ファッション
特集 25年展望&24年総決算 第9回 / 全18回

先行企業による開拓進む 3Dアイテム流通拡大に期待【25年バーチャルファッション展望】

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コロナ禍の巣篭もり生活を背景に一時はブームとなったメタバース事業だが、ファッションやビューティ企業が参入する際の最適解はまだ見えていない。しかし、やり続けている企業には、一定の成果と展望が見え始めている。(この記事は「WWDJAPAN」2024年12月30日&25年1月6日合併号からの抜粋です)

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バーチャルファッション

記者はこう見る

小田島千春/副編集長

小田島千春/副編集長

2024年、印象に残った取材

VTuber特集(12月9日号)取材では、「VTuberとコラボするとそんなに売れるのか」と驚いたが、表紙の星街すいせい効果で特集号も爆売れ。まさにVTuberとファンダムのパワーを体感した。

2025年はこんな取材がしたい

ファッション業界出身の3Dモデラーの取材。J.フロント リテイリングで日々Apple Vision Proを使いながら、その活用を考えている人たちがいるらしいので、その人たちの取材もしたい。

J.フロントが模索する「リアルとの融合」 3Dアイテムの流通拡大にも期待

2024年はJ.フロント リテイリングのXR(エクステンデッドリアリティ)への取り組みの本気度が見えた年だった。まず、4月にKDDI、スタイリー、コンデナスト・ジャパンと共に、空間コンピューターApple Vision Proの活用を想定した共創型オープンイノベーションラボを設立。リアルとバーチャルが融合した世界でどんな体験が提供できるのか。価格的にも機能的にもまだまだ課題が多いApple Vision Proだが、この技術の延長線上にある世界線に向けて、先陣を切る。25年は体験イベントを計画する。

また、傘下の大丸松坂屋百貨店は5月、メタバースについて知識を深め、ビジネス活用の可能性を探求する場としてメタバース ビジネス ソサエティー(以下、MBS)を始動。8月に第1回サミット(有料)を開催し、交流会も行った。現在25社が参加する。同社は23年からオリジナル3Dアバターと衣装を販売。24年はファッションショーを開催した。衣装を増やすにつれて、アバターも含めて3Dアイテムが売れるようになってきているという。

J.フロントが模索しているのは、「リアルとメタバースが融合する世界」だ。「(「ポケモンセンターシブヤ」や「ニンテンドートウキョウ」がある)渋谷パルコの6階のような売り場は近い将来、その世界に入り込んで、体験しながら買い物を楽しめるような時代が来ると思う」と林直孝執行役常務デジタル戦略統括部長。「商業施設とメタバースが掛け合わさることで、リアルとメタバースを行ったり来たりできたり、実際の建物の中にデジタルの情報を重ねることで商業施設がエンタメの場になったりするだろう」。グループとしての強みを生かしながら、他社も多く巻き込んで“未来”を模索する。

アダストリアでは、23年に発売した3Dアパレルが130万円を売るヒットになるなど、実績が出始めている。同社は4月、3Dファッションアイテムに特化したマーケットプレイス「スタイモアー」をオープン。EC「アンドエスティ」同様、バーチャルファッションでもプラットフォーマーとなることを狙う。クリエイターやブランドの出店を募りつつ、自社でも限定品を用意。スナップ記事の掲載など、メディアとしても機能させ始めている。

バーチャルアイテムの展開を拡大したい同社だが、量産化がボトルネックだとしている。24年はリアルアパレル製作の際に使用される3DソフトウェアCLOで作ったデータをバーチャルアイテムへの転換に生かす技術を採用し始めた。産学共同での人材育成も含めて、バーチャルアイテムを量産化できる体制作りを模索する。

伊藤忠商事もバーチャルアイテムの流通拡大に注目している。9月にメタバース空間上のバーチャルアイテムを企画・制作・販売するスタートアップ企業のVと資本業務提携を締結。バーチャルアイテムの販売には国境がなく、在庫の心配もない。さまざまなブランドを抱える同社だけに、今後の展開が楽しみだ。

ビームスは、5月に初のオリジナルワールド「トーキョームード by ビームス」を公開。VR映画スタジオのカデシュ・プロジェクトと協業し、架空の繁華街を作った。セレクトショップ、ビームスらしい美意識が反映された空間になっており、シーズンごとに雰囲気が変わる。撮影スポットとして多くのオシャレなユーザーを集めており、イベントも多数開催。公開から延べ10万を超える来訪者を得た。

アバターや衣装の選択肢は確実に増えており、ファッションを楽しむカルチャーも醸成されてきている。「売れる」が可視化されると、さらに盛り上がる可能性がありそうだ。また、3Dと2Dとリアルをつなぐ存在としてVTuberの存在にも注目したい。

メタバース事業を読み解く上で
振り返っておきたいニュース3選

専門家はこう見る

藤嶋陽子/立命館大学 産業社会学部 准教授

藤嶋陽子/立命館大学 産業社会学部 准教授

PROFILE:(ふじしま・ようこ)東京大学大学院学際情報学府満期退学。ロンドン芸術大学セントラルマーチンズでファッションデザインを学んだのち、ZOZO研究所リサーチサイエンティスト、明治大学商学部特任講師を経て現職。Synflux執行役員CCOなども兼務

「壮大な期待感」には一区切り リアルな服作りにどう使うのかに注目

2024年を振り返って印象的だったのは、RTFKT(アーティファクト)のサービス終了のニュースだ。19年ぐらいからのバーチャルファッションの盛り上がりに一区切りを感じた。ただ、バーチャルファッションの試みが終わったかというと、そうではなく、VRChatを中心にブランド・企業が積み重ねてきたものの蓄積は厚く、今後も継続していくと考えている。ただ、あらゆる人が楽しむようになる!といった「バーチャルファッションへの壮大な期待」には一時的な区切りがついた年だったと思う。

「ラコステ」や「ドルチェ&ガッバーナ」などのNFTプロジェクトも続報を聞くこともほとんどなく、コロナの収束とともにフィジカルな世界への揺り戻しもあった。

その一方で、しまむらのAIモデル・ルナの登場も印象的だった。しまむらは、モデルを手配し、着付けて撮影するといった作業を迅速化・コストカットするためと明示して活用を進めており、AIモデルの活用を着実に押し進めていく実践的な事例だと感じた。

3Dモデリングなどのデジタル技術を扱える人材の育成についての動きにも注目だ。特に文化服装学院が4月に「バーチャルファッションコース」を新設したのは、業界で求められるスキルとしての定着を感じた。デジタルツールを学ぶことは他業種との共通言語になる。既存のファッションのパターンメイキングや縫製だけではなく、デジタルツールが使えることは、ファッションのつくり手となる人の考え方や姿勢、職能的な有効性、「ファッションを学ぶ」ところにも影響があるのでは。

また、平芳裕子さんの新書「東大ファッション論集中講義」(筑摩書房)が大きな話題になったことで、ファッションについて考え、学ぶことへの関心が広範囲に広まっていることも感じた。

個人的には、メタバースでのファッションよりも、デジタル技術をリアルな服作りにどう使い、どうアップデートしていくのかに注目している。

25年について考えると、製品のライフサイクルを通じた環境負荷を定量的に評価するライフサイクルアセスメント(LCA)や、持続可能性に関する情報を電子的に記録するデジタルプロダクトパスポート(DPP)への対応が一層進んでいくはずだ。そのためには、製造環境全般をデジタル化する必要がある。サステナビリティという喫緊の課題の中で、設計プロセスや流通、消費の多様なプロセスがデジタル化していくとなると、新たな価値やビジネスモデルが生まれる可能性がある分野として、期待している。

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