ファッション
特集 メンズ・コレクション2025-26年秋冬

「コム デ ギャルソン・オム プリュス」の叫び 平和を願うバトルスーツ

INDEX
  • 戦いの意味を変える
  • 会場に充満する感情

コム デ ギャルソン・オム プリュス(COMME DES GARCONS HOMME PLUS)」の2025-26年秋冬シーズンは、さまざまな国や時代の戦闘服を解体して、まるで童心に返ったように切り貼りしたり重ねたりしてスーツに再構築し、直訳すると「戦争なんてクソ喰らえ」となる“TO HELL WITH WAR”のメッセージを世界に示した。

戦いの意味を変える

ファーストルックは、カーキの軍服に燕尾ジャケットのフォームを融合し、センターと袖の金ボタンをまるで残像のように2列に配置した。パンツは裾に向かって緩やかにテーパードし、戦闘服というにはあまりに柔らかい素材感でしなやかさを取り入れる。続くスタイルも、体にフィットするユニホームライクなミリタリージャケットに対し、ボトムはスカートで軽快。以降も、ミリタリーウエアの袖やポケットなど、あらゆるパーツを解体しながら、「オム プリュス」にとっての戦闘服であるスーツとの融合が徐々に強まっていく。テーラードジャケットには袖と裾を断ち切りした軍服を重ね、燕尾ジャケットには巨大な袖をドッキングする。逆に、肩章付きのミリタリージャケットのセンターと袖口にはスーツのパーツを縫い付けた。ほかにも、ベーシックなストライプシャツにはスラントポケットを装飾し、ショーツにはファスナーを大量に配するなど、過酷な戦闘のために開発された機能的パーツをバラバラにし、ファッションの“飾り”として随所に用いることで、ミリタリーウエアに宿る戦いの要素をあっさりとリセットする。

中盤以降は、カモフラージュをカラフルに再解釈したモチーフをはじめ、極端なまでの色使いが際立っていく。真っ赤なスタンドカラーとエポレットに、グリーンとキャメルの袖と身頃を組み合わせたクレイジーパターンや、色とりどりのテキスタイルをパッチワークしたミリタリーコート、斜めに歪んだスーツの左半身にはアーミージャケットが覆い被さる。スコットランドの誇りであり、抑圧への反抗の象徴でもあるタータンチェックはボトムに採用した。

会場に充満する感情

ほぼ全てのルックに合わせた「キッズ ラブ ゲイト(KIDS LOVE GAITE)」とのコラボレーションシューズは、つま先が上に90度そり上がり、中世からルネサンス期に貴族階級が履いたプーレーヌを想起させる。つま先がそり返ったプーレーヌは、貴族階級が労働をしないという証の靴でもあったため、まるで戦争に行かないという意志を示すような形状である。「 ヒヅメ(HIZUME)」の日爪ノブキとコラボレーションしたヘッドピースは、M1ヘルメットを花や光沢生地で装飾。戦いが終わり、荒地に咲いた花のような可憐でたくましい印象をコレクションに与えた。

今シーズンは「コム デ ギャルソン・オム プリュス」のここ数年のコレクションでは最も分かりやすく、会場内のほぼ全員が反戦のメッセージを受け取っただろう。ニーナ・シモン(Nina Simone)の“Four Women”ラストの叫びのような歌声がピタッと止むと、張り詰めた緊張感から解放されたかのように、割れんばかりの拍手がしばらく鳴り止まなかった。反戦のメッセージに共感した者もいれば、装いのテクニックに胸を打たれた者、言葉にできない感情を掻き立てられた者も、一緒になって夢中に手を叩いた。この生身の人間の感情が充満する空間は、巨額を投じたエンターテインメントショーでは絶対に体験できない。ファッションに憑依した川久保玲の強い意志は、いつの時代も人々の心を突き動かす。

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