PROFILE: 保元道宣/社長
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オンワードホールディングスは、昨年9月にカジュアルウエアのウィゴーを子会社化した。ウィゴーの売上高は283億円(2024年2月期)。これを保元道宣社長は「オンワードとの相乗効果で、中長期的に500億円に引き上げる」と話す。自信の裏付けは、業界をリードするOMO(オンラインとオフラインの融合)の知見だ。
ウィゴーとのシナジーを
最大限に生かす
WWD:ウィゴーの子会社化の狙いは?
保元道宣社長(以下、保元):オンワードの多様性を加速させるためだ。ウィゴーの顧客基盤は10代の中高生から20代前半で、オンワードにとっては手薄な世代だ。登録会員数(24年2月末時点)もオンワードの530万人に、ウィゴーの340万人が加わって約870万人に拡大する。社員も若く、SNS運用に優れており、学ぶべき点が多い。一方で自社ECの強みを生かしたOMOやサプライチェーン、財務に関しては当社に強みがある。補完し合うことで大きなシナジーが見込める。そして海外市場でも期待できる。
WWD:ウィゴーでアジア市場に進出する?
保元:ASEANをはじめアジアは若い人の人口構成が高く、ウィゴーの可能性を最大化できる市場だ。昨年10月に中国・上海で6日間のポップアップを開いた。推し活グッズとして人気の“痛バ(痛バッグ)”に絞ったイベントで、来店はネットでの予約のみに限定したが、約2万人の枠があっという間に埋まり、売上高も約1億円になった。若者文化に国境はなく、推し活の熱気はすさまじい。
WWD:常設店の出店予定は?
保元:将来的には考えられるが、従来のように常設店の数にこだわらなくてもよい。SNSやイベントでもお客さまとの関係はしっかり築けるからだ。中国、台湾、韓国、それにASEAN各国。国ごとに市場特性も異なるため、まずは出店にかかる投資をSNSやイベントに振り分ける。越境ECにも大きな可能性がある。
WWD:複数のブランドを集めたOMO業態「オンワード・クローゼットセレクト(OCS)」は、21年に出店を始めて現在は全国159店舗(24年11月末)に拡大した。
保元:手応えがある。岩手県の川徳のような地方百貨店から大丸東京店のような都心百貨店、あるいは郊外のショッピングセンター(SC)まで。百貨店向けブランドは百貨店でしか売れないという固定観念があったが、百貨店向けの「23区」がSCでも売れる。お客さまにとって選択肢が増えるだけでなく、クリック&トライ(C&T)によって店頭にない商品の取り寄せもうまく活用されている。一つの商業施設にブランドごとに複数の店舗を出していたときと比べて生産性が高い。生産性が上がれば賃金も上げられる。24年に販売職の10%の賃上げを実施したのに続き、25年はデザイナー、パタンナーなどの技術職の初任給を3.3万円引き上げるなど全社員の処遇改善を実行する。
WWD:OMO推進で見えてきたことは?
保元:お客さまの解像度が高まった。当社はEC売上高に占める自社ECの割合が9割ある。会員のお客さまの店舗とECでの消費行動がデータとして蓄積される。店頭では熟練のスタッフが何気ない会話からパーソナルな定性的データを得る。デジタルと人の力で適切な商品を適切なタイミングで提案すると、お客さまの満足度は上がり、年間の購買額が上昇する。今後は体験価値を高めたい。C&Tで何着もの服を取り寄せて、さらにスタッフがコーディネートアイテムを提案する。気持ちが高揚するような広くて贅沢な試着室を増やしたい。
WWD:新規出店の柱はOCSになるのか。
保元:SCは出店余地が大きく、積極的に出していく。一方でブランドの世界観を表現する旗艦店も必要だ。例えば「アンフィーロ」。24年3〜8月期の売上高は前年同期比1.9倍で年商100億円の大台も射程圏内に入ったが、販路は自社ECとOCS、ポップアップに限られる。さらなる飛躍のため近い将来に旗艦店の出店を計画している。オーダースーツの「カシヤマ」も出店要請が多い。コロナ禍を挟んで24年度に生産部門(中国・大連)と販売部門の両方が黒字化するので、25年度はさらにアクセルを踏む。
WWD:“長い夏”の対策も課題だ。24年6〜8月期で同期間としては17期ぶりに営業黒字を達成した。
保元:7月のセール以降も正価で売れる夏物衣料の充実が実を結んだ。今の課題は9〜11月期だ。従来であれば年間で最も稼ぐはずの9〜11月期に苦戦を強いられた。旧来の衣替えの概念自体が薄れ、店頭で夏物と秋冬物を並行して扱う必要が生まれた。地域ごとの気候も配慮して、店舗主導の品ぞろえに取り組む。素材から独自に作り込む当社にとって生産計画が重要なのは言うまでもないが、気候変化に柔軟な態勢も欠かせない。
WWD:新たなコーポレートメッセージを策定した。
保元:「世界に、愛を着せる。」。グループ会社を含めた20〜40代の若手・中堅社員が議論を重ねて策定した。私なりに解釈すれば、「愛を着せる」は愛着とも読める。当社が提供するのは、永く愛着を持っていただける商品だ。再来年で創業100年。お客さまともお取引先とも末永く愛をはぐくんでいきたい。
実現の可能性はゼロじゃない私の夢
これまで出張やプライベートで世界のさまざまな場所を訪れており、空白地帯は案外少ない。先日、知人から南極と北極を旅した話を聞き、がぜん行ってみたいと思うようになった。スマホがつながらない極地に身を置くのもいいかもしれない。
1927年に樫山純三氏が大阪で樫山商店を創業し、戦後に日本を代表するアパレル企業に発展。中核会社のオンワード樫山は「23区」「ICB」「五大陸」「J.プレス」「アンフィーロ」などを展開。グループ会社には法人ビジネスのオンワードコーポレートデザイン、バレエ用品のチャコット、ペット用品のクリエイティブヨーコなどがある。2024年2月期連結業績は売上高1896億円、純利益66億円
オンワードホールディングス
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