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特集 メンズ・コレクション2025-26年秋冬

「オーラリー」“最も過小評価されている男”がパリコレで輝く理由 10周年もいつも通り

INDEX
  • 環境が激変した2024年
  • 着想源は1人の女性
  • 素材が奏でる優しいムード
  • これまでも、これからも

ブランド設立10周年を迎えた「オーラリー(AURALEE)」が、2025−26年秋冬コレクションをパリ・メンズ・ファッション・ウイークの公式スケジュールで現地時間1月21日に発表した。記念すべきショーのはずなのに、ランウエイにも、バックステージにも、祝祭ムードは一切ない。そこにあるのは、着る人の日常に寄り添う美しい洋服のみだった。ショー直前の舞台裏で岩井良太デザイナーは、「祝うつもりはない。『オーラリー』らしくないので」と淡々と語る。「着る人の心が少し明るくなったり、ささやかな高揚感を感じられる、本当にいいものを丁寧に作る――設立当初からのコンセプトは変わらず、これからも同じように服づくりに向き合っていきたい」。

環境が激変した2024年

岩井デザイナーの変わらない姿勢に対し、ブランドを取り巻く環境は過去1年で大きく変化した。転機となったのは1年前の24-25年秋冬シーズン。パリコレの公式スケジュールでの発表を、11回目にしてプレゼンテーションからショーに切り替えたことだ。そのショーが高い評価を得て、半年後となった昨年6月のショーもさらなる反響を呼び、大手海外メディアにショーのレビューが掲載され、海外からの取材や記事の掲載も格段に増えた。世界的にも影響力のある小売店の店頭でも花形的な位置に並び、25年春夏シーズンのアイテムには販売後すぐに完売した商品もある。

昨年発表された、大手海外メディア「ヴォーグ・ランウエイ(VOGUE RUNWAY)」の“最も過小評価されているデザイナー”投票で1位になった他、「GQ メン・オブ・ザ・イヤー 2024」も受賞。大変化の1年でも岩井デザイナーは「ブランドの認知が上がったことはうれしい」と言うだけ。その後は「今回のコレクションを見る人がどのように受け取るのか、不安で憂鬱。もしかしたら今回は失敗に終わるかもしれない」と続ける。ショー前の舞台裏での、やや曇りがちな表情も、「不安」という言葉も、数年前に取材した時から全く変わっていない。

着想源は1人の女性

今季のパリコレの開幕を飾る「オーラリー」の会場は、パリ中心地に位置する廃墟の中。人通りの多い道に面する大きなドアと窓を、「人影がうっすら見えるように」とスモークフィルムで覆った。プレゼンテーションで発表していた2年前までは空席があったり、ゲストがほとんど日本人だったりしたこともあったが、今季の会場内は座席も立ち見スペースも人で埋め尽くすほど満員御礼。熱気に包まれた状況のランウエイを最初に飾ったのは、タイドアップしたシャツの上からビンテージ風のライダースジャケットを羽織り、さらにカシミアのモールスキンのフォーマルなコートを重ねたスーツルック。序盤はネクタイとシャツのビジネスライクなスタイルが中心だ。合わせるのは、乾燥機で縮んでしまったようにタイトなクロップド丈のニットカーディガンや、着用回数を多く重ねて首回りが広がったような深いネックラインのニットウエア、長年着用しているように色あせたデニム素材のキャップと、経年変化を感じさせるアイテムを差し込む。

今季のコレクションで探究したのは、着用者のアイデンティティーがにじむパーソナルな装いだ。着想源は、昨シーズンのルックブックに起用した年上の女性モデル。岩井デザイナーは、「ある時はスーツルック、別の時には、年季の入ったバンドTシャツ。エレガントな装いと共に、学生の頃から好きでずっと着用しているのだろうと想像させるアイテムをまとう、彼女の私服が素敵だった。使い古した洋服を通して、その人のチャーミングな一面を垣間見た気分になり、洋服は人の歴史を語るものだと思った」と説明した。

コレクションの全41ルックは、ビジネスライクからカジュアルな日常着、イヴニングウエアまで、グラデーションのように変化した。使い古した風合いはシワや色あせたダメージ加工だけでなく、型崩れしたように構築的なニットウエア、ペンキで汚れたペインターパンツで、着る人の洋服に対する愛着心として表現している。洗濯方法を間違えて縮んでしまっても着続けるニットウエアや、体が成長してサイズが変わっても気に入っているジップアップパーカは丈が短めで、アウターもクロップド丈でボトムスはハイウエストと、プロポーションの変化にパーソナルなストーリーを重ねた。

素材が奏でる優しいムード

カラーパレットは、シアー素材のパウダーカラーのニットのレイヤードで、ブランドらしい優しい音色を奏でる。そして、ブラックとさまざまな色調のグレーという落ち着いた色彩も加え、エレガントな印象に磨きをかけた。ダークトーン中心とはいえ、実際の着心地や視覚的にも軽やかな仕上がりだ。アウターの生地には保温性の高いメルトンや、カシミアと並ぶ高級天然毛のベビーキャメルを用いて、ニットには最高峰のカシミアと希少性の高いベビーアルパカを採用。スエットに見えるハーフジップのトップスには洗濯機洗い可能な100%シルク、ブルゾンの襟とインナーに着用したベストに柔らかい手触りのラムムートンを用いるなど、持ち前の生地開発力を生かして多彩なバリエーションの質感を作り出した。

バッグブランド「アエタ(AETA)」と継続しているコラボレーションでは、横長サイズのショルダーバッグに加え、幼い頃から愛用していて手放せないバッグをイメージした、ポップな配色のバックパックを制作。19年から協業する「ニューバランス(NEW BALANCE)」とのコラボレーションスニーカーは、テニスシューズ“T500”のスタイルを採用し、カラーはブラウンとライムグリーンをそろえた。パイロットシューズとワークブーツを掛け合わせたレザーブーツを男女で共有し、定評のあるアクセサリー使いには、肩からぶら下げるミトンと、ざっくり被るローゲージのビーニー、差し色となるコンパクトなマフラーをゆるく巻いて、ノンシャランなムードを加えた。ショー後に残ったのは、心の奥の柔らかな部分をなでられたような、いつまでも浸っていたい甘美な後味だった。

これまでも、これからも

記念すべき10周年のショーは、拍手喝采だった。フィナーレに登場した岩井デザイナーは、実るほどに頭を垂れる稲穂のように、90度以上の深いお辞儀でその拍手に応えた。今や世界的なデザイナーへと成長しつつある岩井良太は、ショー後もすぐに胸をなで下ろすことはできない。多くのジャーナリストが彼の言葉を聞こうと、バックステージで囲み取材が始まるからだ。「市場や他人にとっては価値がなくても、長年手放せない愛着心を抱く使い古したもの。そんな自分にとって価値のある洋服を、モダンなワードローブと組み合わせるというのが今季のムードだった。願わくば、『オーラリー』の洋服がそうであってほしい」と岩井デザイナー。彼が作る時を超越する上質な洋服は、個々の日常にそっと寄り添い、人生の物語の一部となり、その味わい深さは愛着心とともに増していくことになる。11年目のスタートは、「オーラリー」らしくひっそりと静かに幕を開けた。

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