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百貨店を食っちゃうぞ 大丸松坂屋の虎の子「アナザーアドレス」 牙磨き5年目

INDEX
  • ファッションレンタルの過渡期に 百貨店のバックボーンが生きる
  • 「助けられた」百貨店を いつかは「助ける」存在に

大丸松坂屋百貨店が運営するファッションレンタルのサブスクサービス「アナザーアドレス(ANOTHER ADDRESS)」が3月で5年目を迎える。サービススタート当初は、海外のデザイナーズブランドの服などがレンタルできる点に注目が集まったが、クリエイターに光を当てたり、業界のサステナビリティに一石を投じたりと、ファッションレンタルの枠を超えた広がりを見せている。

「アナザーアドレス」はこのほど、同サービス主催のファッションデザインコンテスト「ループアワード」の表彰式を東京・代々木第一体育館で実施した。レンタルを繰り返し、役目を終えた古着をリメイクした作品のできばえを、プロデザイナー部門と学生/アマチュア部門に分けて審査。総合グランプリと部門賞を表彰した。

表彰式の会場となった代々木第一体育館では、14〜16日にかけ、ファッションやアート、ライフスタイルなどの事業者やクリエイターなど約400組が出展する祭典「ニューエナジートウキョウ」が開催された。「アナザーアドレス」はブース出展も実施し、環境省に採択された衣類のアップサイクルプロジェクト「roop」やその成果のパネル展示、アパレル廃材を使用したアート作品の展示・制作体験コーナーなども設けた。

表彰式の前日、「これほど大掛かりのイベントは初めて。昨日は徹夜だった」と赤い目をこすっていた事業責任者の田端竜也氏。会場でサービスの展望を聞いた。

WWD:今回の取り組みの背景について。

田端竜也「アナザーアドレス」事業責任者(以下、田端):まず、このイベント自体で収益を上げるつもりは毛頭なく、あくまで「アナザーアドレス」の取り組み、その背景にあるパーパスの認知活動が目的です。

今回のイベントは、環境省によるカーボンニュートラルに向けた民間事業との連携プロジェクト「デコ活」の支援を受けています。“デコ活”はこれまでの“クールビズ”みたいにスーツを脱ぎなさい、エアコンの温度を下げなさい、とあれこれ指導するのではなく、「消費者が本当にいいと思って使った商品やサービスが、実は環境にもいいものだった」というような企業の取り組みを、国の補助金を使って支援するものです。「アナザーアドレス」はその1号案件として採択されました。

WWD:なぜサステナビリティに力を入れるのか。

田端:サステナビリティは「アナザーアドレス」の後付けのコンセプトではなく、サービスの根幹です。僕たちの調査では、概算ではあるものの、「アナザーアドレス」の利用者は服を買う数が年間で13着減ったというデータがあります。もちろん、服の配送やクリーニングにはコストがかかりますが、それを差し引いても、1人あたり年間250kgのCO2排出抑制につながっている計算です。また数字には表れにくいですが、消費者の購買行動にもいい影響を与えているはず。安価な服を買ってすぐに捨てるのではなく、「長く使えるいい服を着る」という意識が広がっていると感じます。2年前には、レンタルで汚れた服を染め直したり、パッチワークしたりして販売する「リアドレス」というオリジナルブランドも始めましたが、お客さまからは非常にいい反応をいただけています。

ファッションレンタルの過渡期に
百貨店のバックボーンが生きる

WWD:ファッションレンタル市場も過渡期にある。

田端:市場の成熟につれ、サービスの選別・淘汰も進んでいるのは事実でしょう。有力レンタルサービスだった「エディスト クローゼット」も昨年サービスを終了してしまいました。その中で、改めて感じるわれわれの強みというのは、大丸松坂屋というバックボーンの存在です。

サービス立ち上げ当初は、ブランド側もファッションレンタルというサービスや仕組みに懐疑的で、「自分たちのブランドの価値が毀損するのでは」と及び腰でした。それでも、「大丸松坂屋さんなら」と信頼感から協力してくれたケースも多かったんです。それから、僕らはブランドから買い取った服をレンタルしているため、事業の拡大に伴う商品在庫・バリエーションの拡充には多額の資金が必要になります。百貨店の潤沢な資本力はすごく心強かったです。

正直、「百貨店のオールドファッションなイメージがサブスクサービスの足枷になるのでは」と懸念していました。「サブスクなんてやってどうなるんだ」と周りからあれこれ言わるだろうなとも。しかし今では会社が一番の理解者であり、応援者だと感じています。今回の「ループアワード」の審査員である宗森(耕ニ・大丸松坂屋百貨店社長)も、開催をとても楽しみにしてくれていました。

「助けられた」百貨店を
いつかは「助ける」存在に

WWD:課題は?

田端:イノベーター層やアーリーアダプター層、いわゆる時代の流れに敏感な人たちには、一定程度浸透してきたと実感しています。ただその先にあるキャズム(市場の溝)を超えて一般層に広げるには、まだまだ認知が足りない。オンライン完結型のサービスとして運営してきましたが、やはり画面越しだけでは伝わりきらない部分もあると感じています。だからこそ、今回のようなリアルイベントもそうですし、僕たち百貨店には「店舗」という強い武器があるのだから、オフラインでのアプローチにも積極的に取り組んでいきたいですね。

また、BtoBの領域にも可能性を感じています。ブライダル会社やイベントの企画会社などと提携し、結婚式場や客船のクルーズパーティなどで衣装のレンタルサービスが提供できれば、新たな利用シーン・顧客層の開拓につながると考えています。

WWD:展望は。

田端:現在の登録者数は25万人。実際の利用者数はこれより少ないですが、これまでに貸し出した服の総数はのべ35万着を超えています。ただ、事業としてはまだ赤字。この中期経営計画の期間(〜27年2月期)に、まずは単月黒字までもっていきたいと思っています。

2030年、あるいは2040年になるかもしれないですが、将来的に服を「買う」と「借りる」を使い分けるのが当たり前になった社会で、「アナザーアドレス」がファッションレンタルサービスの中で真っ先に思い浮かぶでありたい。大丸松坂屋の百貨店事業を「食っちゃうぞ」くらいの意気込みで事業を大きくする。さっきは「助けられた」と言っておいてなのですが(笑)。そしていつか、「アナザーアドレスがあってよかった」と言われるようになって、恩を返したいですね。

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