ファッション

パリ発、気鋭ランニングブランド「サティスファイ」 創業者が語る“カルチャーとしてのランニング”

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世界的なランニング市場の盛り上がりは、フランス・パリでも感じられる。10年ほど前から街中でランナーを見かける機会が多くなり、コロナ禍のロックダウンがそれをさらに後押しした。2024年のパリ五輪期間中は世界中からアスリートが集まり、毎日のようにスポーツブランドやランニングクラブが主催するグループランが開かれた。ランニング人口の増加に伴い新たなブランドが誕生する中で、カルト的な人気を誇るのが15年に設立された「サティスファイ(SATISFY)」だ。「ホカ(HOKA)」「オークリー(OAKLEY)」など、人気ブランドからのコラボのラブコールも絶えない存在となっている。(この記事は「WWDJAPAN」2月24日号からの抜粋に加筆しています)

「サティスファイ」はスキニージーンズで人気を博した「エイプリル77(APRIL 77)」を手掛けていたブライス・パルトゥーシュ(Brice Partouche)が立ち上げたランニングウエアブランドで、ファッション業界での経験を背景に、機能性と共にデザイン性にも重点を置く。スケートボードやパンクロックのカルチャーに触れてきた彼の美学を反映し、ビンテージ加工やニュアンスカラー、パッチーワークのディテールなどをポイントにしたランニングウエアを展開する。

イタリア製のSpace-Oマイクロジャージーを使用し、超軽量化を実現したショーツが3万9000円〜、吸水速乾性のある日本製のCloudMerinoウールジャージーを使用したTシャツが5万5000円〜と、ランニングウエアとして高価格帯ながら、世界で100店舗以上の小売店で取り扱われ、24年の年間売上高は前年2倍の1200万ユーロ(約19億円)に達したという。

ブランドが影響力を増すのに伴い、組織としてもパワーアップしている。24 年には、米VFコーポレーションの「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」で副社長を務めたジャン=マルク・ジアン(Jean-Marc Djian)が、新たに設けたフットウエアラインの責任者に着任。7月に初のランニングシューズ“TheROCKER(ザ ロッカー)”を、270ユーロ(約4万3000円)で発売することが決まっている。また、24年末には、18〜23年に「セリーヌ(CELINE)」のオムニチャンネル部門副社長を務めたアントワーヌ・オーヴィネ(Antoine Auvinet)をCEOとして迎え入れた。創業者兼アーティスティック・ディレクターであるブライス・パルトゥーシュに、ランニングへの情熱からブランドの哲学、フットウエアの開発過程まで詳しく聞いた。

INTERVIEW
「ランニングは自己表現の手段」

ーーそもそも、走るようになったきっかけは何だったのか。

ブライス・パルトゥーシュ「サティスファイ」創業者兼ディレクター(以下、ブライス):友人の影響で2014年から走るようになり、人生が変わった。ある日、走っている最中に多幸感に包まれるランニングハイを経験したんだ。自分にとって、ランニングは単なる運動以上のもの。世界とつながる自己表現の手段でもある。走ることで成長を感じられるし、ランニングは自分の人生に欠かせないものだ。

ーーどのような考えで「サティスファイ」を立ち上げたのか。

ブライス:スケートボードとパンクロックに没頭して育った自分は、既存のアクティブウエアブランドに全く共感できなかった。どれもパフォーマンス重視で、技術的には優れていても、カルチャー的な響きがない。自分はそもそも競争や記録に興味がなく、だからこそ、スケートボードやパンクロックに惹かれた。ランニングでも、タイムの追求ではなく走ること自体や旅を目的としている。自分にとってランニングは、1970年代の自由な精神や、短パンやバンダナ、肩の力を抜いたスタイルの延長上にある。

ーー「サティスファイ」のアイテムの特徴を教えてほしい。

ブライス:「サティスファイ」は、パフォーマンス重視で画一的な既存のアクティブウエアに対する新しい選択肢だ。最高レベルのパフォーマンスを発揮しつつ、独自の美学も兼ね備え、パフォーマンスウエアと日常着の境界を曖昧にするデザインを追求している。ランニングを、“個人的な自由の手段”と捉える人たちの心に響くギアを作りたい。だからこそ、アートや音楽、アンダーグラウンドなムーブメントからインスピレーションを取り込んでいる。スケートボードと同様に、ランニングにとっても走るという行為自体と共に、そのシーンも重要だと思っている。だからこそ、ランナーだけでなく、アーティストやミュージシャンなどともつながって、ランニングをカルチャーとしてより深いものに昇華させることも目的としている。

「フットウエアはカルチャーの入り口」

ーー米「ザ・ノース・フェイス」でフットウエアの副社長を務めたジャン=マルク・ジアンが24年にフットウエア責任者に就き、25年7月には初のフットウエア“ザ ロッカー”を発売することが話題になっている。

ブライス:“ザ ロッカー”は、過度にテクニカルにならず、それでいて都市から険しいトレイルまで、現代のランナーのニーズに応えられるフットウエアだ。開発を模索し始めたのは5年前。フットウエアはアパレルよりもはるかに複雑で、当初は専門知識が全くなかった。フットウエアを中心としたプロダクトデザインを手掛ける企業、フォームズ(FOARMS)のエリック・アーレン(Erik Arlen)やジャン=マルク・ジアンと出会い、彼らの専門知識に助けられた。

ーー今後はフットウエア領域をどう成長させていくのか。

ブライス:“ザ ロッカー”のローンチは、単なる新製品の発売ではなく、パフォーマンスとカルチャーを融合させるムーブメントを築くための重要な瞬間だと捉えている。今後フットウエアでは、“ザ ロッカー”をアイコニックな存在としつつ、製品を拡充していく。トレイルランとロードランの垣根を越えて、初心者を含むあらゆるレベルのランナーに向けた製品を開発していく。

また、フットウエアはライフスタイルの一部だとも考えている。スケートボードやスノーボードのギアと同じように、ウルトラランナーでなくても、そのカルチャーやデザインを楽しむことができるようにするべきだし、フットウエアはカルチャーの入り口になれる。初心者であっても、トレイルを探検し、自然とつながっていくことができる。そのきっかけを作ることをわれわれはブランドとして目指しているし、反骨精神に満ちた視点からランニングを捉え直している。

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