PROFILE: 杉山日向子/アーティスト
印象的な自画像で注目を集める新鋭アーティスト、杉山日向子による個展「Mirror Play」が渋谷パルコ4階の「パルコミュージアム トーキョー」で1月13日まで開催中だ。同展は新作絵画を中心に20点以上を展示する。
もともと自画像を描き始めたのは、「他人から容姿について誹謗中傷されたことへの反発から。最初は自分を守るために、他人の評価を否定するような形で自画像を描いていた」という杉山だが、新作では自分だけではなく、他者に寄り添う気持ちが強くなったという。
「ルッキズムが問題になっている今、自分をどんな形でも表面的に受け入れることが大切だと感じるようになった。外見や容姿に対する期待をどう求めるかは自由だけど、とりあえずは今の自分を受け入れることが鍵になると思っている」とステートメントにあるように、「今の自分を肯定する」、そんなメッセージが新作には込められている。
今回、杉山の今までの経歴を振り返りつつ、個展「Mirror Play」について話を聞いた。
WWD:杉山さんが絵を描き始めたきっかけは?
杉山日向子(以下、杉山): 小学生のころから絵が描くのは好きで、絵の教室に通っていました。その延長で中・高は美術系の学校に通って、大学は2浪して東京藝大に進学しました。
WWD:油画専攻を選んだ理由は?
杉山:アクリル絵の具が全然扱えなくて、一番得意だったのが油絵だったのと、油絵は制約がなくて、好きなことを自由に表現できるので選びました。
WWD:今の作品のように自画像を描くようになったのはいつごろからですか?
杉山:大学3年生ごろです。私は2浪して入学したこともあって、藝大に入った時点で、満足してしまっていて。同級生がどんどんその人らしい作風を見つけて、作品を作っているのに、自分はどんな作品を作ればいいのか分からなくて、2年生ごろまでは迷走していました。
自画像を描き始めたのは、最初は自分の見た目のコンプレックスからです。他人から容姿について誹謗中傷されて、当時は超絶尖っていて、「見返してやりたい」と怒りの気持ちで描き始めました。その時は「その作風」で評価されたいって気持ちもありました。
でも、今回の展示のステートメントにも書いたのですが、今はもう少し人に寄り添いたいというか、SNSって超ルッキズムが強い投稿がいっぱいあって、そういう投稿を見ているうちに、「きれいでも、かわいいでも、美しいでも、自分の理想を求めるのは自由だけど、自分が自分で満足できればいいよね」っていう気持ちが大きくなって。私も自画像を描いているのに、あまり自分には自信がないんですが、それでも私の作品を見て、「こういう人もいるんだ、 面白いね」とか「(人の意見を気にせず)自分は自分でいいよね」とか、思ってくれれば、それがうれしいです。
あと、誰かを描く時って、いろんなことを考慮しないといけないんですが、自分だと気を使わなくていいし、しかも無料だしってことで、なんとなく自画像を描き始めたのもあります。でも、初期の作品って、自画像といいつつ、少し加工していて、ちゃんと自分を描いていないんですよね。
WWD:NHK大河ドラマ「麒麟がくる」の背景を描いたのは、自画像を描き始める前ですか?
杉山:そうです。まだ大学に入ったばっかりのころで、迷走している時期でした。私が浪人時代に描いていた絵を、アートディレクションを担当した奥山由之さんが見て、選んでくれました。それまで奥山さんとは面識がなく、急に依頼が来たので、びっくりしましたね。時間もなかったので、依頼が来て、次の日にはもう打ち合わせをして、すぐ制作に入ってという感じで、依頼から完成まで1ヵ月もなかったと思います。
「モノボケみたいな感じで考えてます」
杉山:「Mirror Play」は、今回のキービジュアルにも使っている作品の作品名なのですが、私の作風が“鏡遊び”みたいなのと、あまり聞いたこと言葉だったので、ちょっとスラングっぽくて面白いかなと思って、「Mirror Play」にしました。
WWD:今回の展示では新作も多く描かれていますね。
杉山:改めて、初期の作品から新作までを展示してみると、新作は全体的に彩度が低めになっていますね。自分の気持ちの変化もあって、色使いやポーズも変わっているのはすごく感じました。自分で描いたくせに、あまり自分のことって分かんないですよね。
WWD:色使いや衣装を含めて、全体的にシンプルになっていると感じました。
杉山:先ほども言ったんですけど、最初に自画像を描き始めた時は本当に尖っていて、「私はやることやってるんだよ。お前は何をやっているだ」みたいな怒りの気持ちが強くて。今はその気持ちも薄れてきたので、だから全体的に作品も落ち着いてきたのかなって思います。
WWD:杉山さんの作品はポーズにどこか違和感があって、面白いです。
杉山:まず自分でポーズを決めて、写真を撮って、それをもとに絵を描き始めるんですけど、ポーズを考える時は、体や影の形がかっこよくなるように、というのは心掛けています。でも、撮影中はずっと同じポーズをしなくちゃいけないので、結構腰とか痛くなるんですよね。それを何パターンか撮影して、撮ったものをパズルを組み合わせる感じで描いていくんですが、その組み合わせを考えるのが一番難しいです。
WWD:撮った写真でまずはコラージュを作ったりするんですか?
杉山:作らないですね。だから失敗する時もあります。絵を描き始めた時に、「なんか微妙かも」と思った時はうまくいかないことが多くて、一応最後まで描くんですけど、やっぱり納得がいかずに没にしています。最初にハマったと思ったら、結構順調に描けるんですけど。
WWD:撮影前にコンセプトは決めるんですか?
杉山:「今回はこの服を着て撮影しよう」とか「今回はヘルメットをかぶろう」とかは何となくワンテーマを決めて、そこからどう面白くするか、モノボケみたいな感じで考えていきます。だから「こんなことをやってる人がいて面白いな」ぐらいで見てもらえればいいかな。
WWD:ヘルメットをかぶっているプロフィール写真はインパクトがあります。ヘルメットを被るというところで、何かから自分を守りたいとか闘うっていう思いもあったんですか?
杉山:そこまで深い意味はなくて、作品用に撮った写真の中から没になった写真をそのままアーティスト写真にしています。なんか、かっこいいかなという感じで。
WWD:「Self Perfume 」 や「令和スナイパー」などタイトルもかなり面白くて、モノボケの話からも、お笑い好きの要素を感じます。やっぱりお笑い好きですか?
杉山:お笑い好きですね。今は例えば炎って芸人が好きです。新作を書いている時も「霜降り明星のANN」を聴きながら描いてました。
「絵を描く以外の仕事もやっていきたい」
WWD:以前、他メディアのインタビューで絵を描くのをやめようと思ったと話されていましたが?
杉山:多分このまま描かなくなるんだろうなっていう時期はありましたね。少し前はアートバブルで、若手の作品もすごく売れるみたいな感じだったけど、私の作品って、自画像というのもあって、小さい作品がたまに売れるぐらいでした。やっぱり売れても売れなくても描き続けるってことが、自分では難しいなってすごく実感して。このまま展示にも呼ばれなくなって、作品も売れなくなった時に、続けられるかって言われたら 現実的に無理だなって思いますし。そのインタビューの時も、多分そういう気持ちで言ったんだと思います。
WWD:今後、自画像以外の作品に挑戦したいという気持ちもありますか?
杉山:作品としては、自画像を描き続けたいとは思いますが、仕事としてはいろいろやっていきたいです。絵以外でも、立体や写真、アートディレクションにもすごく興味があります。ファッションも好きなので機会があったら、ファッション関連の仕事もやってみたいです。
PHOTOS:TAMEKI OSHIRO
■「Hinako Sugiyama solo exhibition “Mirror Play”」
会場:パルコミュージアム トーキョー(PARCO MUSEUM TOKYO)
会期:12月20日〜2025年1月13日
時間:11:00〜21:00 ※入場は閉場の30分前まで。最終日18時閉場
住所:東京都渋谷区宇田川町15-1 渋谷パルコ4階
料金:無料
https://art.parco.jp/museumtokyo/detail/?id=1620