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米コスメブランド「グロシエ」が21年の売上高26%減から73%増とV字回復 カギは“D2C”からの脱却

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米国発D2Cビューティブランド「グロシエ(GLOSSIER)」が、低迷時期を脱し再び躍進を遂げている。ピンクを基調としたメイクアイテムがミレニアム世代を中心に支持されたもののその人気は陰りを見せ、2021年の売り上げは前年比26%減と低迷していた。ところが23年には同73%増とV字回復を遂げる。また業界筋は24年の総売り上げを約2億7500万ドル(約37億円)と推定し、今後さらなる成長が見込まれるという。復活のカギをひもとく。
 

「グロシエ」は、エミリー・ワイス(Emily Weiss)創設者(現エグゼクティブ・チェアマン)が14年に創業。「SKIN FIRST. MAKEUP SECOND」をブランド理念に掲げ、当時は画期的だったほとんど何もメイクしていないようなナチュラルな仕上がりをかなえる商品群がミレニアル世代を中心にカルト的な人気を誇った。企業評価額は18億ドル(約2430億円)としてこれまで総額2億6500万ドル(約35億円)の資金を調達するなど、ユニコーン企業としても注目を集めていたが、ここ数年人気が低下していた。
 

内部告発による業績低迷

 

 
低迷の引き金となったのは、20年に元従業員がインスタグラムの匿名アカウントを開設し、同社にはびこっていた人種差別、パワハラ、悪質な労働環境などを内部告発したことだった。またニューヨークを拠点とするジャーナリスト、マリサ・メルツァー(Marisa Meltzer)が同社の内情にまつわる暴露本を出版したことでも話題をさらった。同著は同社の採用基準の甘さ、急激なビジネスの拡大、精彩を欠いた商品開発、さらには19年に誕生した姉妹ブランド「グロシエ プレイ(GLOSSIER PLAY)」(1年後に休止)に至る一連の失敗を指摘している。
 

 
ワイス=創設者は元従業員の告発を受け、公式に謝罪し改善を約束した。22年5月にはCEOを退任し、「コール ハーン(COLE HAAN)」出身のカイル・レイヒー(Kyle Leahy)最高経営責任者(CEO)がトップに就任。その後大幅な組織とビジネスモデルの再編に踏み切り、経営陣にはマリー・スーター(Marie Suter)=最高クリエイティブ責任者(CCO)、クレオ・マック(Kleo Mack)=最高マーケティング責任者(CMO)、チトラ・バリレッディ(Chitra Balireddi)=最高商務責任者(CCO)、セウン・ソディポ(Seun Sodipo)=最高財務責任者(CFO)、サラ・スチュアート(Sarah Stuart)=最高人事責任者(CPO)ら、大手テクノロジー企業や「シャネル(CHANEL)」「ロレアル(L’OREAL)」など美容業界で豊富な経験を持つ多様性に富んだ女性陣を迎えた。

 
さらにこれまで年4回だった新商品の発売を4~6週間ごとに増やし、商品開発にも力を入れている。過去に「色展開が限られている」と批判されたことを踏まえ、32色展開の“ストレッチ フルイド ファンデーション” (各34ドル=約4500円)の発売や、それに伴い12色展開だった既存品の“ストレッチ バーム コンシーラー”(各22ドル=約2900円)も32色に拡大するなど、顧客の声を反映させた。またスター商品であるフレグランス“ユー”(68ドル=約9100円)の新コレクションとして、 “ユー・レーヴ(You Rêve)”と“ユー・ドゥ(You Doux)”を発売。“ユー”の香りのデオドラントが登場すると、1万8000人の予約待ちとなるほど人気を呼んだ。
 
 

オムニチャネル改革で卸売に参入

 
特に大きく軌道修正に寄与したのは、ブランドの中核であった自社ECと直営店のみを販路とするD2Cビジネスモデルからの脱却だ。同社は長年卸売を避けてきたが、創業以来初の卸売販売のパートナーシップとして、23年2月に化粧品小売のセフォラ(SEPHORA)と提携。米国とカナダの600店舗でスタートし、半年後にロンドンの2店舗でも展開を開始した。レイヒーCEOは、「依然として当社の売り上げの大部分は自社チャネルによるもので、それらが顧客体験にとって非常に重要な位置付けであることに変わりない。だがセフォラとの提携によって、より多くの人々にリーチし、『グロシエ』の世界観を体験してもらうことはブランドのさらなる成長に欠かせない」と述べている。
 
さらに昨年はイギリスとアイルランド全土に展開する美容小売店スペースNK(SPACE NK)やオーストラリアとニュージーランドに展開する大手コスメショップ、メッカ(MECCA)とも提携。グローバル規模での小売り拡大を進めつつ、ウェブサイトの再プラットフォーム化や直営店の拡大、日本を含む世界180カ国以上への国際配送にも着手するなど、OMO(オフラインとオンラインの融合)を軸とした顧客体験とオムニチャネル強化を加速させている。
 

顧客主導でブランドコミュニティー形成

 
一方で、創業から一貫したブランディングや、商品開発においていち早く顧客主導のマーケティング戦略を取り入れてきたブランドの姿勢は変わらない。ブログやSNSで定期的に交流を図り、ユーザーのリアルなフィードバックを商品に反映させ、インスタグラムではUGC(ユーザー生成コンテンツ)を積極的にリポストする。こうして誰もが「コミュニティーの一員になれる」感覚を生み出すことで、顧客のブランドに対するロイヤリティーをさらに深めることに成功している。
 
もともとはインスタグラムをメインツールにミレニアル世代のファンを取り込んできた同ブランドだが、近年はTikTokでの成長も著しい。インフルエンサー・マーケティング・プラットフォームのクリエイターIQによれば、TikTokでハッシュタグ「#glossier」は22億回検索され、TikTok内での売り上げは同138%増加している。両プラットフォームを通じてミレニアル世代とZ世代からの根強い人気が拡大し続け、ブランドの成長を押し上げていることがわかる。
 

100年続くグローバルブランドへ

 
昨年創業10周年を迎えた同社は “世代を超えて100年続くブランド”を掲げ、一度は停滞したもののCEOの交代を伴う組織再編や改革により、再び浮上している。“D2Cのパイオニア”から、今やグローバルブランドとして業界の主要なプレイヤーに成長した「グロシエ」だが、現在も未上場でいずれのコングロマリットにも属していない。米「WWD」によれば同ブランドがIPOを見据えて最近モルガン・スタンレー(MORGAN STANLEY)を雇ったという噂もあり、今後の動きにますます注目が集まる。
 
 

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