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花王のヘアケアがドラッグストア売り場を再席巻 シャンプー“1760円”がヒット

INDEX
  • 組織体制を抜本的に革新
  • 「ジアンサー」が売れた理由
  • 1500円は“戦国時代” ウエルシアとの取り組みも結実

花王がヘアケア事業の再構築に本腰を入れている。2024年4月に「エッセンシャル(ESSENTIAL)」のリブランディングと、新ブランド「メルト(MELT)」を投入。10月は「セグレタ(SEGRETA)」のリブランディングと、新ブランド「ジアンサー(THE ANSWER)」を立ち上げた。25年春には「家族シャンプー」の代名詞でもある「メリット(MERIT)」のリブランディングを控える。今夏には事業変革の第3弾となる新ブランドが誕生し、ついに新勢力・御三家が出そろう計画だ。25年は「花王ヘアケア史上最大のブランドアクション」を起こし、これまでにない規模の変革を加速する。

新生ヘアケア事業が着実に成果を上げる中、2つの新ブランドの成長が際立っている。24年4月に発売した「メルト」は発売から8カ月で販売計画の2.7倍を達成し、インバス製品の累計出荷数(24年4〜12月)は125万本を突破した。24年11月に発売した「ジアンサー」は、発売3カ月で計画比約2倍の売れ行きを記録し、好調な滑り出しを見せている。両ブランドともに中心価格帯は1760円(編集部調べ)で、市場に新たな潮流をもたらしている。こうした動きを受け、花王のインバスヘアケア市場における売り上げシェアは9年ぶりに全面回復を果たした。

組織体制を抜本的に革新

花王は長年、ドラッグストアのヘアケア市場で先頭を走ってきたが、新興メーカーが手がける1500円前後の製品が台頭し始めた17年を境に、同社の成長は鈍化した。23年の取材時にヘアケア第1事業部 事業部長を務めていた内山智子氏(現・カネボウ化粧品社長)は、「購入の決め手となる優先順位が大きく変わり、これまでの機能軸から情緒を重要視するお客さまが増えてきていることに気づくのが遅れた。自分たちの強みである品質や技術力を生かそうという気持ちにこだわるあまり、定義が難しい情緒的価値への対応が後手に回ってしまった」と振り返る。そこで、機能性だけではなく情緒的価値を取り入れた製品開発へと大きく舵を切った。

それが、ヘアケア事業変革の柱の1つ、感性マーケティングに沿った開発だ。論理的に人の感情のニーズを6つ(ポジティブ・リフレッシュ/自然体・リラックス/優しさ・安心感/調和・こだわり/洗練・ぜいたく/躍動的・エネルギッシュ)に分け、各ブランドを配置。パッケージ、製品体験、広告、全て一貫して「同じ感情」を引き起こす設計を取り入れている。

さらに、この戦略を実行するために組織体制も見直した。従来のバケツリレー型の開発プロセスを廃止し、プロジェクトに関わる全員が最初から参加するスクラム型を導入。首尾一貫した体制を整えた。この新たな組織では、全員がフラットな関係性を持ち、自発的にアイディアが生まれる環境を構築。これにより、イノベーションを促進しながら、スピード感のある事業へと生まれ変わった。

「ジアンサー」が売れた理由

「メルト」は“休息美容”をコンセプトに掲げ、香りや“髪の化粧水”と呼ばれるアウトバスがSNSで話題を集め、計画を上回る販売実績を記録した。しかし、SNS上でUGC(ユーザー生成コンテンツ)が活発化するまでには4〜5カ月を要した。この課題を踏まえ、次に展開した「ジアンサー」は、拡散までの時間を短縮させるために「メルト」で得た知見を基に、コミュニケーション施策をPDCAで改善。UGCに火を付けるPGC(プロ生成コンテンツ)にも注力した。一定の広告が必要であると判断し、発売前には、製品デザインやブランド名を伏せたタイアップ記事を美容雑誌で掲載するなど、期待感を醸成。発売後には、花王のヘアケア事業では初の試みとなるLINEやYahooで広告を展開した。これにより段階的に実績を積み上げ、2〜3カ月で話題の波を生み出すことに成功した。

さらに、他のシャンプーとは一線を画す“塗り洗い”という新たな洗髪スタイルを提案し、ヒットにつなげた。一般的なシャンプーは泡立ててから使用することが多いが、同ブランドのシャンプーは独自のテクスチャーを採用。髪全体に塗ってから泡立てて洗うことで、成分をより均一に行き渡らせ、髪をケアしながら洗うことを可能にした。この新技術によるシャンプー体験と、感性マーケティングに基づく「こだわり・調和」のニーズを満たすことで、消費者に合理的な納得感を提供し、支持を獲得した。

「ジアンサー」は「メルト」とは対照的で、ネーミングやパッケージデザインを含め、「かわいらしさや女性らしさを前面に出していない」点が特徴だ。パケ買い傾向が高い「メルト」と異なり、「ジアンサー」のパッケージは、徹底してソリッドに作り上げたという。野原聡ブランドマネジャーは「競合は約150ブランドあるが、われわれは感情の軸を貫いた製品づくりをしている。技術と個性を融合できるのは『ジアンサー』ならでは」と強調する。

購入者層は、自分に合うヘアケア製品を探している“ヘアケア難民”や、美容に関心の高い30〜40代の女性が圧倒的に多く、「こうした設計思想を持つブランドからの流入が顕著だ」(野原マネジャー)と分析する。SNSでは「正解が見つかった」といった好評の声も目立つ。

当初から女性を主なターゲットとしてきたが、男性の支持も広がりつつある。「男性は頭皮ケア製品の人気が根強いものの、髪の美しさを気にする男性も増えている。一部の男性誌では、スタイリストが『お気に入りの1本』として紹介するケースも出てきている」と、今後男性客の獲得にも期待がかかる。

1500円は“戦国時代”
ウエルシアとの取り組みも結実

現在、ドラッグストアで唯一取り扱うウエルシアグループとの取り組みも奏功した。店頭で目を引くポップや装飾の工夫に加え、ウエルシアの会員データを活用したリテールメディアでの配信を行うなど検証を重ねてきた。

ウエルシアでは従来、1500円前後のプレミアム価格帯の製品を「他社に先駆けて拡充してきた」という。しかし、同社は1700〜2000円のハイプレミアム価格の市場に可能性を見出していた。丸山沙織ウエルシア薬局 商品本部 化粧品商品部長は、「プレミアム製品は好調だが、市場は競争が激化している。同様の製品が他社でも展開される中、1ランク上の製品が求められると分析した。実際『ジアンサー』のように、成分や製品力に優れた製品であれば、高価格帯でもお客さまが買いに来てくれる」とし、特に西日本エリアでの販売が伸びているという。

今春には、現在ウエルシアで展開する約3000店舗の倍以上にあたる販売網を構築する計画だ。さらに、3月22日にはアウトバス向けのオイルとウォーターセラムを発売するなど、攻めの姿勢を崩さない。

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