「ケイタマルヤマ(KEITAMARUYAMA)」は1994年に誕生し、今年で30周年。丸山敬太デザイナーは動植物で飾ったテキスタイルや、和洋中の要素を融合したデザインで、“晴れの日に着る洋服”を作ってきた。しかし多幸感溢れる表現の陰では、幾度の困難も克服してきた。酸いも甘いも知りながら、それでもなお「楽しいことを生み出したい」とする彼の人生譚とは。
大きな揺れが日本を襲った時、僕はちょうどPR担当者と会議の真っ最中だった。2011-12年秋冬コレクションの準備も大詰めで、東京コレクションに向けてモデルオーディションを次の日に控えていた。そんな中での東日本大震災は、当たり前に思われた日常を人々から奪い去る。「ケイタマルヤマ」の縫製工場は東北地方にあったから、津波被害を大きく受けた。すでに量産態勢に入っていた前シーズンの受注分は4割が浸水し、店頭に並べられなくなった。
災害時にファッションにできることなどない—むなしさにひどく落ち込む中、とある手紙をふと思い出す。1995年の阪神淡路大震災の後に、被災したお客さまから届いたものだった。“避難明けに半壊した自宅に帰り、倒れたタンスを開けると、『ケイタマルヤマ』のデビューコレクションがあった。お金をためて買った服を見た瞬間に勇気が湧いてきた……”。今回の震災でも僕にできるのは、日常を取り戻そうと発信し続けることかもしれない。中止寸前まで追い込まれたショーだったが、1カ月遅れて実施することに。もともと、山口百恵さんの楽曲「ロックンロールウィドウ」に着想し、黒一色のコレクションを想定していたところに、急きょカラフルなバージョンの全く同じスタイルを加えた。色の対比が効いた、楽しくてハッピーなランウエイになった。
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