1993年から上海在住のライターでメイクアップアーティストでもあるヒキタミワさんの「上海日記」は、ファッションやビューティの最新トレンドや人気のグルメ&ライフスタイル情報をベテランの業界人目線でお届けします。今回は中国でいま注目を集める「アートメイク」。日本でも眉などのワンポイントで広がりつつありますが、中国ではチークやノースシャドウ、さらにはファンデーションにも広がっています。
中国人女性のスッピン率が高いワケ
みなさんが思う中国風メイクといえば、チャイボーグメイクやワンホンメイクなど、陶器のような肌にキリッとした眉、シャープなアイライン、そして真っ赤な口紅をイメージするのではないだろうか? ところが、日本人が中国に来て驚くのは、中国人女性のスッピン率の高さだ。「メイクをしないで外出できるなんて、すごい勇気!」と思ってしまうが、中国社会ではメイクをしなくても許される、大人の身だしなみの一部とは見なされていない、というのが大前提なのだ。
では、なぜメイクをしないのだろう? メイクレッスンのたびに「メイクをしない理由」を生徒さんに聞いているが、大きく分けて3つの理由がある。
1つ目は「時間がないから」。いやいや、お手伝いさんがいない日本人の方がもっと忙しいはずなのに、メイクはマスト(上海ではお手伝いさんがいる家庭が多い)。「時間は作るものだ」「メイクしない=服を着ないで出かけるのと同じだ」と力説するが、何よりも2つ目の理由は「クレンジングが面倒くさい」というもの。メイクをしなければクレンジングの必要もない、まさに一石二鳥という感覚でいる。そして最後の理由は「メイクの仕方がわからない」。これなら理解できるが、「だったら習ってみたら?」と私。メイクを習えば、普段よりもっと美しくなれるチャンスがあるのに、それを逃しているのはもったいないと常々中国人女性に伝えているが、なかなか定着しない(力不足か)。
ただ、これは40代以降の話で、今のZ世代女子たちは、ここ数年で進化した中国のプチプラコスメを駆使してメイクを楽しんでいる(この話はまた次回以降に)。
中国で「アートメイク」が広がるワケ
さて、普段メイクをしない彼女たちだが、実は100%スッピンというわけではない。面倒くさがりな人ほど、アートメイクに頼ることが多い(中国では普通の美容サロンで気軽にアートメイクを施すことができる)。つまり、少なくとも「きれいに見せたい」気持ちはあるのね? 嗚呼よかった!
1980年代後半に眉とアイラインのアートメイクが流行し、流行に敏感な上海人女性たちはこぞって飛びついた。ただ当時の技術は未熟で、時間の経過とともに眉が緑に変色し、耐えられず消した人や、そのままにしている人も多い。そして時代の変化とともに、眉やアイラインだけでなく、口紅、チーク、アイシャドウ、ノーズシャドウの半永久アートメイクまで登場。そこにまつげエクステを加え、パウダーをはたけば、ほぼメイク完成という状態にまで技術が進んできた(額が広くなった人は、産毛までアートメイクで整えている)。
それだけでも驚きだったが、さらに衝撃的なニュースが…。なんと、最後の砦であるファンデーションまで肌に埋め込む人が登場し始めたのだ。顔全体にベージュの液体を埋め込むという衝撃的な施術。肌の黒ずみ部分を白くすることもできるらしく、目の下のクマや膝、脇の下、妊娠線(!)にまでファンデーションを仕込む人が出現。「真皮層にまで達すると危険なのでやめましょう」という医師の警告が動画で拡散されるほど、将来の肌への影響が未知数な施術だが、それでも施術者は「これはリキッドファンデーションを埋め込むのでも、タトゥーでもなく、ただ色の差を整えているだけだ」と言い切る。「楽になるなら何でもやっちゃおう!」という大胆さこそが、中国人女性の特徴とも言えるのかもしれない。
日々進化する美容技術と中国人女性たちの美意識の変化を追うのがとても楽しく、目が離せない。次はどんな技術が登場するのか? また皆さんとシェアできたら。