ロレアル(L’OREAL)の2024年12月期決算は、売上高が前期比5.6%増の434億8000万ユーロ(約6兆9133億円)、営業利益が同6.7%増の86億8700万ユーロ(約1兆3812億円)、純利益が同3.6%増の64億800万ユーロ(約1兆188億円)の増収増益だった。一方で第4四半期の売上高は前年同期比4.5%増の110億8000万ユーロ(約1兆7617億円)と、第3四半期の同2.8%増は上回ったものの、第2四半期の同6.7%増には届かなかった。中国の不調、北米の軟化、リュクス事業部の業績悪化により予想を下回った。金融テクノロジー企業ビジブル・アルファ(VISIBLEALPHA)は、同3.9%の伸びを見込んでいた。
第4四半期の北米の売上高は前年同期比2.3%増加したが、北アジア(日本、中国、韓国、台湾、香港)は同3.1%減少。リュクス事業は同2.4%増にとどまった。ニコラ・イエロニムス(Nicolas Hieronimus)=ロレアル 最高経営責任者(CEO)は、「中国の景気低迷で依然として厳しい北アジアを除けば、売上高は1ケタ台後半で推移した」と述べる。経営幹部によると同社は、「ミュウミュウ(MIU MIU)」のビューティライセンス契約や韓スキンケア「ドクタージー(DR.G)」の買収、スイス発の総合スキンヘルスカンパニーであるガルデルマ(GALDERMA)とオマーンを拠点とする高級フレグランス「アムアージュ(AMOUAGE)」の少数株式を取得することで、ポートフォリオをより豊かにしたという。世界のビューティ市場の見通しについては楽観的であり、今年も売り上げと利益の成長率は市場全般を上回るとみている。
アナリストの見解
米投資会社ジェフリーズ(JEFFERIES)のモリー・ワイレンゼック(Molly Wylenzek)=アナリストは、「ビューティ市場の成長は鈍化し始めている。こんな状況下におけるロレアルの楽観的な見通しや業績への自信、特に5.2%の成長を遂げるという野望は達成できるか注視すべきだろう」と懐疑的な見解を述べる。また総合証券会社・投資銀行スタイフェル(STIFEL)のロジェリオ・フジモリ(Rogerio Fujimori)=株式リサーチアナリストによる、「引き続き利益率は高い。今年も好調を継続するだろう」との見解もある。
人事
同社は2月6日、創業者の孫娘であるフランソワーズ・ベッテンコート・マイヤーズ(Francoise Bettencourt Meyers)が28年間勤めた取締役を退くと発表。後任には、マイヤーズ一族の持株会社でロレアルの34.7%の筆頭株主であるテティス インベスト(TETHYS INVEST)のアレクサンドル・ベネ(Alexandre Benais)副CEOが就任する予定だ。副会長職は息子のジャン・ヴィクトール・マイヤーズ(Jean Victor Meyers)が引き継ぎ、弟のニコラ・マイヤーズ(Nicolas Meyers)も取締役に加わる。この人事は4月29日の年次株主総会で投票される。
3領域に焦点を絞る
ロレアルはビューティ市場での存在感をさらに高めるべく、若年層を中心とする人口増と経済成長が期待できる地域、今後ますます存在感を発揮するだろう人々、そして業界をけん引するテクノロジーの追求に注力する。
世界最大のビューティ企業が注力する地域は?
イエロニムスCEOによると、「米国は人口が増加している数少ない先進国で、潜在的な消費者は5年後には1200万人増えると予想される」。若く、特にメイクアップやフレグランスなどのビューティに情熱を注ぐラテン系人口が、これに拍車をかけるとみている。自らが複数の人種の血を引いていると捉える消費者は過去10年間で3倍以上に増え、米国人口の10%以上を占める。この数値は今後も上がり続け、新たな美容ニーズを生む可能性がある。同氏は、「世界の富裕層の3分の1を米国が占め、彼らの消費の60%が国内で起こっている」と続ける。
また、20億人の潜在的な消費者がいる新興市場にも注目している。「インドや中東、特にサウジアラビアは大きなチャンスだ。だからこそ、急成長中のオマーン発フレグランス『アムアージュ』への投資を決めた」。
今後存在感を高めると期待する消費者像は?
イエロニムスCEOは、「世界には42億人のビューティ消費者が存在するが、我々はそのうちわずか13億人としかつながっていない」と述べ、10年以内に20億人の消費者とつながる展望を明らかにした。Z世代はすでに潜在的な消費者の20%以上を占め、5年間後にはさらに1億5000万人増加する可能性がある。「Z世代は新興市場で最大の消費者クラスターだ。急速に裕福になり、デジタルに精通し、美容への関心が高い彼らをコアターゲットに据える。ニキビは当社の各ブランドにとって重要な焦点となるだろう」。
もう一つのターゲットは男性だ。男性向け製品は世界のビューティ市場の10%未満に過ぎないが、「ビューティ製品の4分の1は男性が使用しており、将来的には半分になる可能性がある」という。すでに男性が売り上げの3分の1を担うフレグランスカテゴリーをさらに強化する計画だ。それぞれの悩みを解決するヘアケア製品のほか、スキンケアの浸透に注力する。すでに中国では男性の50%以上がスキンケアを習慣化しており、ヨーロッパでは32%に上昇している。
さらに、現在世界人口の21%、美容需要の28%を占める60歳以上にも注目。10年以内に10億人以上に膨れ上がる高齢者層は、半数以上が先進国に住むと見通し、「この世代は、年齢を重ねるほど美容にお金をかける傾向にある」。その額は平均年間400ドル(約6万800円)以上でY世代の2倍、Z世代の2.5倍に当たる。
テクノロジーの追求
テクノロジーの追求ではロンジェビティ(長寿)をテーマに据え、連携を進めている。AIを活用し、5分でパーソナライズされた肌分析を提供する卓上ハードウエアデバイス「セル バイオプリント」や、「ランコム(LANCOME)」の美容液“アプソリュ インテンシブエッセンス”(30mL、5万5000円/レフィル30mL、4万6750円)を開発した。
また「消費者の長寿やウェルエイジングへの関心に応えるには、従来のビューティ市場の枠を超えたソリューションが必要」との考えから、サプリンメント事業に着手。「化粧品と美容サプリメントは150億ユーロ(約2兆3850億円)の市場であり、ビューティ市場よりも速く成長している」。
イエロニムスCEOは、「美容医療という第4の領域にも注目している。この市場で勝負に挑むのか、それとも既存の局所的なダーマスキンケア『スキンシューティカルズ(SKINCEUTICALS)』や『スキンベターサイエンス(SKINBETTER SCIENCE)』と共に市場の外にとどまるのかを検討している。中国や北米のクリニックに参入し、ガルデルマに出資したのは、同市場を観察し理解するためだ」と述べた。