ビジネス
特集 CEO2025 ビューティ編

【コーセー 小林一俊 社長】脱・自前でグローバル化加速 協業などで持続的な未来へ

INDEX
  • PROFILE: 小林一俊/社長
  • M&Aや提携でブランドポートフォリオをより強固に
  • 実現の可能性はゼロじゃない私の夢

PROFILE: 小林一俊/社長

小林一俊/社長
PROFILE: (こばやし・かずとし)1962年生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、86年にコーセーに入社。91年に取締役マーティング副本部長兼宣伝部長、2004年から副社長を務める。07年から現職。就任直後に「守りの改革」と「攻めの改革」を実行し、V字回復を実現。現在、「Your Lifelong Beauty Partner」を掲げ、一人一人の生涯を彩る活動を推進している PHTO : SHUHEI SHINE

2026年に創業80周年を迎えるコーセーは、純粋持株会社体制への移行を表明した。グループのシナジーを極大化するとともにグローバルでの事業成長と基盤再構築を目指し、同社は“自前主義”脱却へと大きく舵を切る。

M&Aや提携でブランドポートフォリオをより強固に

WWD:昨年、中長期ビジョン「Vison for Lifelong Beauty Partner-Milestone2030」を発表した。

小林一俊社長(以下、小林):30年をマイルストーンとした大きな転換となる指針だ。当社と同じ思いを持つ企業やブランドと相互的な連携を図り、持続的な成長と企業価値向上を目指す「ビューティコンソーシアム構想」の実現を目的とする。これまで研究開発、生産、販促などあらゆる面において自社のリソースで完結することを信条としてきたが、今の時代それが強みになるとは限らない。そこでグローバル戦略の突破口として“脱・自前”に踏み切ることにした。他社と手を組み、当社にない知見を積極的に取り入れ、さらに地域に根付いたブランドを獲得するM&Aや提携によって当社のポートフォリオをより強固にしていくことを目指す。

WWD:タイ発のウェルネスブランド「パンピューリ(PANPURI)」を買収した。その狙いは?

小林:当社が注力するウェルネス領域との親和性も高く、最優先市場となるグローバルサウスを攻略するための一手である。オリエンタルな世界観と香りを打ち出す「パンピューリ」の製品は中国人観光客にも非常に人気があり、現在低調傾向にある中華圏からの需要も見込めるだろう。ありがたいことに百貨店や化粧品専門店からの問い合わせが殺到している。しかしまずはタイ国内でスパブランドである独自の世界観をじっくりと浸透させつつ、グローバルサウスでの展開に注力する。今後もグローバルサウスや欧米での当社のプレゼンスを高めるべく、さらなるM&Aや提携を進めていく。

WWD:30年には海外売り上げ比率を50%以上まで引き上げることを掲げる。

小林:そのためには現地起点のモノ作りやマーケティングも不可欠だ。これまでは日本で企画、開発、製造したメード・イン・ジャパンを強みとしてグローバル展開を推し進めていたため、なかなか海外に根付かせることが難しかった。今後は、モノ作りのローカライズや現地法人への権限移譲も進めていく。さらに、成分やエビデンス重視というグローバルでのトレンドに即応することでスピーディーな韓国コスメに太刀打ちしていくことも急務といえる。当社の厳格な品質基準のため自社製造では難しいものも多かったが、これも“脱・自前”を目指し、最先端の化粧品製造技術やトレンドを知り尽くす海外の大手ODM・OBMメーカーを積極的に活用すればより生産性を上げられるだろう。一方で、昨年7月には山梨県に「南アルプス工場」の建設を開始した。これに伴い、コーセー、生産子会社コーセーインダストリーズ、山梨県の3者で山梨県の豊かな水資源活用による持続可能な社会構築に向けた連携に基本合意した。日本の地産地消モデル工場として発展させていく。南アルプスから湧き出る清冽な水を活用した化粧品はこの土地でしか生み出せない。世界に誇れる唯一無二の価値を提供できるはずだ。

WWD:最近はブランド担当者の顔が生き生きしていると外部からも評判だ。

小林:ここ数年で取り組んでいる組織改革の成果が出てきた。ブランドごとに企画から販促、PRまで一気通貫して取り組める組織体制になったことで、各々が自律的に判断する姿勢が強まった。18年も社長職に就いているおかげで方針がぶれず社員に浸透するのも早くなっている。米MLBロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手に広告出演いただいている「コスメデコルテ(DECORTE)」が表参道エリアをジャックした大型プロモーションは若手の男性社員が企画したもの。若手にも積極的に意見を出してもらい、ブランドの担当者として力をどんどん発揮してもらいたい。

WWD:利益創出にも力を入れる。そのための課題は?

小林:コロナ禍の攻めの戦略として、「コスメデコルテ」「雪肌精(SEKKISEI)」などで広告やプロモーションを積極的に投下した。一定の成果も残せたので、今後は事業の収益性、効率性改善のため、財務面を引き締め、「稼ぐ力」に磨きをかけ新たな市場攻略に振り向けていく。

WWD:25年以降はどんな可能性を見据えている?

小林:iPS細胞技術を活用したパーソナライズ美容製品の開発に向け、アイ・ピースとレジュの2社と技術提携し、医療機関を通じて提供するプロジェクトも始動した。これを機に美容医療分野や異業種からの引き合いも増えた。今後は大学研究機関やODMメーカーとの提携などもありうるだろう。“Your Lifelong Beauty Partner”のビジョンの下、多様なウェルビーイング製品や体験を提供する事業会社を傘下に置く“ホールディングスカンパニー”を目指していく。化粧品の枠を超えて一人一人の健康と美しさを彩る、そんな可能性に満ちた未来を描いている。

実現の可能性はゼロじゃない私の夢

『朝の連ドラにコーセー』

NHKの朝の連続テレビ小説で創業者の奮闘ぶりなどを題材にしてもらう。日本の化粧文化や当社の歴史を日本国民に知ってもらうための良い機会になるだろう。キャスティングや配役も勝手に頭に描いており、ぜひとも実現させたい。

COMPANY DATA
コーセー

1946年に、小林孝三郎氏が化粧品の製造販売を行う小林合名会社を創業。48年小林コーセーを設立。60年代後半から香港、シンガポールなどアジア市場を皮切りに、北米、欧州にも積極的に進出。91年CIを導入し、コーセーに社名変更。企業メッセージとして「美しい知恵 人へ、地球へ。」を掲げ、あらゆる活動に組み込むと共に、一人一人の美しさを大切にするアダプタビリティの観点における価値提供を推進している。ブランドは「コスメデコルテ」「雪肌精」「アディクション(ADDICTION)」など


問い合わせ先
コーセー
03-3273-1511