PROFILE: ヴィクトワール・ドゥ・タイヤック「オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー」ブランドディレクター

フランス発「オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー(OFFICINE UNIVERSELLE BULY)」(以下、ビュリー)のブランドディレクターを務めるヴィクトワール・ドゥ・タイヤック(Victoire de Taillac)が来日した。同ブランドは、1803年に調香師だったクロード・ビュリー(Claude Bully)と息子のジャン・ヴァンサン・ビュリー(Jean Vincent Bully)が“オフィシーヌ(総合美容専門店)”としてパリで創業。アートディレクターで夫であるラムダン・トゥアミ(Ramdane Touhami)とタイヤック2人で2014年に同ブランドを復活し、仏19世紀の世界観を反映したフレグランスやスキンケア、美容雑貨を販売している。21年にはLVMHグループ傘下に入り、世界12カ国、51店舗を展開。日本には17年、代官山に出店後、現在、直営店20店舗を運営している。独自の世界観が反映された商品や店舗、サービスで世界的に大成功を収めている。のパリジェンヌの19世紀の美容法を綴った新著「美しくある秘訣」の発表イベントのために来日したタイヤックに成功の極意について聞いた。
美意識を通して届ける“美と機能性”の融合した製品
WWD:「ビュリー」を復活する際、大切にしたことは?
ヴィクトワール・ドゥ・タイヤック「オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー」ブランドディレクター(以下、タイヤック):夫のラムダンと19世紀のアーカイブや歴史を見て、“美と機能性”が融合した「ビュリー」こそ、私たちの暮らしにほしいブランドだと実感した。小さいチームでの復活は大変だったが、簡素化はせずに、製品展開から店舗作りまで一切妥協せずに世界観にこだわった。ラッピングやカリグラフィーなど、(接客に)時間がかかることにもこだわったのが成功の秘訣だと思う。
WWD:「ビュリー」のブランド哲学は?
タイヤック:歴史のあるライフスタイルブランドで、洗練され、調和に満ちた自然美容法の知識を分かち合うのが目的。製品をはじめ、店舗やスタッフの立ち振る舞い全てにブランドの美意識を反映している。ショップでも自宅で製品を手に取るときも、それを感じてほしいから。
新商品はアイデアから湧き出るものであるべき
WWD:「ビュリー」の商品開発は?どのように当時の処方を現代の製品に置き換えている?
タイヤック:商品数は800点以上。櫛だけでも200点以上ある。毎年新商品を出すわけではない。新商品はアイデアありき、ラムダンと2人で「これがあったらいいね、素敵だね」という日々の会話の中から湧き出るものだと考えている。それが結果として商品になる。「ビュリー」は19世紀にインスパイアされているが、当時の処方は使えない。だから、“レトロフューチャリズム”をキーワードに、昔からある処方と今の技術を掛け合わせた新しい製品を打ち出している。水性香水はその代表的な例。フレグランスマッチやカーフレグランスは、全く新しいアイデアから。
WWD:カリグラフィーのサービスが人気だが?
タイヤック:カリグラフィーは、古い手書きの領収書が着想源。資料で見つけてとても素敵だと思った。カリグラフィーは人によるが、習得するには3カ月以上、上達に1年と時間がかかり、日々の練習が必要だ。サービスとしてカリグラフィーを採用するのはチャレンジングだと思ったが、今では、300人以上のスタッフ全てが習得。とても誇らしく思う。ショッピングをはじめ、全てが時間との戦いで効率が優先される時代だ。こんな時代だからこそ、ゆっくり時間が流れるカリグラフィーに専念することは販売員にとって大切なこと。その優雅な時間の流れをお客さまにも感じてもらえれば、嬉しい。カリグラフィーは販売員の大切なスキルの一つであり、お客さまとの関係性を築く鍵にもなっている。
自由なクリエイティビティーと最高のリテール体験の融合
WWD:「ビュリー」2014年に創業して21年にはLVMHの傘下に入った。その効果は?
タイヤック:他のブランドにはない特別の世界観がその大きな理由だ。全ての人に受け入れられるとは思っていないが、「ビュリー」の世界観を作り出すわれわれの熱量は相当なもので、全てを注ぎ込んでいる。ラムダンも私も会社を始めたときはフリーランスだったが、今は、ラグジュアリーを代表するLVMH傘下で、彼らの視点を通して「ビュリー」を知ることができ、学ぶことも多い。「ビュリー」の哲学を貫きつつ、LVMHの優れた点を取り入れながら、両者にとっていい方法を導き出している。自由なクリエイティビティーと最高のリテール体験の融合を可能にしている。
WWD:短期間でブランディングを成功させる秘訣は?
タイヤック:ブランディングは愛そのもの。美的感覚を大切にし、発想から生まれた製品を提案することが大切だ。アイデンティティーは製品や店舗をはじめ、スタッフのユニフォームや接客全てに現れるべきだと考える。
WWD:今後、どのように「ビュリー」を育てていきたいか?
タイヤック:パリに5店舗目をオープンするし、今後も出店は継続する。3年以内に、「ビュリー」としてウェルビーイングを体験する場を作りたい。「オテル・ドゥ・クリヨン(HOTEL DE CRILLON)」にアメニティーを提供しているし、オリエント急行とも協業している。日本の飲食店ともソープディスペンサーなどによりアメニティー事業を広げていきたい。