をもって使ってもらえるので、期間ごとに違うお店に変わっていくようになっていったらいいですね。

——オープン記念のコラボレーションアイテムでは、デザイナーに旧知の仲である高橋盾さんや西山徹さんのほかにも、「アニエスベー(AGNES B.)」が入っていたりと、豊富なラインアップです。

藤原:「アニエス」はずっとキャップを愛用したりしていたので、入ってもらえたらいいなと思って。あの筆記体のロゴ、今でもアニエス本人の直筆なんですよ。なので、今回のアイテムに使われている「various artists」のロゴは、このためにアニエスが書き下ろしてくれました。

アーカイブにアクセスできることによってリバイバルの意味が変わった

——ファッションデザイナーについては、時代の変化は感じますか?

藤原:もちろん個別に面白いデザイナーはいるし、変化もありますけど、それよりも、「本気でアパレルを追求している人によるものではないブランド」が増えたような気がします。分かりやすいところでいうと、インフルエンサーやYouTuberがアパレルブランドを運営しているとか。そうなると、アパレル業界全体としてのファッション性は、相対的に落ちてきますよね。

——さまざまなアーカイブに簡単にアクセスできるようになったことで、クリエイティブにはどんな影響が出ていると思いますか?

藤原:安易なコピーとパクリが増えましたよね。しかも直近の流行をネタ元にして。僕らも散々サンプリングはしましたけど、やるからには真剣かつ緻密に、リスペクトを込めてコピーしてましたよ。

——まさにパクリとオマージュの違いですね。

藤原:それと、あえてネタ元を明かさないことによって生まれる、奥行きを楽しむようなことがなくなってしまったかな。日本の国民性みたいなことも関係しているのかもしれないけど、最初にネタバラシをしてから提供するようなところがあるでしょう。これは今に始まったことではなく、日本の翻訳を見てもその傾向は明らかで。アンデルセンの名作「裸の王様」って、英題は「The Emperor's New Clothes」なんですよ。「王様の新しい服」としか言っていないのと、タイトルで「裸」であるとネタバラシするのとでは、奥行きが全然違う。

——90年代リバイバルやY2Kと呼ばれる流行については?

藤原:僕らにとってのリバイバルと、今の若者にとってのリバイバルは、かなり様相が違うと思いますね。僕らの時代のリバイバルは、廃れて完全に消えてしまった過去のものを、苦労して探しまくって、ようやく手に入れていたけど、今のリバイバルはそういうことではないでしょう。いつでもアーカイブにアクセスできることで、「廃れる」という感覚もだいぶ薄くなった。あとは、分かりやすくメジャーなものがあったからこそ、そことは違うものを選ぶことで遊べていたのに、もはや大メジャーが存在しなくなって、ズラす楽しみは減ってしまったような気がしますね。

街は時代ごとに変わっていくことが必然

——現在進行形で再開発が進む原宿という街は、どう見ていますか。

藤原:以前は仕事場もあってよく来ていたのですが、最近は来ることも減りましたね。とはいえ、原宿という街の魅力は今も変わらないと思います。トレンドとかの話の前に、まずは立地ですよね。象徴として明治神宮があり、巨大な代々木公園があり、そこから真っ直ぐに竹下通りと表参道がそれぞれ別の方向に延びている。そのランドスケープがおもしろい。

——原宿に限らず、街が再開発で変わっていくことについては?

藤原:街は時代ごとに変わっていくことが必然だと思っていますよ。例えば西新宿は、僕にとってレコード屋街のイメージが強いけれど、今はそうではないし、レコード屋のイメージなんか全然ない人もたくさんいる。日本に地震が多いこととかも関係していると思いますが、とにかく作っては壊し、街がいつの間にか様変わりすることが日本の特徴。それが外国人観光客にとっては、とても魅力的にうつっていたりもしますからね。だってヨーロッパなんかへ行くと、100年前くらいの教会とかそこらじゅうにあって、ナポレオンが通ったレストランとかもあるくらいですから。

——街も情報も、スピード感は飛躍的に伸びたような気がします。

藤原:情報には僕自身も踊らされてきたし、仕事を始めてからは踊らせる方にもなったけれど、今は踊っている暇もない感じがしますよね。行列に並んでいる間にもう、新しい流行が次々にやってきちゃう。

——どんどん情報量が多くなっていく中で、どう情報を得ていますか?

藤原:例えば音楽だったら音楽好きな人たちの、ファッションだったらファッション好きな人たちのLINEグループがそれぞれあるので、そこの情報は結構信頼しています。そうやって知っている人のフィルターを通した情報を得るようにしています。

タイムラグを楽しめるお店になってほしい

——情報との関連でいうと、かつては音楽のジャンルとファッションが強く結びついていて、パンクでもヒップホップでも正装となるファッションがありましたが、そういうのもだいぶなくなりましたよね。

藤原:それは音楽フェスの影響が大きいと思いますね。ロックもハードロックもヒップホップも、全てが同じ会場で、観客たちは一律にアウトドアファッションになってしまった。昔はライブハウスごとに個性があって、そぐわない格好をしていると入れてもらえなかったりしたけれど、今はそんなことできないでしょう。それは雑誌なんかも同じで、「anan」と「JJ」では表紙のモデルからしてまったく違うカラーを打ち出して、思想的に相入れない雰囲気こそが面白かったのに、今はどの雑誌でも同じ人が表紙を飾っている。

——SNSを中心としたメディアの発達によって、消費行動にはどんな影響が出ていると思いますか。

藤原:かつてと比べると、今はモノも情報も使い捨て感がありますよね。その時だけの消費に偏っている感じ。僕の場合、未来にほしいものを買うんですよ。今は着る気分じゃないけど、これを5年後、10年後に着たいなと思って買う。基本、寝かせる。ただそれは、過去の情報が10年も経つと手に入らなくなっていくからこそ、面白かった。売っている当時はよく見たものが、10年後には「何それ見たことない」「いつの?」「どこの?」ってなるわけだから。でも今は10年経っても20年経っても、情報がずーっとネット上に残っているんですよね。

——検索すればすぐに、何年のどこのものか、分かってしまう。

藤原:情報に過去も未来もなくなって、みんな掘り起こしまくっているでしょう。そのせいで、寝かせることの面白さはだいぶ減ってしまった。なので、個人的には、過去においても未来においても、タイムラグがきちんとあって、そのことを楽しめるようになってほしいなと。そういう意味でも、「V.A.」はタイムラグの面白さがある、そういうお店になっていったらいいなと思っています。

■「V.A.」
オープン日:2024年12月15日
営業時間:10:00〜20:00
住所:東京都渋谷区神宮前6-1-9
定休日:不定

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