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岡田将生が語る「小林秀雄」と「映画への想い」 映画「ゆきてかへらぬ」インタビュー

INDEX
  • PROFILE: 岡田将生/俳優
  • 小林秀雄を演じて
  • 中原中也と小林秀雄の関係
  • 映画への熱い想い
  • 映画「ゆきてかへらぬ」

PROFILE: 岡田将生/俳優

PROFILE: (おかだ・まさき):1989年8月15日生まれ、東京都出身。2006年デビュー。近年の主な出演作に、NHK連続テレビ小説「なつぞら」(19)、「ドライブ・マイ・カー」(21)、「大豆田とわ子と三人の元夫」(21)、「1秒先の彼」(23)、「ゆとりですがなにか インターナショナル」(23)、「ラストマイル」(24)、NHK連続テレビ小説「虎に翼」(24)、「ザ・トラベルナース」(24)、「アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師」(24)などがある。現在日曜劇場「御上先生」(TBS)が放送中。

さまざまな役柄を演じながら、そこに不思議な透明感と色気を感じさせる俳優、岡田将生。2月21日から公開される映画「ゆきてかへらぬ」で演じるのは実在の文芸評論家、小林秀雄だ。天才詩人といわれた中原中也、女優の長谷川泰子との濃密な三角関係を描いた本作は、名脚本家、田中陽造が40年以上前に書いた幻の脚本を、巨匠・根岸吉太郎監督が映画化したもの。中原中也を木戸大聖。長谷川泰子を広瀬すずが演じて火花散る競演に引き込まれる。岡田はどんな想いで作品に挑んだのか。そこに潜む映画への熱い想いを聞いた。

小林秀雄を演じて

——本作のどんなところに惹かれて出演を決めたのでしょうか。

岡田将生(以下、岡田):まず、脚本を読ませていただいた時に、読み物としてすごく面白かったんです。登場人物が少ない中で緻密に物語が描かれていて、この作品だったら自分が演じたい役、やりたい芝居ができるかもしれないと思ったのが、この作品に惹かれた理由の一つでした。

——いま岡田さんがやりたいこと、というのは?

岡田:例えば、小林秀雄という役は知的でありながら、どこか色気がある。そして、中原中也と長谷川泰子の間に入って三角関係になるじゃないですか。脚本を読んだ時に、三角関係において小林が受動的なのか能動的なのかが分からなかったんですよ。そこに惹かれるところがあって。自分が何かを求めていながらも、それを求める代わりに何かを失ってしまう、という状況が好きなんですよね。それがどうしてなんだろう、と思っていて。だから、小林を演じることで、自分が好きなこと、やりたいことを見つめ直すことができるのではないかと思ったんです。

——撮影に入る前に、小林秀雄という人物を知るために何か準備されたことはありますか?

岡田:脚本を読んでから撮影に入るまで時間があったので、根岸監督から頂いた資料に目を通したり、小林さんの本を読んだりしました。でも、小林さんがどんな人かは分からないまま撮影に入ったんです。分からないから演じるのが面白いんですよ。小林さんを演じていて大切にしていたことは、泰子を通じて中原を見るということでした。そして、泰子と中原の関係を、ある種、達観したような距離で見ることで小林秀雄というキャラクターが際立つのではないかと思いました。だから(広瀬すずさん、木戸大聖さんと)3人でリハーサルをする時は、自分はどういう立ち位置にいて、2人をどんな風に見ているのが正解なんだろう、ということを一番考えていました。

——広瀬すずさん、木戸大聖さんとの共演はいかがでした?

岡田:広瀬さんとは、以前、朝ドラ(「なつぞら」)で共演させて頂いたので、彼女の集中力や現場の雰囲気はよく分かっていました。だから、現場では必要以上の会話はしませんでしたし、そうなるだろうなと思っていました。大聖とは撮影の合間に話をしていましたけど、彼は無我夢中で中原中也になろうとしていましたね。今回の映画は3人それぞれが役に集中しないと成立しないので、毎日、撮影が終わるとすごい疲労感なんです。この映画は中也と泰子の物語なので、僕は2人を支える柱になれれば、と思っていました。その支えようとする気持ちが小林という役に通じると思ったんです。でも、それは僕が2人より年上だったのも関係あるかもしれないですね。僕は2人とは10歳くらい離れているんですけど、2人の喧嘩のシーンのエネルギーのぶつかり方の激しさを見たら入っていけそうにない。大丈夫? 疲れてない?って思ったりして(笑)。

——中原中也、長谷川泰子、小林秀雄が織りなす濃密な関係についてはどう思われました?

岡田:運命共同体になろうとしている人たち、という気がしました。特に泰子に関しては、そういう関係になろうとする気持ちが強いように思えましたね。それは僕が小林の目線で見ていたからかもしれませんが。最初、中也と泰子が付き合っていて、そこに小林が出てきて空気が変わるじゃないですか。2人だけだとグラグラした関係だけど、小林が入ると妙に安定するんですよね。それがこの映画の面白さだと思います。現場に入った時はどんな風に演じようか不安があったんですけど、3人で初めて本読みをやった時に、すっと腑に落ちたところがあったんです。映画の中で3人がボートに乗るシーンがあるんですけど、3人が座る位置が絶妙なんですよ。少しでも位置がずれるとボートは沈んでしまうかもしれない。3人の関係性が、あのボートのシーンに象徴されていたと思います。

中原中也と小林秀雄の関係

——三角関係で特に興味深いのは中也と小林の関係です。1人の女性をめぐって対立しながらも、相手に対するリスペクトは失われていないし、文学に対する情熱を共有していて絶交するようなことにはならない。

岡田:小林が中也と2人で話をしていて、付き合っている泰子の愚痴を言うシーンがあるんですけど、それが面白くて。これは僕が20代だったら分からなかった感覚でした。30代になったことで小林の人間臭さが分かるようになった気がします。あれは中也と小林の関係性がよく分かるシーンです。

——大正時代という背景も、この物語の重要な要素だと思いました。西洋の影響を受けて日本の文化が大きく変わろうとしている中で、小林と中也は詩人のランボーや海外の文学に刺激を受けていて、そういう開かれた感性や文学に対する一途な思いが2人を結びつけている。

岡田:大正時代は変化の時代で、それを受け入れられる人と受け入れられない人がいたと思います。小林や中也は変化を受け入れた上で、それを自分のものにしようとした。今はいろんな情報が溢れ返っていますけど、当時は情報が限られているぶん、一つのことに対する情熱の注ぎ方がすごいんですよ。ランボーという詩人がヤバい!ということになるとランボーの話ばかり。それって、小学生が学校の休み時間に好きなもの話をしているみたいな感じだなって、小林を演じていて思いました。そういえば、僕は初舞台でランボーの役を演じさせてもらったんですよ。その時にランボーの詩集を初めて読みました。だから、この映画で中也がランボーを読んで感動しているのを見て不思議な感覚になりました。あの舞台をやったことが、こんな形で活きてくるんだなって。

——不思議な縁ですね。岡田さんが根岸監督の作品に出演されるのは初めてでしたが、いかがでした?

岡田:根岸監督は撮影に入る前も入ってからもとても紳士的で、少年のようにまっすぐな眼差しで映画を撮っている姿が輝いて見えました。3人の主人公をとても愛でていることも伝わってきて、それにグッときたんです。小林秀雄は前髪を指でくるくる回す癖があるとか、そういう細かいことも教えてくださって、「このシーンだったら、それがやれるかもしれない」というのを自分で精査してやってみたりしました。そういうことが監督に伝わって僕のこと信頼してくださったのかもしれませんが、演技に関してはほぼ任せてくれましたね。そして、僕の方から監督に「このシーンでの動きは……」など、細かいことを尋ねるのはやめようと思ったんです。

——それはどうしてでしょう。

岡田:監督の視線が中也の視線だということが分かったからです。だから、僕が監督と密に話すより、監督の様子を離れたところから見ている方が小林っぽい気がしたんです。監督が中也に夢中だったので、木戸大聖という役者の底上げがとてつもなかった。監督は大聖に対して熱っぽく、時には厳しく接していて、撮影をしている間に大聖がどんどん中原中也になっていったんです。共演していて、木戸大聖なのか中原中也なのか分からない時が何度もありました。

映画への熱い想い

——この映画では大掛かりなセットも組まれていますが、そういった環境が演技に与えた影響も大きかったのではないでしょうか。

岡田:大きいですね。美術の完成度が高いと芝居がしやすくなるんです。役者は余計なことをしなくても、その場に立っているだけでシーンが成立するというか。今回の撮影では、映画だからこその素晴らしいセットに圧倒されました。この映画に参加したいと思ったのは、もっと映画の現場を体験したいという思いもあったんです。

——映画の現場は特別な何かがあるのでしょうか。

岡田:最近は映画もドラマも現場は変わらなくなってきたと言われますけど、まず時間のかけ方が違うんです。映画は時間をかけて撮影しているので、我々役者が役に向き合う時間も違ってくる。ワンショットワンショットの強度も違うと思います。だから、役者もすごく集中しなくてはいけなくて、そうした一つひとつの積み重ねが2時間前後の映画になっていく。それがすごく尊い作業に思えるんです。

——映画の現場だからこその緊張感があるんですね。

岡田:僕はいちばん最初の仕事が映画だったんです。しかも、フィルム撮影でした。こんな贅沢なことはないぞ、と当時、現場のスタッフさんから言われたんですけど、デビューしたばかりだったのでよく分かっていなかったんです。歳を重ねるにつれて、その大切さが分かるようになってきて。その時のスタッフさんと現場で会うこともあるんですけど、今ではほとんどデジタル撮影になっていて。フィルムはお金も時間もかかってしまうので。だから、自分はとても幸運なスタートを切れたんだなって思いますし、だからこそ映画という現場を大事にしたいと思っています。

——根岸監督が少年のような眼差しで映画を撮っていた、というお話でしたが、岡田さんにとっても映画の現場は初心に返る場所なんですね。

岡田:映画の撮影は時間がかかる分、体力も精神力も消耗しますし、日に日に自分が削られていくように感じますが、完成した作品を観た時に諦めずに撮ったカットが良かったりするとうれしいんです。また頑張ろうと思える。そういうことを経験しているから、どんなに撮影が大変でもワクワクするんです。撮影をしている時は35歳の身体ではなく、10代の身体になっているような気持ちがするんですよね(笑)。

PHOTOS:YUKI KAWASHIMA
STYLING:YUSUKE OISHI
HAIR & MAKEUP:REICO KOBAYASHI

ジャケット 5万5000円、カーディガン3万1900円、パンツ 2万9700円、シューズ 5万2800円/全てニードルズ(ネペンテス 03-3400-7227)、ネックレス 5万3350円/END(アルファPR 03-5413-3546)

映画「ゆきてかへらぬ」

■映画「ゆきてかへらぬ」
2月21日からTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

京都。まだ芽の出ない女優、長谷川泰子(広瀬すず)は、まだ学生だった中原中也(木戸大聖)と出逢った。20歳の泰子と17歳の中也。どこか虚勢を張るふたりは、互いに惹かれ、一緒に暮らしはじめる。東京。泰子と中也が引っ越した家を、小林秀雄(岡田将生)がふいに訪れる。中也の詩人としての才能を誰よりも知る男。そして、中也も批評の達人である小林に一目置かれることを誇りに思っていた。男たちの仲睦まじい様子を目の当たりにして、泰子は複雑な気持ちになる。しかし、泰子と出逢ってしまった小林もまた彼女の魅力に気づく。本物を求める評論家は新進女優にも本物を見出した。そうして、複雑でシンプルな関係がはじまる。ひとりの女が、ふたりの男に愛されること。それはアーティストたちの青春でもあった。

監督:根岸吉太郎
脚本:田中陽造
出演:広瀬すず、木戸大聖、岡田将生
田中俊介、トータス松本、瀧内公美、草刈民代、カトウシンスケ、藤間爽子、柄本佑
配給:キノフィルムズ
©︎2025「ゆきてかへらぬ」製作委員会
https://www.yukitekaheranu.jp/

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