近年の「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」には、コレクションの背景に優しさや温かみを感じることが多い。それは、山本耀司デザイナーが何気ない日常と向き合い、コレクションを制作しているからかもしれない。
パファーアイテムをエレガントに
2025-26年秋冬メンズの出発点は、山本デザイナーが近所で見かけた人々の装い。寒い冬には多くの人がダウンジャケットやパファージャケットに身を包んでいるが、個性がなく安っぽく見えたという。そこで、今季はパファーアイテムをエレガントに仕上げることに挑んだ。提案のベースになるのは、「ヨウジヤマモト」を象徴するゆったりしたテーラードルック。ただ、ジャケットやコートにもパンツにも中綿を入れ、ふっくらとしたシルエットを描く。そこに合わせるインナーのシャツにも薄いキルティングが施されているほどの徹底ぶりだ。
そんなボリュームのあるアイテムが野暮ったくならないのは、分量と配置にこだわり、手作業で中綿を入れてシルエットを作っているから。例えば、肩やヒップには中綿を入れずスッキリとしたラインに仕上げる一方、身頃や腿には中綿をたっぷり加えて防寒性を高めている。
表裏で表情が全く異なるリバーシブル仕様
また、ジャケットやコート、パンツの多くは、リバーシブル仕様。スナップボタンでパファーのライニングを取り外せるようになっているものもあり、真冬だけでなく幅広い時期に着用できる。ショーでは、何人かのモデルたちがランウエイの途中で立ち止まり、アウターやジャケットを裏返して羽織り直したり、隣にいるモデルと交換したり。片面はスーツライクなピンストライプのウールや質感豊かな別珍、もう片面はよりカジュアルでスポーティーなナイロンといったように、表裏で全く異なるイメージに仕上げている。
色はブランドを象徴する真っ黒はいつもより控えめで、よりソフトな墨黒やグレー、オリーブ、カーキ、エクリュなどの落ち着いたトーンが中心。そこに、深みのある赤や紫でアクセントを加えたり、コレクションのために制作されたグラフィックや写真とともに「SADNESS AND SUFFERING ARE THE FLOWER OF LIFE」や「WOULD YOU LIKE TO DANCE WITH ME?」といった言葉をあしらったり。シルバーのチェーン装飾を背中やサイドに垂らしたパンクムード漂うデザインも目を引く。
モデルからも垣間見えるリアリティー
今回のショーにはプロのモデルに加え、画家のリュック・タイマンス(Luc Tuymans)とアーティストのカーラ・アロチャ(Carla Arocha)夫妻や、バレエダンサーのユーゴ・マルシャン(Hugo Marchand)、シンガーソングライターのマムード(Mahmood)、俳優のポール・ハミー(Paul Hammy)、写真家のモハメッド・ブーロイサ(Mohamed Bourouissa)をはじめとする多彩な顔ぶれが登場。ほぼアドリブでランウエイを歩いたという個性豊かなモデルたちからは、人間味が滲む。その人選について、山本デザイナーは「(普通の)モデルにはとても飽きた。ショーの観客が見たのは、普通の芸術家、歌手、画家たち。彼らはいつも魅力的だ」と米「WWD」にコメント。そこには、日常からコレクションのヒントを得たように、演出でもよりリアリティーを表現したいという思いが垣間見える。