サステナビリティ

バレンシアガのサステナビリティ戦略 デザインチームとの関係や注目の革新技術を語る

INDEX
  • 左:アニカ・モーア・ストーファルト/ バレンシアガ グローバル・サステナビリティ・ディレクター
  • 右:ジェラルディン・ヴァレジョ /ケリング サステナビリティ プログラム ディレクター
  • バレンシアガで18年、さまざまな部署を経験しサステナビリティの責任者に
  • 科学的根拠に基づきサステナビリティの最前線に立ち続ける
  • ケリングのサステナビリティ戦略の優先事項は生物多様性と
  • 各ブランドとの目標や情報の共有の仕方
  • バレンシアガとサステナビリティを理解する4つのポイント
  • デムナ率いるデザインチームとの緊密な関係
  • ケリングとバレンシアガが今必要としている技術や素材
  • イベント参加者とのQ&Aセッション
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左:アニカ・モーア・ストーファルト/ バレンシアガ グローバル・サステナビリティ・ディレクター

スウェーデン出身。ヨーテボリ大学ビジネス・経済・法学部で経営学の修士号を取得。卒業後大手デジタルエージェンシーでキャリアをスタートさせ、さまざまな業界のアカウントを担当。その後、ファッションスクールのアンスティチュ・フランセ・ドゥ・ラ・モード(IFM)で、繊維・ファッションマネジメントの修士号を取得し、ファッション業界に転身。2004 年にケリングに入社し、06 年からバレンシアガで 勤務している。19 年にバレンシアガのグローバル・サステナビリティ・ディレクターに就任し、CEO 直属の新しい部署を立ち上げ、現在に至る。

右:ジェラルディン・ヴァレジョ /ケリング サステナビリティ プログラム ディレクター

フランスのエコール・ポリテクニーク卒業後、カリフォルニア・スタンフォード大学で、環境および土木工学の修士号を取得。建設およびコンセッション事業の世界的企業である VINCI グループで11年、世界的な主要インフラプロジェクトに携わり、その後VINCI SA と VINCI Concessionsで持続可能な開発と科学的パートナーシップのマネージャーを務める。2013 年にケリングに入社。グループ全体のサステナビリティ戦略とプログラムの実施をサポートする責務を担っている。国際的な専門家チームを監督し、持続可能な調達や生物多様性の保全、環境負荷の低い生産に関わる革新的なアプローチの創出と戦略的パートナーシップの構築に重点を置き、傘下のラグジュアリーブランドをサポートしている。Entreprises pour l'Environnement (EpE)の生物多様性委員会の委員長であり、Climate Fund For Nature の専門家委員会のメンバーも務める。PHOTO:TAMEKI OSHIRO

バレンシアガ(BALENCIAGA)の担当者が日本では初めて、同ブランドのサステナビリティ戦略について、グループ親会社であるケリングのグローバル・サステナビリティ・ディレクターとともに語った。いわずとしれたサステナビリティ先進企業である両社が描く未来、乗り越えてきた課題、注目している革新素材や技術、そしてデムナ「バレンシアガ」クリエイティブ・ディレクター率いるデザインチームとの対話とは?(この対談は2024年12月13日に開催した「WWDJAPANサステナビリティ・サミット2024」から抜粋したものです)

バレンシアガで18年、さまざまな部署を経験しサステナビリティの責任者に

向千鶴WWDJAPANサステナビリティ・ディレクター(以下、WWD):アニカさんのこれまでのキャリアを教えてください。

アニカ・モーア・ストーファルト=バレンシアガ グローバル・サステナビリティ・ディレクター(以下、アニカ):私はスウェーデン出身で約25年前にパリに来ました。デジタルエージェンシーで働いていましたが、20年前にファッションの世界で自分を“リサイクル”しようと考え、フランスのモード研究所でファッションマネジメントの修士号を取得しました。バレンシアガでは18年ほど働いています。最初はサステナビリティの担当ではなく、小売、リテール、Eコマース、マーチャンダイジング、購買などを歴任してきました。サステナビリティを担当するようになったのは、この5年ほどです。サステナビリティの実践的な知識を得たいと考え、ケンブリッジ大学でサステナビリティの修士課程の一部を修了しました。

WWD:バレンシアガでの役割とは?

アニカ:サステナビリティ戦略の定義、リーダーシップ、実行を担当しており、その戦略を世界中のバリューチェーン全体の中で行っています。ご存知のように、私たちはケリングの一員ですから、非常に野心的な目標を掲げ、同時に私たちが活動するための強力なフレームワークもあります。もちろん、今日一緒に登壇しているジェラルディンやケリングのサステナビリティチームがガイダンスやツール、専門知識を提供してくれます。ケリングの方法論のひとつにEP&L(環境損益計算)という、環境損益を測定する手法があります。私たちは正しい優先順位に焦点を当て、具体的な進捗と結果をモニターできるように、私たちが行うすべてのことを測定しています。

WWD:バレンシアガでのサステナビリティの位置付けは?

アニカ:組織全体にとって非常に重要な6つのブランドバリューがあり、そのひとつが「サステナブルであること」です。それはバレンシアガで働く人たち一人ひとりがサステナビリティのアンバサダーであることを意味します。同時に年次業績評価において、全員が持続可能性に関する具体的な業績目標を持つことも意味します。目標は、もちろん各部門に特化したもので非常に実用的なものです。

また、組織内に“サステナブル・カルチャー”を築いています。例えば、各チームが持続可能な目標を達成できるよう、多くのトレーニングを実施しています。社内コミュニケーションも盛んです。ポットキャストを配信したり、“アウェアネス・セッション”といって意識向上、啓蒙活動をしたりしています。

WWD:個々人の年次業績評価における目標はトップダウンですか?それとも個々人が設定するのですか?

アニカ:持続可能性の目標にはさまざまな種類がありますが、弊社では私たちが達成したいゴールの中からチームメンバーに対して達成してほしい目標を伝えます。私の場合は持続可能性に全面的に取り組んでいるため、業績目標はすべてサステナビリティに関連しています。

科学的根拠に基づきサステナビリティの最前線に立ち続ける

WWD:ジェラルディンさんのケリングにおける役割を教えてください。

ジェラルディン・ヴァレジョ =ケリング サステナビリティ プログラム ディレクター
(以下、ジェラルディン):
私はグループレベルで仕事をしています。私の役割は、すべてのブランドと協力し、誠実で科学的根拠に基づいたアプローチを通じて、サステナビリティの最前線に立ち続けるようガイド、サポートすることです。私のチームとともに、環境やイノベーションの多くの分野でブランドを支援しています。私はもともと機械工学を学び、素材を専門としてきました。その経験から、特に革新的な素材に情熱を持っています。また、過去11年間はイノベーションの仕事をしてきました。

WWD:11年間もイノベーションに携わるとは、常に最新に触れて刺激的ですね。

ジェラルディン:とてもエキサイティングです。なぜなら会う方、会う方、皆前向きでポジティブなエネルギーに満ちています。そしてバランスをとる必要もあります。結果を出すには時間がかかりますから忍耐も必要です。

ケリングのサステナビリティ戦略の優先事項は生物多様性と

WWD:ケリングのサステナビリティの優先事項は何ですか?

ジェラルディン:2025年までに達成すべき明確な目標を掲げた戦略を策定しています。特に、グループ全体でのEP&L(環境損益計算)を元にした削減目標を掲げ、全生産に必要な面積の6倍に相当する土地の再生と保護に関連した目標を設定しています。この目標に向けて懸命に取り組んでいますが、2025年以降の次なるサステナビリティ戦略も準備を進めています。新しい目標やトピックにも取り組んでいます。持続可能性とは固定された定義ではなく、進化する概念です。そのため、毎年新しい課題に取り組む必要があります。

2つ目は先ほど述べたように、イノベーション。それをどうスケールアップするか、です。私たちは日本に大変関心を持っており、「ケリング・ジェネレーション・アワード」を通じて、イノベーションをさらに拡大するイノベーターや方法を模索しています。最終選考に11名が残り、最終結果は3月に発表する予定です。この取り組みはファッションだけでなく、ビューティの分野にも広がっています。私たちは、明日のファッションと持続可能なファッションを生み出すイノベーターを探しています。

WWD:欧州規制とはどのような関係を築いているのか。

ジェラルディン:最優先事項は“進化”する規制に関することです。なぜなら、今後2年から4年の間に世界中で約35のファッションをよりサステナブルにするための重要な規制が施行される予定で、我々はそれに対応する必要があります。大半はヨーロッパ発です。私たちは長年にわたり持続可能性に取り組んできました。そのため、準備は十分に整っています。しかし、これからはトレーサビリティや消費者への情報提供をさらに充実させ、真の意味での循環型社会の実現に向けた新たな枠組みに深く踏み込む必要があります。

WWD:バレンシアガにとってのサステナビリティのポイントは?

アニカ:私たちはケリングの傘下にありますので、ケリングの戦略に沿っていますが、進め方はブランドそれぞれです。私たちはアプローチのポイントとなる3つの要素を選びました。それらはすべて、ケリングの3つの柱である「ケア(配慮)」「コラボレート(協働)」「クリエイト(創造)」を軸に展開されています。

1つ目は「インパクト」です。これは、サプライチェーンのあらゆるレベルにおいて、私たちの活動が環境に与える影響を低減し、ポジティブなインパクトを与えることを目指します。たとえば、再生可能な原料調達を選ぶことで、土壌の健全性を改善する“リジェネラティブ”も含まれます。また、私たちはEP&Lを活用し、自分たちの影響を測定することを重視しています。

2つ目は「製品」です。製品の原材料や製造工程における基準に合致するようにたえまなく改善し、持続可能な素材やプロセスを明確に定義するケリング・グループのガイドラインに基づいて行動します。ジェラルディンが指摘したように、今後の規制ではトレーサビリティがますます重要になります。誰がどこでどのように生産したものなのかを追跡することです。また、私たちは製品が良好な労働条件の下で製造されていることを監視する必要もあります。

最後の柱は「システムの変革」です。私たちは産業にたくさんのプレイヤーがいることを理解した上で自社の直接的な活動だけではなくより大きな産業や社会の一部として活動しています。この文脈で、イノベーションが重要なテーマとなります。私たちは、新興企業やイノベーターを含むエコシステム全体で、さまざまなイノベーションに取り組んでいます。これは、ブランドのDNAにおいてイノベーションが重要な価値観のひとつだからです。

コラボレーションもまた、システム変革の一部です。私たちだけでこの大変革を進めることはできません。そのため、ブランドやグループ内で共有するだけでなく、トレーサビリティのような非競争的なテーマについて、グループの外とのコラボレーションを広げています。また、これはサプライヤーへの圧力の軽減にもつながります。もちろん、製品、材料、プロセスなどを提供するあらゆるサプライヤーと協力する必要があるからです。また、ファッション協定やその他の組織的なプロジェクトや議論にも積極的に参加しています。

WWD:やるべきことがたくさんありますね。

アニカ:とても忙しくてエキサイティングです。退屈することはありません。

各ブランドとの目標や情報の共有の仕方

WWD:サステナビリティを推進するにあたり、バレンシアガを始め、各ブランドとの役割分担はどうなっているのでしょうか?目標や情報はどういった方法で共有していますか?

ジェラルディン:すべてのブランドには独自のDNAがあります。そのため、ケリング・グループ内の各ブランドが、自らにとって最も重要な要素にフォーカスすることが重要です。ケリングでは、国際的な枠組みであるサイエンス・ベース・ターゲット・ネットワークを活用し、科学的根拠に基づいて目標を設定しています。またパリ協定を基に、地球の気温上昇を摂氏1.5度以内に抑えるためにケリングとして何ができるかを検討しています。

各ブランドがこのターゲットに対して適応することが求められます。バレンシアガ、ブシュロン、ケリング アイウエア、ケリング ボーテなどそれぞれ異なる目標を設定します。重要なのは、これらの目標を早期に達成するための支援を提供することです。具体的には、専門知識やツールの提供が含まれます。その一例として、影響を計算しモニターするためのEP&Lが挙げられます。

ミラノにあるマテリアル・イノベーション・ラボでは、イタリアのサプライヤーや各ブランドの製品開発チームと協力し、より持続可能な素材を開発しています。このラボには、持続可能な素材を1,000種類以上集めた素晴らしいライブラリーもあります。しかし、クリエイティブチームにとっては、これだけでは十分ではありませんから、私たちは素材革新において、より革新的で持続可能な素材を活用することを目指しています。

WWD:改めて、EP&Lとは?

ジェラルディン:EP&Lは、自然が私たちに提供してくれる“サービス”、たとえばきれいな水や空気がかつては無限であったものの、現在では有限であるという認識から生まれた考え方です。この限られた資源の中で、経済システムに自然のサービスを組み込む必要性が強調されています。具体的には、自然が私たちに与えるすべてのサービスに価値を見出し、それをビジネスに反映させるという考え方が背景にあります。

EP&Lの目的は、金融のツールを使って自然を金融・経済システムの一部に組み込み、原材料の採取から製品の製造、店舗での販売、さらに製品の使用に至るまで、バリューチェーン全体を通じて環境への影響を計算することです。

このような取り組みが実現すれば、環境への影響が金銭的価値に直結するようになります。EP&Lの重要な点は、この活動が12年間継続されており、その過程で自然を大切にする文化が醸成され、自然には価値があるという意識が根付いたことです。その結果、ビジネスにおいても自然を保護し、再生する必要性が一層明確になりました。

自分のダッシュボードを活用して、たとえば異なるタイプの靴を比較し、それぞれの環境への影響や使用材料を可視化するツールがあります。このツールは、製品やブランドの共同デザインを支援するアプリケーションの一部でもあります。

バレンシアガとサステナビリティを理解する4つのポイント

WWD:バレンシアガがこれまで行ってきたサステナビリティに関わるアクション例を教えてください。

アニカ:4つ事例を挙げたいと思います。一つは、2022年冬コレクションで発表した「エッファ」と呼ばれるマッシュルームの菌糸(マイセリアム)から作られたコートです。レザーに似た質感を持つ代替素材で、バレンシアガのためだけに開発されたものです。バレンシアガとケリング、スタートアップのスクイム(SQIM)の共同開発の成果です。

2つ目は、2024年6月に発表したクチュール コレクションのルックナンバー2に取り入れました。モデルが着用しているパンツにスパイバーによる繊維が含まれています。最も格式の高いクチュールコレクションでも、「ブリュードプロテイン」のような革新的な素材が採用されています。

店舗からも事例を紹介します。バレンシアガでは、100以上の店舗がLEED認証を受けています。LEEDとは、エネルギーと環境デザインにおけるリーダーシップを意味するLeadership in Energy and Environmental Designの略称です。私たちは常にこの認証取得を目指しています。大規模な改装工事を行う際には、その対象となります。

最後に、拡張現実、ARの体験です。何が再生農業なのか、その認識を高めるための取り組みです。私たちは若い方と接することも多いのですが、彼らは特にゲームやゲーミフィケーションに高い関心を持っています。そのためインスタグラム、ティックトック、ウィチャットなどのソーシャルメディア・プラットフォームを活用し、ミニゲーム形式で再生農業について学べるビデオを提供しています。この中で、ユーザーはアバターを選び、種を植え、水を与え、堆肥化し、輪作などの技術を用いることで、再生農業の方法論を実践できます。これにより、少しでもそのプロセスを体感することができます。

デムナ率いるデザインチームとの緊密な関係

WWD:デムナ「バレンシアガ」クリエイティブ・ディレクターをはじめデザインチームとのコミュニケーションについて教えてください。具体的にどのような会議が社内で行われていますか?

アニカ:私たちは緊密に連携して仕事を進めています。特に私のチームは、デザインチームと密接に協力しています。デザインチームは車の運転席に座っているようなものです。彼らが行う選択は、製品のライフサイクル全体に大きな影響を及ぼします。しかし、会社には他にも非常に重要な役割があることを忘れてはなりません。製品のライフサイクルを決める、一つひとつの瞬間に関わる人たちです。開発、生産チーム、サプライヤーも重要な参加者であり、プロジェクトのドライバーとなることで、サステナビリティが実現するのです。

たとえば具体的なインスピレーションがスタジオのデザインチームから湧き上がってきたら、サステナビリティチームが開発チームやサプライヤーと協力してその解決策を模索します。また、サステナビリティチームでは、常に新しいスタートアップ、新しいイノベーション、新しいサプライチェーンを探してデザイナーたちに紹介をしています。

さらに、私たちはクリエイティブチームに対して、ケリング・スタンダードに従って具体的な調達基準について定期的にトレーニングを実施しています。このトレーニングにより、クリエイティブチームはサステナビリティを自分の業務範囲にどのように組み込むかを学んでいます。彼らはすでに高度な訓練を受けているといえるでしょう。

WWD:デムナのような傑出した才能と仕事をするのは面白そうですが大変そうでもあります。

アニカ:全然大変ではないですよ。私たちはデムナやクリエイティブチーム全体と、とても良い会話を交わしていますし、彼らも積極的に関わってくれています。

ケリングとバレンシアガが今必要としている技術や素材

WWD:ケリング、バレンシアガ、それぞれが今必要としている新しい技術や素材を教えてください。

ジェラルディン:私たちは、目標を達成し、サプライチェーンの透明性を向上させるために、環境負荷を軽減する技術革新を模索しています。なぜなら、原材料が環境負荷全体の約3分の2を占めているため、これが私たちの最初の焦点となったからです。バイオマスを原料とするもの、自然由来であること、バイオテクノロジーを駆使し、化学物質を一切使用しないもの、そしてデザインチームのエモーショナルなインパクトのあるものを探しています。心が刺激されないと新しいアイデアは生まれません。これらの基準を満たさない素材では、私たちのブランドの理念に合致しません。そのため、素材選びが優先事項です。

さらに、世界中で水に対する関心・懸念が高まっていることを背景に、私たちは水資源を適切に使用する必要があります。リテールや消費者とのエンゲージメントに関わるテクノロジーも常に探しています。これはファッションに限りません。1年半前、私たちはケリング ボーテを立ち上げ、美容分野も重点となっています。美容業界におけるサステナビリティは、私たちの新たな挑戦の一環です。

アニカが述べたように、イノベーションは競争以前の協調の場でもあります。最終的に私たちが望むのは、これらのイノベーションが業界全体のスタンダードとなることです。気候変動や生物多様性、水はすべての人が必要としているイノベーションですから。

WWD:サステナビリティは物づくりをする人にとってはある種の制約ですが、むしろそれをチャンスだととらえた方が良さそうですね。

ジェラルディン:そう思います。そのように見ることも必要ですし、チームにもそう伝えないといけません。制約としてチームに伝えるとうまくいきません。創造性の欠如は、私たちにとって致命的な問題と見なさなければなりません。それが私たちのアプローチそのものなのです。

最近、私たちのイノベーション・アワードにジュエリーの分野を設けました。そこでのトピックも廃棄物からいかにしてラグジュアリー生み出すか、です。ですから制約と見ることもできますが、素材の見方、廃棄してきたものの見方を変える、新しい意味でのクリエイティブになるということだと思います。

WWD:バレンシアガが今必要としている技術や素材とは?

アニカ:ジェラルディンが伝えたように、私たちは次の新しいプロジェクトに取り組んでいます。私たちは、環境への影響を削減することに非常に注力しています。そのため、即効性のある短期的なアプローチと、フットプリント(環境負荷)に関する現実的な分析を組み合わせています。同時に長期、次世代のイノベーションに焦点を当てています。なぜなら、私たちは「明日」を形作るための素材について議論しているからです。

スタジオでは、コレクションに使用される素材のリサーチやプレゼンテーションを行う際、従来の素材をより持続可能な素材に置き換える取り組みを続けています。この際、デザインや品質について妥協することはありません。おっしゃるように、サステナビリティは創造性を刺激する力を持っています。
そのため、例えばコットンやウールについては従来よりもインパクトの少ない素材を使用するよう努めています。たとえば、2021年にコンサベーション・インターナショナルと共に設立した「自然再生基金」からのサプライチェーンを活用するケースが増えています。

イノベーションは、バレンシアガのDNAの一部です。そのため、次世代素材だけでなく、革新的なプロセスにも焦点を当てています。ジェラルディンが述べたように、例えば、水をほとんど、あるいは全く使わずに染める技術を見つけることなどプロセスが、非常に重要な課題として注目されています。このような取り組みに、私たちは一層力を入れています。

冒頭でも述べたように、これらのプロジェクトには非常に時間がかかります。具体的な成果につながらないプロジェクトもたくさんあるでしょう。でも取り組まなければならないのです。たくさんのプロジェクトの一部が成功する。それを産業、商業規模に拡大し、より環境負荷の少ない明日の素材となることが期待されています。

WWD:お2人のそれぞれの次なるゴールとは?

ジェラルディン:このイノベーションをスケールアップさせ、さらにその実現を手助けできることが、私の個人的な目標であり、大きな希望でもあります。

アニカ:冒頭でも述べたように、まだやるべきことがたくさんあります。だからこそ、一番大きなポジティブなインパクトを残せるところにフォーカスして結果をもたらして具体的なアクションにつなげたいです。

イベント参加者とのQ&Aセッション

参加者:ヨーロッパではエコデザインに関する規制やルールの変更を踏まえてどのようにクリエイティブチームに伝えているのでしょうか、具体的に教えてください。

ジェラルディン:バリューチェーン全体におけるトレーサビリティの向上が規制の主眼です。そして、環境ラベリング形式で最終消費者へ伝えること、また廃棄物の削減と循環型経済の構築が規制の目標です。当局とも常にコミュニケーションをとり意見も出しています。これらの規制の本質は、「持続可能な製品」とは何かを定義することにあります。なぜなら、ファストファッションにおける持続可能な製品の定義と、ラグジュアリー製品におけるそれは同じではないからです。そのため、私たちは製品の物理的な耐久性だけでなく、情緒的な耐久性も考慮しています。これには、製品の価値を維持する方法や、製品を修理して再利用する取り組みも含まれます。

これを実現するため、グループレベルでは定期的なミーティングを行っています。3カ月に一度、各ブランドやその法務チームと会合を持ち、規制が私たちの業務にどのような影響を与えるかを共有し、ディスカッションしています。

現時点では、主にIT面での変更が主です。現時点では、法律が求める内容との整合性については問題ないのですが、細部に問題がある可能性があるから十分に注意する必要があります。私はこれらの法律を土台にして、さらに前進できると考えています。

アニカ:ジェラルディンが述べたように、私たちはこれをブランドに導入する際、トレーサビリティを重視しています。トレーサビリティは非常に複雑な作業ですが、ケリングの基準に沿った素材を使用することで、作業を効率化することができます。生産チームなどと部屋に集まり、資料やスクリーン、スライドを活用しながらトレーニングを進めます。もちろん規制や基準について詳しく議論します。

ただ規制は、それがあるから対応しているわけではありません。行うのは、それが「正しいこと」だからです。現在、規制が施行され始めています。私たちはまだ完璧ではありませんが、取り組みは組織全体に浸透しつつありすでにかなりの進展を遂げていると言えます。社内のすべての部署に理解してもらう必要があります。完璧とは言えませんが、私たちは懸命に努力し続けています。

参加者:「消費者の手に渡った後の流通」に関する質問です。リサイクルだけでなく、リセールプログラムが成功するための条件や、そこにある課題について教えてください。

ジェラルディン:リセールについて、私たちはテストと実践の段階ですが、興味深いモデルであると考えています。ケリングは、中古品プラットフォームであるヴェスティエール コレクティブに投資しています。これにより新しい顧客層へリーチできることがわかっています。つまり、従来のビジネスモデルとバッティングすることなく、新しい可能性を広げています。

完全に異なるロジスティクスですから、現時点では、独自のシステムよりもパートナーと協力する方が容易です。そして、次のステップとして何をすべきかを検討しています。

参加者:私はイノベーションが非常に重要なスポーツ業界の出身です。現在この業界では技術革新への投資はすべてサステナビリティを中心に行われています。この点は、ケリング・グループやバレンシアガにおいても同じでしょうか?

ジェラルディン:はい、そうです。サステナビリティとデジタル技術は、現在の技術革新と投資の原動力となる2つの重要な要素です。この2つの要素が組み合わさる例については、すでにお話ししましたが、その通りです。

参加者:イノベーションへの投資は、それが実際にポジティブな変化をもたらすものでない限り、基本的に価値を持ちません。また、ジェラルディンさんが先ほど述べたように、イノベーションへの投資のうち、10件中1件が成功すれば良いほうです。つまり、それは非常に大きな投資ですから、持続可能性に向けた大きな成果を目指しているということでしょうか?

ジェラルディン:はい、その通りです。特にラグジュアリー分野においては、すべてが完璧でなければならないため、なおさら難しいです。イノベーションには時間がかかり、うまくいかないこともあるため、そのフラストレーションを受け入れる必要があります。

参加者:トレーサビリティとは、すなわち透明性を意味します。すべて透明性を担保しないといけないのでしょうか?パーフェクトではない、ときにはよくない姿を見せないといけないと思いますが、ケリング、バレンシアガとしては100%透明性を担保しようとしていますか?

ジェラルディン:例えば、我々はEP&Lの結果をすべて公表しています。これにより、製品に関する完全な透明性、安定性、環境への影響などを理解していただけると思います。改善点も公開しています。持続可能性とは、終わりのない旅でもあります。そのため、現在地をしっかりと把握することが重要です。今日の世界では、何も隠すことはできません。

参加者:EUがグリーンウォッシングに対する規制を強化したことはよく知られています。このような法改正について、どのように捉えていますか?

アニカ:私たちは現在、この問題に気を配りながら、ガイドラインに基づいて精緻なコミュニケーションをしています。特に重要なのは、何をどのように伝えるべきか、どの単語を使うべきか、そして避けるべきか正確に伝えることが大切です。私たちが使う言葉も外部の専門家にその内容を確認してもらっています。バレンシアガにとってサステナビリティはマーケティングツールではありません。最善を尽くして行うものです。

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