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連載 鈴木敏仁のUSリポート

プレステージビューティの小売地図に異変あり【鈴木敏仁USリポート】

INDEX
  • メイシーズが「ブルーマーキュリー」を買収した本当の狙い
  • 百貨店縮小の受け皿となるビューティ専門店

アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が、現地のファッション&ビューティの最新ニュースを詳しく解説する連載。米国では高級化粧品を指すプレステージビューティの小売地図が再編されつつある。マーケット拡大の期待は高いが、これまでの主力販路だった百貨店の店舗数は右肩下がり。そんな状況を背景ににして、専門店や百貨店の試行錯誤が続いている。

ビューティ専門のチェーンストア「ブルーマーキュリー」の創業者が5年ほど前にECとの競合について問うリテールメディアの取材に対してこう答えていた。

「お客がリアル店舗に来る理由は情報だ。新商品や新しいメイク技といった新情報が大切で、これを店員が対面コミュニケーションで提供することできれば、お客は店に来る」

「ブルーマーキュリー」は160店舗前後を展開している。プレステージブランドを取り扱う小商圏型の小型フォーマットである。アルタやセフォラと競合するが、この2社が中~大商圏であるのに対して、「ブリューマーキュリー」はスーパーマーケットが出店するようなショッピングセンターに立地することで差別化している。

対面サービスが成立する要件とは、サービス提供者とお客との間の情報の非対称である。

例えば、おそらく読者のほとんどがご存じないかもしれないが、1900年代初頭のグローサリーストアは対面販売形式で、理由は加工食品というものが登場したばかりでお客が使い方が分からず、店員が一つ一つ説明していたからである。当時は加工食品に情報の非対称が存在したのだ。

これが一巡しお客が慣れて、店員とお客を隔てるカウンターを取り払って商品を自由に取れるようにし、集中レジを置くレイアウトとして、セルフ環境を作り革新を起こして誕生したのがスーパーマーケットである。

当初ビューティカテゴリーはECへ移行しづらい商材だと私は思い込んでいたのだが、さにあらず、定期購買向きの商品もあるし、形状が小さく単価が高く宅配向き商品も多く、あっという間に市場が拡大した。

しかしながらとりわけトレンドサイクルが短いビューティは情報の非対称が生まれやすく、EC比率が高まってもそれでもやはりリアル店舗はいつまでも必要なのだろうと思っている。

メイシーズが「ブルーマーキュリー」を買収した本当の狙い

「ブルーマーキュリー」は2015年に百貨店大手のメイシーズに買収されて傘下に入っている。独立店舗としての展開と、百貨店内のインストアショップ展開と、2つの出店戦略を取ってきているが、インストアは当初言われていたほど増えていない。

また総店舗数は19年の171店舗を境にして減少傾向となっている。傘下の新興フォーマットを育成する技術がメイシーズに欠けているのだろうと思っている。

メイシーズは多くを語っていないが、「ブルーマーキュリー」を買収した戦略的な目的は、プレステージビューティをモールという大商圏から外に出すことだと考えている。箱としてのモールだけではなく自身の集客力も落ちている中で、「アルタ」や「セフォラ」の好調を横目で見て、後を追おうとしたのである。

このプレステージビューティをモール外に出す戦略を別の角度から挑戦しているのが、自身の小型フォーマットの「マーケット・バイ・メイシーズ(Market by Macy’s)」である。24店舗まで増えているのだが、今年初頭に発表した閉店計画にこの小型フォーマットは4店舗含まれていた。

昨年末に訪問する機会があったのだが、客数はまばらで、閉店計画を知ってやはりそうなのかと納得したのであった。

この「マーケット・バイ・メイシーズ」で私が最も興味を持ったのがプレステージビューティだ。「クリニーク」「エスティ ローダー」「ボビイブラウン」といった、メーカーが流通チャネルをコントロールし対面でしか売らせない高価格帯のブランドが、百貨店と同じように店頭に並んでいるのである。

さらにこのコミュニティ型ショッピングセンター(CSC)には、「セフォラ」が出店し、「アルタ」をインストア展開しているターゲットも立地していたのである。プレステージビューティがこれほど過密に存在するCSCというものを、私はいまだかつて見たことがない。

これが成立するのかどうかは私には判断できないのだが、一つだけ言えることは、メーカーが新たなチャネルを欲しているということである。

百貨店縮小の受け皿となるビューティ専門店

百貨店の集客力は落ち続けていて、総店舗数はずっと右肩下がりで推移している。この傾向はしばらく変わらないというのが大方の見方だ。メイシーズは昨年初頭に3年かけて150店舗を閉鎖すると発表しているが、再来年からも閉店による縮小均衡は続くだろう。

これで困るのがプレステージブランドを持つメーカーである。百貨店業界自体が縮小している以上、サプライヤーとしてどんなに頑張っても限界がある。

このメーカーによるニーズの受け皿となっているのが「アルタ」であり、「セフォラ」であり、そして「ブルーマーキュリー」なのである。

「マーケット・バイ・メイシーズ」のビューティ売り場は、ブランドごとにそれなりの投資が必要な高品質の什器やデザインとなっていて、そういった背景をひしひしと感じたのである。

ただ、いかんせん「マーケット・バイ・メイシーズ」自体が繁盛店化しておらず、ブランドメーカーとしては歯がゆいところだろう。いまだ試行錯誤の状態で、思うように進んでいないというのが現状だ。

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