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EC拡大で注目度急上昇の「返品DX」、損保ジャパンが外資と組んで本格参入へ

INDEX
  • 「返品DX」が注目されるワケ
  • 3人の担当者が語る、損保ジャパンが「返品DX」に参入する理由
  • 返品をポジティブに 返品送料無料で顧客満足度を高める

顧客体験の向上により業績を伸ばそうとする企業が増える中、ECの返品にまつわる顧客体験の向上で売り上げ・収益の伸長を支援しようという新しい返品DXサービスが登場した。損保ジャパンが日本エマージェンシーアシスタンス(EAJ)と協業して提供する「リターンプラス(Return+)」だ。

「返品DX」が注目されるワケ

このサービスの最大の特徴は、EC事業者側が負担する返品送料のコストキャップ保証だ。返品をフリー(無料)にする場合、返品率の上昇に伴うコスト増が企業にとって重荷になりがちだ。「リターンプラス」では事前に返品率を予測し、万が一、予測を上回る返品送料負担が発生した場合でも、企業は安心して返品無料化策を導入できることになる。購入者にはECでの購入ハードルを下げ、サイズやイメージが合わなければ返品できるという安心感を、EC事業者にはコストの上振れリスクを回避しながら売り上げ向上や利用者拡大を目指せるという安心感を提供する。

2つ目の特徴は、米国発の返品プラットフォーム「ナーバー(Narvar)」との連携によるユーザーが直感的に操作できる専用の返品用ページと管理システムだ。返品ポリシーの事前設定により、カスタマーサポート部門による顧客対応や返品情報の記入が原則不要になり、売り上げ拡大に比例して増大しがちな人件費やコストを抑制することができるようになる。返品理由の項目を設定することで、マーケティングやモノ作りにも活用できることになる。

3つ目は物流会社と連携して静脈物流網を整備し、お客さまが自身の都合に応じて自宅引き取りやコンビニ持ち込みなど返品手段を選ぶことを可能にしている点だ。事業者は自社で手配する必要がなく、返品先も倉庫、オフィス、店舗などにカスタマイズ設定できるため、コストも時間も削減につなげることが可能になるという。

それにしてもなぜ異業種である損保ジャパンがファッションECを中心とした返品フリーのサービスを開発したのか。その背景や期待される効果などを、損保ジャパンの情報通信産業部開発課で新規事業を担当する曽我純也氏と川上美咲氏、山﨑貴弘氏の3人に聞いた。

3人の担当者が語る、損保ジャパンが「返品DX」に参入する理由

――なぜ損害保険会社がファッション業界のECに着目してサービスを開発することになったのか?

川上美咲(以下、川上):世界でEC市場が年々成長を続けるなかで、国内で特に右肩上がりの高い伸びで拡大しているマーケットがアパレル小売り市場だった。しかもアパレルECにおける物流費のシェアが大きいことに着目。発展を支援できるような商品・サービスの提供ができないかと4 年前から検討してきた。ECの最大の課題は購入前に商品を試すことができないこと。しかも返品の手続きが煩雑であることがECでの買い物を阻害する要因の一つになっていた。EC 化率の高いアメリカや英国ではすでに返品しやすいソリューションが普及し、返品周りの顧客体験の向上が業界や経営のテーマにも上がって来ていた。その流れを鑑みて、日本でも返品関連のソリューションのニーズが高まると考え、昨年8月に「リターンプラス」を発表した。

――損保ジャパンとNarvar、EAJの各々の役割は?

曽我純也(以下、曽我):カスタマーサポートに強みがあるEAJが、「リターンプラス」のサービス提供者、事業主体としてEC事業者に返品送料のコストキャップ保証を提供し、損保ジャパンは「リターンプラス」を運営する事業者のビジネスを支援する損害保険を提供する。商品購入後の顧客体験に焦点を当てたポストパーチェス改善のリーディングカンパニーである米国発のナーバーがシステム周り、返品のオンライン化、自動化を担当し、商品購入者が円滑に返品ができるインターフェイスを提供する。グローバルでの導入実績も豊富で、さまざまな環境でECサイトを構築され、システム連携などつなぎの部分でも柔軟に対応いただけ、日本でも安心して多くの事業者にサービスをお届けできることになる。EAJはこれらのナーバーが提供する返品UI、物流、返品送料のコストキャップ保証、カスタマーサポートまでワンパッケージで提供していくことになる。

返品をポジティブに
返品送料無料で顧客満足度を高める

――あらためて、「リターンプラス」のサービスの特徴と、導入した場合、どのようなメリットが創出されるのか?

川上:最大の特徴は「返品送料のコストキャップ保証」にある。返品フリーにした際に返品数や返品コストがどの程度増えるか予測しにくく、上振れするのが不安だという事業者も多い。予算超過のリスクを軽減するための保険サービスとして、企業やブランドごとに返品送料コストキャップ保証サービスを提供していく。

繰り返しになるが、ECの課題は試着できないこと。購入前に買ったり触ったりサイズを確認したことがないものは購入しずらい。とくに買ったことのないお店では躊躇しがちだ。そのうえ、返品に送料がかかる、返品手続きがわかりづらい、といったことがあればなおさらネックになる。返品をフリー(無料)にして、購入者が5ステップで返品の配送手配までシステムで完了できるようにして返品にまつわる顧客体験を改善することで、購入のハードルを下げ、コンバージョンレートを上げ、まとめ買いも誘発し、売り上げアップに寄与できる。平均単価が1万5000円前後のアパレルブランドと行った「返品フリー・自宅で試着キャンペーン」では、売上高が対前年同期比で23%増、コンバージョン率は16%増など、あらゆる指標で効果が確認できました。購入者へのインタビューやアンケートでも、80%のお客さまが返品無料が購買意欲向上につながったと回答。いつもより高い商品の購入や複数の商品購入につながったというコメントもあり、手応えを感じた。キャンペーンだけ、あるいは、優良顧客や会員ランクの上位の方向けのロイヤリティプログラムのメニューとしても活用いただき、LTV(ライフタイムバリュー)を高める施策としても有意義だと思う。

――「リターンプラス」を導入すると返品が増え、コストも上がりそうだが、コスト削減にもつながるという理由は?

山﨑貴弘(山﨑):返品ソリューションを導入する企業が増えつつあるが、今でも返品を電話で受けたり、問い合わせフォームに対応したり、商品に同封した返品用紙の内容を改めて手入力するなど、人手に頼っている企業が多いと聞く。これでは売り上げが上がれば上がるほどコストが増大し続けてしまう。返品をオンライン化・自動化するとともに迷いにくいUIにすることで、問い合わせを極力減し、省力化・省人化することで返品サポートコストが削減できる。また、オンライン化によるデータ連携で、いつ、どこに、どれくらい返品が戻ってくるのかを踏まえてタイムリーに検品・加工し、美品は再販し、それ以外はアウトレットに送るなど、返品在庫のスムーズな運用にもつながる。

――返品をマーケティングにどのように生かしていくことを提案しているのか?

山﨑:ここも非常に重要なポイントだ。商品購入後にお客さまがご意見やご不満などをお持ちだったとしても黙認されがちだ。ストレスのない返品体験によって返品理由を企業にフィードバックしやすくし、商品やサービスの改善に生かし、今後の成長に役立ててもらいたい。また、返品後の確認メールやメッセージの開封率は非常に高い。これをマーケティングや顧客接点の機会ととらえ、代替商品やオススメ商品を提案したり、新たな情報発信も行うことができる。返品先を店舗に設定することで、来店動機につなげることも可能だろう。

また、アパレルの大きな課題が廃棄の削減だ。返品理由を明確化してマーケティングやモノ作りに生かせたら、大量生産・大量消費から脱却して本当に必要なものだけを作ることや、自分たちのブランドを好きで愛してくれる人たちの期待に応え続けることで、ロイヤリティの向上やサステナビリティにもつなげてほしい。返品フリーにすることで、ニーズにフィットした愛着が持てる商品を長く着用してもらえたり、連携先のリバースロジスティクスを活用することでCO2の抑制などにもつながるはずだ。

――今後の導入予定や、推奨ジャンル等は?

曽我:百貨店やアパレル、郊外型チェーンストアやD2Cのインナー企業などと話を進めているところで、本格導入はこれからだ。サイズやフィット感、素材感、コーディネートなどを試着して確かめたいシューズや布帛のシャツやワンピース、ジャケット、コートやデザイン性の高いアイテム、D2Cブランド、価格帯で言うと中価格帯以上の単価の商品を扱うブランドやストアとの相性が良さそうだ。返品はコストという意識から、良い返品体験が売り上げ、収益、ロイヤリティ向上につながると認識が変わり、実感する企業やブランドが増えてほしい。とくに、店舗だけ、ECだけの利用ではなく、両方を利用いただくことで、1人の方の年間買上げ額が3倍近くなるというデータがあるように、OMO(オンラインとオフラインの融合)やユニファイドコマースを進める中で、返品体験は売上げ、ロイヤリティ、LTVなどを伸ばすうえで重要な役割を果たせると思う。

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