これまで「ディーゼル(DIESEL)」のクリエイティブ・ディレクターを務めていたグレン・マーティンス(Glenn Martins)が「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」でも同職を務めることが明らかになった。ジョン・ガリアーノ(John Galliano)の後任を務める。ベルギー人デザイナーのグレンは、「メゾンの次のチャプターを書き記し、ユニークなスタイルコードとブランドの価値を高めたい」としている。またグレンは引き続き、同じく「ディーゼル」でもクリエイティブの指揮を執るようだ。
「メゾン マルジェラ」と親会社のOTBは、グレンによるファースト・コレクションがいつになるか?を明らかにはしていない。「ディーゼル」も擁するOTBのレンツォ・ロッソ(Renzo Rosso)会長は、「長らくグレンと仕事をしているから、彼の才能は熟知している。メゾンにアルチザンブランドとしての命を吹き込んだガリアーノに続く、(創業デザイナーのマルタン・マルジェラから数えて)3人目のクチュリエになれると信じている。アントワープ王立芸術学院で学んだグレンは、すでにクチュールに関するビジョンを持っているようだ」と話した。
レンツォ会長は、グレンの才能をいち早く見出し、2018年には「ディーゼル」でコラボレーション。グレンは前年、OTBによるANDAMファッション・プライズで優れた成績を収めていた。20年には「ディーゼル」のクリエイティブ・ディレクターに指名している。これに対してグレンは、「ロッソ会長の全幅の信頼に応えたい」と語った。グレンは22年、ジャンポール・ゴルチエ(Jean Paul Gaultier)とタッグを組み、オートクチュールコレクションを発表している。
グレンはベルギーのブルージュで育ち、08年にアントワープ王立芸術学院を卒業。彼の卒業コレクションを見たジャンポール・ゴルチエは、すぐに自身のウィメンズ・クルーズコレクションとメンズのレーベル「G2」のジュニアデザイナーとして採用した。その後、10年に「Y/プロジェクト(Y/PROJECT)」に参加したグレンは、13年には同ブランドのクリエイティブディレクターに就任。斬新なカッティングとファッションへの実験的なアプローチで高い評価を得た。クラシックなテーラリングやストリートウエアから、時にはフランドル地方の古典絵画に至るまで、さまざまな歴史や要素を参照して組み合わせることを好み、誇張的でねじれたラインを取り入れたアヴァンギャルドなシルエットでも知られる。
衣服を分解し再構築することへのこだわりについて、グレン自身は、インテリア建築を学んでいた頃の実験に起因すると語っている。その後、ファッションの学生としてそのプロセスを布に応用したという。「当初、私の服は箱のような見た目で、すべてがゴワゴワと硬かった。初めて作ったスカートは、ピザの箱のような服だった」と、19年のインタビューで「WWD」に語っている。
前述のように、「ジャンポール・ゴルチエ」史上2人目となるゲストデザイナーとしてオートクチュールコレクションを手がけ、クチュールの経験も有するグレンだが、 ガリアーノの後任として「メゾン マルジェラ」を引き継ぐのは容易なことではないだろう。ガリアーノのもと同ブランドが24年春に発表したアーティザナルコレクションは、「業界にクリエイティビティを取り戻した」と世界的な称賛を受け、ガリアーノをファッション業界の頂点へと押し上げた。
「メゾン マルジェラ」のほかに「ディーゼル」「ジル サンダー(JIL SANDER)」「マルニ(MARNI)」「ヴィクター&ロルフ(VIKTOR&ROLF)」などのブランドを擁するOTBは、02年に「メゾン マルジェラ」の筆頭株主となり、06年には完全支配権を獲得。同社はブランドごとの収益を公表していないが、市場筋の情報によると、「メゾン マルジェラ」の収益は5億ドル(776億円)に迫る勢いだ。その大半は直営店およびオンライン販売によるものと推定され、香水やアイウエアなどのライセンス商品も、年間2億ドル(310億円)以上の収益を上げているという。
現在、パリを拠点とする同ブランドは世界中に約120店舗を展開しており、そのうちの50店舗は過去4年間にオープンしたもの。そのうち43店舗は日本、中国、韓国を筆頭とするアジア諸国にある。
アントワープの6人とともに、1988年にブランドを立ち上げたマルタン・マルジェラ(Martin Margiela)は、ベルギーのアントワープを国際的なファッション都市へと押し上げた。公の場を好まず、業界の「透明人間」と評されることの多かった同氏は、09年にファッション業界から引退。OTBはブランドのクリエイティブ機能を匿名のチームに継承させた。「メゾン マルジェラ」はデザインチームのメンバーの公表を頑なに拒んできたが、業界関係者の間では「バレンシアガ(BALENCIAGA)」のクリエイティブ・ディレクターを務めるデムナ(Demna)、秋から「シャネル(CHANEL)」のデザインを担当するマチュー・ブレイジー(Matthieu Blazy)、元「ブリオーニ(BRIONI)」のクリエイティブ・ディレクター、ニナ・マリア・ニッチェ(Nina-Maria Nitsche)らがスタジオに属していたことが知られている。