ファッション

「アモク」10年目の解放 “技の商店街”が世界観を手に入れたとき

INDEX
  • 黒歴史を打ち砕く技の連打
  • 協業を引き立てる無二の世界観
  • たとえ荒削りだったとしても

大嶋祐輝デザイナーが手掛けるメンズブランド「アモク(AMOK)」は、2015年のブランド立ち上げから10周年の節目として、25-26年秋冬コレクションをランウエイショー形式で発表した。会場に選んだ東急プラザ表参道(オモカド)の屋上テラスには、哀愁を感じる落ち葉を敷いたり、奇妙な造形物を突き刺したりと、10周年の“祝祭”気分で足を運んだゲストにとってはあまりにも異様な雰囲気だった。

黒歴史を打ち砕く技の連打

実は、同ブランドにとってショーは2回目の挑戦となる。初めて挑んだ18-19年秋冬シーズンのコレクション“フェイク”のショーでは、一般参加イベントの一環ということもあり、モデルが歩いている最中にコメンテーターによるワンポイント解説が入るという、どうか“フェイク”であってくれとさえ思いたくなるような光景だった。その7年前の悪夢を振り払うかのように、今シーズンは“魔よけ”“お守り”を意味する“アミュレット”をキーワードに選んだ。着想源は、ヨーロッパ諸国で数世紀にわたって伝承されてきた祝祭である。立ち上げから10年かけて培ってきたあらゆる技の集大成を、ユニークなモンスターたちに託した。

ファーストルックは、クラシックなコートの全面に“魔よけ”のようにチャームをじゃらじゃらと付けたユニークピースだ。インナーには素朴な温かみのあるニットのトラックスーツを合わせ、「アモク」らしいハンドクラフトの妙技を披露する。続くセットアップには、レーザーカットでかたどった8種類のモンスターをテープにし、1着に1500匹が付くほど全面に縫い付ける巧技を見せた。このモンスターはニットにも生息しており、かぎ針編みで立体感化したモンスター6種類をカーディガンにぶら下げる好技、動物のようなふわふわの毛でモチーフを描き衣服に立体感を加えた遊技、シグネチャーとして浸透し始めているレーザーカットの巨大ステッチや、ビンテージ加工のデニムを華やかに飾る手縫いチャームの手技など、あらゆる技と技が連鎖し、コレクションに世界観を与えていく。

協業を引き立てる無二の世界観

遊び心あるテクニックは、この日披露した2つのコラボレーションでも同じだった。メディコム・トイの“ベアブリック(BE@RBRICK)”との協業は、デジタルなイメージの“ベアブリック”をアナログなニットで包み込むというギャップがユニークだ。さらに、ニットウエアにもつぎはぎが愛らしい“ベアブリック”を描いた。2回目となる「プーマ(PUMA)」とのタッグでは、プーマのロゴをふわふわの毛で再現したり、1970年代のロゴ“スーパー プーマ”をハンドステッチで描いたりし、スエットやTシャツなどの日常着にアナログならではの不完全な温かみを施した。

ショーでインパクトを放っていたのが、ヘアスタイリスト光崎邦生(KUNIO KOHZAKI)によるヘッドピースである。まるで原宿に生息する民族のように、自由で、奇抜で、色彩豊かで、異彩を放つヘッドピースの数々が祝祭ムードを盛り上げる。もし、7年前の幻のショーにもヘッドピースを採用していたなら、強烈な頭部ばかりに視線が集まっていただろう。しかし、10年目の「アモク」には、作り込んだ会場や、型破りなスタイリング、斬新なヘッドピースにも負けない世界観がある。20ルックという少なめの体数ではあったものの、成長の片鱗は十分に感じさせた。

たとえ荒削りだったとしても

フィナーレに登場した大嶋デザイナーは、「頭が真っ白だった」というほど緊張しており、ランウエイを控え目に駆け抜けていった。この小さな歩幅は、決して平坦ではなかった「アモク」の10年の道のりを表しているようだった。大嶋デザイナーの武器は、「ミハラヤスヒロ(MIHARAYASUHIRO)」「アンリアレイジ(ANREALAGE)」でのパタンナー経験で得た多彩なアイデアと技である。一方で職人肌な性格もあり、コレクションの世界観やスタイル作りが課題でもあった。力めば力むほど、本来の豊かな想像力を発揮できない時期もあった。武器であるはずの技も、一点勝負では他ブランドの洗練されたインパクトには勝てず、世界観という箱を持たない“技の商店街”は伸び悩んでいた。

転機は、ルック撮影のチームを一新したこと。世界観重視のルック撮影を重ね、シーズンごとに「アモク」らしいスタイルを見いだしていった。展示会場には趣向を凝らしたセットを建て、バイヤーやメディアを驚かせた。また、手作りの温かみをスタイルにも強く反映させることでクオリティー面も改善。大型デパートよりも商店街の温かみを好む人が多いように、技に技を重ねて作り出す「アモク」のハンドクラフトファンタジーの世界は、国内でゆっくりと浸透していった。現在の卸先は個店を中心に少しずつ増やして約25となり、売り上げをじわりじわりと伸ばして、年間売上高は下代ベースで1億円に迫っているという。

しかし、野心溢れるロマンチストの大嶋祐輝は、自身が思い描いている理想のデザイナー像にはまだまだほど遠いと感じているだろう。それでも、今回のショーでチャレンジした立体的な世界観作りにより、コレクションをさらに魅力的に見せる手応えを得たはずだ。たとえ荒削りでも、不器用でも、強固な世界観はそれらを無二の個性に変える。「アモク」を長く見ている立場からはそう見えたし、「今後も走り続けたい」と語る目には覚悟を感じた。40歳目前の男の歩幅は小さくとも、果てしなく大きい野望に向けて一歩一歩進んでいる。

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