キム・ジョーンズ(Kim Jones)が7年間務めた「ディオール(DIOR)」のメンズ・アーティスティック・ディレクターの職を辞することが明らかになった。「ディオール」はキムに対して、「メンズコレクションの国際的な拡大・発展に貢献し、クラシカルでありながらコンテンポラリーなコレクションを生み出しながら、旬のアーティストとコラボすることでメゾンの影響力を高めた」と最大限の敬意を表した。キムは、フランス政府による最高位の勲章レジオン・ドヌール勲章シュヴァリエを受章したばかりだ。
キムの退任により、すで広がっている「ロエベ(LOEWE)」のジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)が「ディオール」に移籍するのでは?というウワサがさらに拡大しそうだ。
キムは、「『ディオール』という、絶対的な美を根源とするブランドで働けたことを光栄に思っている。デザインチームとクチュリエたちは、私を素晴らしい旅路へと誘ってくれた。彼らは私のクリエイションを実現してくれた功労者だ。協業できたアーティスト、そして、常に応援してくれたベルナール・アルノー(Bernard Arnault)LVMH会長兼最高経営責任者(CEO)とデルフィーヌ・アルノー(Delphine Arnault)=クリスチャン ディオール クチュール会長兼CEOにも感謝したい」とのコメントを発表した。これに対してデルフィーヌ会長兼CEOは、「キムと彼のチーム、そしてアトリエの偉大なる仕事に心から感謝したい。メゾンのヘリテージを何度も再解釈しながら、驚きに満ちたコラボレーションで自由な風を吹き込んでくれた」と返した。
キムは、3カ月前に「フェンディ(FENDI)」のウィメンズ&オートクチュール担当アーティスティック・ディレクターの職も辞している。
キムは、アーティストのカウズ(Kaws)やレイモンド・ペティボン(Raymond Pettibon)、ダニエル・アーシャム(Daniel Arsham)、「ステューシー(STUSSY)」の創始者ショーン・ステューシー(Shawn Stussy)、ストリートウエアブランドの「アリクス(1017 ALYX 9SM)」など、話題のアーティストたちとのコラボレーションによって「ディオール」のメンズウエアを人気ブランドへと押し上げた。20年には、「ディオール」限定モデルのエア・ジョーダン1OG購入のため、アイルランドやニュージーランドの人口に匹敵する約500万人が登録したことでも話題を呼んだ。
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最近では、キムのコラボレーションはより多面的で多様性を増しており、日本人アーティストの空山基、トラヴィス・スコット(Travis Scott)らのセレブリティ、チャールストン・トラスト(Charleston Trust)などの文化機関、アモアコ・ボアフォ(Amoako Boafo)、ケニー・シャーフ(Kenny Scharf)、ピーター・ドイグ(Peter Doig)のほか、直近の25年春夏コレクションでは南アフリカの陶芸家ヒルトン・ネル(Hylton Nel)ら、一線級のアーティストたちと協働してきた。
ショーを盛り上げるエンターテイナーとしても評価が高く、「ディオール」のショーの舞台装置には、高さ12メートルのロボットの彫刻や、パリのセーヌ川に架かるアレクサンドル3世橋とクリスチャン・ディオール(Christian Dior)のグランヴィル邸宅のレプリカ、そしてモデルを載せて上下するリフトなどが登場した。さらに「ディオール」での仕事の一環として巡回ショーも手がけ、22年にはエジプトのカイロ近郊にあるギザのピラミッドを背景に、メンズ・プレフォールコレクションを発表し、高い評価を得た。
ロンドンのセントラル・セント・マーチンズを卒業したキムは、ジョン・ガリアーノ(John Galliano)が卒業コレクションを高く評価し、華々しいファッションキャリアを築いてきた。06年、09年、19年、21年にブリティッシュ・ファッション・アワードを受賞しており、キャリアの初期には、「アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)」「マルベリー(MULBERRY)」「ヒューゴ ボス(HUGO BOSS)」「アンブロ(UMBRO)」でも経験を積んだ。03年に自身の名前を冠して立ち上げたメンズウエアブランドは、スポーティーで都会的なセンスを評価され、8シーズン継続。その後、「ダンヒル(DUNHILL)」の目に留まり、08年から11年まで同ブランドのクリエイティブディレクターを務めた。
前述したフランス政府による最高位の勲章レジオン・ドヌール勲章シュヴァリエのほか、20年には、ファッション界への貢献が認められ、エリザベス女王の誕生日叙勲リストで大英帝国勲章を受章。同年には、アメリカファッション協議会からもインターナショナル・メンズ・デザイナー・オブ・ザ・イヤー賞も授与された。19年には、「WWD」が主催するアパレルおよび小売業のCEOサミットで、メンズウエアデザイナー・オブ・ザ・イヤーに選ばれている。
キム以前の「ディオール」は、07年から18年までベルギー人デザイナーのクリス・ヴァン・アッシュ(Kris Van Assche)が「ディオール オム(DIOR HOMME)」のクリエイティブディレクターを務め、00年から07年まではエディ・スリマン(Hedi Slimane)がその任に就いていた。エディの就任以前は、パトリック・ラヴォワ(Patrick Lavoix)が、1992年から「クリスチャン ディオール ムッシュ(CHRISTIAN DIOR MONSIEUR)」のクリエイティブディレクターを務め、ブランド名を「ディオール オム」に変更し、影響力を高めた。