PROFILE: 藤原憲太郎/社長 CEO
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藤原憲太郎社長CEOの指揮のもと、資生堂は変化の激しい市場環境に適応しながら安定した成長を追求する新たな道筋を描いている。2025年は事業基盤再構築に全力で挑み、新たな成長のステージへと歩みを進める。
藤原新体制が始動
「変わらないために変わり続ける」
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WWD:2024年は日本事業が力強く成長した。
藤原憲太郎社長CEO(以下、藤原):日本事業は活気を取り戻した1年だった。日本事業が元気になることで、資生堂全体が元気になると思う。厳しい構造改革と成長戦略という一見相反する挑戦をしているが、どちらも順調に進展している。特にコアブランドの成長が目覚ましく、全体を押し上げる原動力となった。ヒット製品を生み出し、価値創造の面でも成果を出している。
WWD:日本事業の改革が進んでいる。
藤原:日本は「持続的な成長」「稼ぐ力」「生活者起点」の3つをテーマとして掲げ、これまでの活動を見直した。この3つの視点を基に、これまでの取り組みを続けるべきか、それとも変えるべきかをレビューしている。特に稼ぐ力については、組織内での意識改革が必要だった。そこで昨年、全国の店頭で働く6000人のパーソナルビューティーパートナー(以下、PBP)に5カ月かけて、稼ぐ力の本質を伝えた。損益計算書の仕組みとPBPの活動をリンクさせた教育を行い、稼ぐことのメリットを最初に享受できるのは自分自身であることを強調した。稼ぐことは決して後ろめたいことではない。まずは自分たちが幸せになることが重要で、そうすると取引先やお客さまにも波及し、事業成長につながる。これらを理解してもらうことに多くの時間を費やしてきた。
WWD:海外事業に目を向けると。
藤原:地域によって課題と成果が交錯した1年だった。欧州ではスキンケアとフレグランスともに好調で、現在は2ケタ成長を見込んでいる。一方、米州では主力の「ドランク エレファント」で上期に一時的な生産減・出荷減が生じ、売り上げに課題を残す結果となった。中国とトラベルリテール事業もまた、複雑な局面を迎えた。全体的に停滞が続く中国市場の中で、「クレ・ド・ポー ボーテ」と「ナーズ」は堅調な成長を見せており、回復が遅れている一部のブランドについては、今後の課題だと認識している。この1年で得られた教訓は、市場の不確実性を前提にした経営の必要性だ。これまでのように特定の市場が全体をけん引する成長モデルに頼るのではなく、不安定な環境下でもいかに成長を実現するかが問われた1年だった。
WWD:不安定な時代の中で重要なバリューとは。
藤原:最後は本物が残る。長らく事業を担当していた中国は、テクノロジーとデジタルの力を活用しながら成長を遂げてきた。しかしAIが台頭し、価値創造はますます模倣され、その精度や確度は高まるだろう。このような状況下で、ブランドや製品が持つ“本物”であることの重要性は一層増している。われわれは本来、“本物”であることを一番大切にしており得意であるはずだ。生活者のことを真に考え、心から良いモノをつくり出すという技術力や情熱は、何よりも大切にしなければならない。この「つくる力」に加え、消費者に「届ける力」も欠かせない要素である。
WWD:「届ける力」はどう拡張するのか。
藤原:新製品を投入することで売り上げ増加を見込むという従来のビジネスモデルから脱却を図っている。昨年ヒットした美容液ファンデーションの展開は、その一例として挙げられる。採用した技術自体は2年前から存在していたが、コミュニケーションを革新したことで新しい価値として再定義し、市場での成功につなげた。われわれの技術力は世界的に評価されている。それを迅速に消費者に届けるには、いかにスピーディーに価値創造を実現するかが重要である。「本物を届ける」というプライドを持ち、それを事業の根幹に据えることが、厳しい競争環境を生き抜くための鍵になると強く感じている。
WWD:現場力も高める。
藤原:経営を現場に返したいと考えている。現在のような不安定な時代には、経営は本社が行うものではなく、現場が主導すべきだ。特に営業は最前線でモノを売る役割を担っているからこそ、現場主導の経営は本来やりがいがあり楽しいはず。そこで今年から新たな挑戦として、19の戦略単位をつくり、それぞれのトップが利益の責任を負える仕組みを導入した。各現場の判断で投資を決め、リターンを考えながら利益をコントロールすることを可能とした。全く新しい挑戦であるため、リーダーシップチームのレギュレーションをつくり、不安や批判的な意見も受け止めながら一緒に進んでいく体制を構築している。一方で本社の機能は、ゆくゆくは価値創造に特化していくだろう。
WWD:25年からは藤原新体制となる。展望は。
藤原:資生堂のDNAを継承し、変わらないために変わり続ける。そして、美しいものを美しいと言える組織でありたい。ビューティーカンパニーとして美を語り合う議論を絶やさず続けることが、価値創造にもつながるはずだ。
実現の可能性はゼロじゃない私の夢
子どものころからの夢は「宝探し」。歴史的秘宝など、当時宝を持っていた人の生活や文化を想像するのが楽しいからだ。自身の海外経験も重なり、世界中の人々の暮らしに根差す文化や価値観を考えると、宝探しの魅力が一層増していく。
1872年創業。現在では約120の国と地域で事業を展開する。2024年に、変化の激しい市場でも安定的な利益拡大を実現するレジリエントな事業構造への進化に挑む2カ年計画「SHIFT 2025 and Beyond アクションプラン2025-2026」を策定。革新へ挑み続け、世界で勝てる日本発のグローバルビューティーカンパニーを目指す