ファッション
特集 パリ・コレクション2025-26年秋冬

「ディオール」の壮大な「オーランドー」に魅せられ、エフォートレスに進化する「マメ クロゴウチ」に共感 25-26年秋冬パリコレ日記vol.1

INDEX
  • 「ロンシャン」は、鉄道でパリから英国へ
  • いきなりフィナーレ!なコレクション 洋服も、そのほとんどが“後ろ前”
  • 「かたち」を模索し続ける「マメ」 半年前よりエフォートレスに進化
  • 「ディオール」の着想源はメジャー級 先史時代から遡るストーリーは超ド級
  • 不確かな時代だからこそ 「ガニー」は家の安らぎを服に
  • LEDが光る「アンリアレイジ」 21世紀のメッセージTシャツ提案
  • 「アンダーカバー」は祝35周年! 新たな形でよみがえる名コレクション
  • 成長真っ只中の「LVMH賞」セミファイナリスト
  • 「アライア」のどんな時でも、どんな場所でも美しい洋服

ミラノに続き、パリ・ファッション・ウイークの日記をスタートします!今季も取材を担当するのは、編集長・村上と欧州通信員・藪野の蟹座コンビ。初日の3月3日は開幕記事でお届けしていますので、日記は2日目から。壮大な演出と美しい服で魅了した「ディオール(DIOR)」や、ウィメンズのパリコレに復帰した「アンダーカバー(UNDERCOVER)」、公式スケジュール初参加の「アライア(ALAIA)」などのショーをリポートします!

「ロンシャン」は、鉄道でパリから英国へ

藪野淳「WWDJAPAN」欧州通信員:朝イチは、まず「ロンシャン(LONCHAMP)」の新作を見に本社へ向かいました。今季のコレクションで描いたのは、パリからイギリスへの鉄道の旅。コロナ禍以降、フランス国内がテーマになることが多かったですが、久々に外国への旅がテーマになっています。

まず出発地点のパリでは、アーティストのコンスタンタン・リアント(Constantin Riant)とコラボ。彼の描いた「ロンシャン」ブティックとパリを象徴するお店のイラストを並べたキュートなスカーフが登場しました。うっかりスカーフの写真は撮り忘れたのですが、お土産のポストカードも同じイラストが使われていました。

そしてパリを飛び出し、“イギリスで最も美しい村“と評されるコッツウォルズへ。茶系やモスグリーン、マスタード、柔らかなピンクなど温かみのある色合いが中心の世界観の中で打ち出されたのは、レザーなめしに用いるドラムから名付けられたという“ル フローネ“の新作トート。丸みを帯びたデザインが特徴で、ショルダーストラップのついた小さめサイズと肩にもかけられる長さ調節可能なハンドルのついた大容量サイズをラインアップしています。

その後は、最終目的地のロンドンへ。ここでは竹モチーフの留め具がアイコニック“ル ロゾ“に注目。その金具のデザインがダッフルコートのトグルボタンに由来することから、英国の老舗ブランド「グローバーオール(GLOVERALL)」とコラボ。“ル ロゾ“の留め具のデザインを用いたダッフルコートと、コートの生地を用いたトートバッグを制作しました。そのほか、赤と黒のカラーリングにスタッズやチェーンの装飾、“ル フローネ“のバックルを生かしたメリージェーンからもロンドンの雰囲気が漂います。

いきなりフィナーレ!なコレクション
洋服も、そのほとんどが“後ろ前”

村上要「WWDJAPAN」編集長:「ゾマー(ZOMER)」のコレクションは、いきなり、まさかのフィナーレのような大行進からスタート!不意をつかれた私は、思わず動画を撮り損ねました(笑)。

ファッションショーの構成がひっくり返ったように、今回はコレクションも前後、時には上下までひっくり返しちゃったようなカンジです。Gジャンもジャケットも、サテンのドレスも全部“後ろ前“。スカートの深いスリットも真正面に入っちゃうからドキドキしますが、逆に若々しさにもつながっています。ミニスカートは、シャツの襟をカスケード状に繋げたようです。最近「サカイ(SACAI)」や「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)が取り入れている、“見たことあるものを、見たことがないものへ“や”知っているけれど、持ってない“定番アイテムに仕上げているから、ほとんどのスタイルが後ろ前でも違和感がありません。

フィナーレでは、デザイナーも背中を向いてご挨拶。ユーモアに富んでいますね。

「かたち」を模索し続ける「マメ」
半年前よりエフォートレスに進化

村上:1年を通して同じテーマを掲げる「マメ クロゴウチ(MAME KUROGOUCHI)」は、今回も「かたち」の世界を探求。結論、私は前回よりもずっと好きでした。

話を聞いてすごく納得したのは、「かたち」の探求と黒河内真衣子デザイナーの個性がすごくパーソナルに融合しているんです。例えば濃淡さまざまな赤と黒は、毎日使っているという漆器の内側と外側の色使いや、1つ1つ微妙に異なっている形状にインスピレーションを得たもの。ダブルブレストのウールコートや、裾がふんわりペプラムのように広がったベアトップのトップス、ワンショルダーのドレスなどに仕上げました。何度も試行錯誤を繰り返したハズだけど、偶発の美だったり、用の美を探求した結果として確立された美しさを再現しているようで、エフォートレスな仕上がりです。ここに、半年前からの進化を感じました。

例えば半年前の、提灯を作る際の木型にインスパイアされた、生地を蛇腹につなげたドレスは美しかったけれど“力作“感もありました。でも今回は、全てが本当にエフォートレス。だからこそ、優しく包み込まれるイメージを掻き立てます。その提灯のアイデアは、ニットドレスのバルーン袖や裾に採用。墨流しの技法などを用いることでプリーツに陰影を与え、奥行きが広がりました。終盤には、餅のようなパーツをいくつも取り付けたアウターが登場。毎日食べる時、「今日はこうやって膨らんだんだ」とか「ここに焦げ目がつくんだ」って思うんだって(笑)。ねぇ、「かたち」を自分のものにしているでしょう?

「ディオール」の着想源はメジャー級
先史時代から遡るストーリーは超ド級

村上:お次は、2日目のハイライトの「ディオール(DIOR)」です。今回は、多くのデザイナーが刺激を受けるヴァージニア・ウルフ(Virginia Woolf)の小説「オーランド」が着想源ですが、その描き方が壮大でしたね。ビッグメゾンならではの演出はもちろん、「オーランド」が出版された1928年よりもはるか昔、文字はおろか、正直人間さえ存在していたかわからないくらいの先史時代にさえ思いを馳せる多面的な思考が、実にマリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)らしく、素敵でした。

一応「オーランド」を説明すると、これは男性として生まれたけれど、ある日目覚めたら女性になっていた主人公が、最終的には女性として生をまっとうする物語。「ディオール」でのデビュー以来、フェミニズムを掲げてきたマリア・グラツィアがついに「オーランド」への扉を開けた、と思ってしまうのは私だけでしょうか?

コレクションのキーアイテムは、つけ襟としても使えるフリル。「オーランド」の世界では貴族的な服装にあしらう、ひだひだの襟から着想を得ました。男性の制服だった白シャツに自由に取り付けられるように仕立て、コンパクトなジャケットやリラックスシルエットのコートにも合わせました。正直、つけ襟は、マストではないのだろうと思います。つけたい時はつけて、そうじゃない時は外す。そうやってマスキュリンとフェミニンを自由に行き来することこそ、「オーランド」の世界であり、女性を解放しようとするマリア・グラツィアの願いではないでしょうか?マスキュリンなジャケットにビスチエなどのスタイリングも、同様のアイデアでしょう。

そこに組み合わせたのは、メゾンの4代目デザイナー、ジャンフランコ・フェレ(Gianfranco Ferre)のデザインコード。上述の白シャツはもちろん、ダイナミックなドレープ使いなどは、フェレが再定義した「ディオール」からの着想でしょう。ジョン・ガリアーノ(JohnGalliano)による、香水“ジャドール“のフレーズを刻んだTシャツも蘇りました。

先史時代を描いた演出は、こうした「ディオール」の歴史と重ね合わせたものなのでしょうか?始祖鳥が現れたかと思えば、石器時代を彷彿とさせる岩石、マグマ、そして氷河と舞台は目まぐるしく変わりました。

藪野:スペクタクルな演出でしたよね。これは、マリア・グラツィアが尊敬するアメリカ人演出家ロバート・ウィルソン(Robert Wilson)が手掛けたもの。まるで舞台作品を見ているようでした。コレクションは、歴史的な装いやミリタリーユニホーム、バイカースタイルから着想を得たジャケットにコルセットのディテールをドッキングしたり、そこにラッフルや刺しゅう、レースが特徴のドレスやシャツ、ブラウスを合わせたり。力強さとロマンチックな繊細さを巧みに融合したクリエイションは、まさにマリア・グラツィアの真骨頂で素晴らしかったですね。

不確かな時代だからこそ
「ガニー」は家の安らぎを服に

藪野:ここからは2人別行動。僕は今季も公式スケジュール外でショーを開催するコペンハーゲン発の「ガニー(GANNI)」へ。多くのデザイナーがこの不確かな時代に対するメッセージをクリエイションに込めていますが、ディッテ・レフストラップ(Ditte Reffstrup)が目を向けたのは「自分が最も安心し、幸せを感じ、本来の自分でいられる場所」である家。安らぎを感じられるようなインテリアに見られる要素をウエアに取り入れました。例えば、ドレープを効かせたドレスやブラウスについたケープ、パンツについたペプラムはカーテンのよう。素材も花柄のジャカード素材はビンテージのソファやタペストリーを想起させ、立体的に花の装飾を編みで表現したクロシェセーターはハンドメードのブランケットやクッションをイメージさせます。またアウターのシルエットは、包み込むようなコクーンシェイプが中心。ここにも自宅でくつろぐような心地よさが反映されています。

ただ、ハリのある素材やボリュームのあるシルエット、ビンテージライクなカラーを中心にした折衷的なレイヤードスタイルの中には、やや重たい印象のものも。シアースカートを組み合わせたり、ビビッドなカラーを差しこんだりしたルックもありましたが、いつもリアルに参考になりそうなスタイリングが巧みなブランドなので軽やかさとのバランス感に期待したいところです。

そして「ガニー」は、ついに日本初の直営店を3月20日に渋谷パルコ3階にオープン予定。ヨーロッパやアメリカ、中国、韓国にはすでに店舗がいくつもありますが、日本でもこれまでより気軽に「ガニー」の世界観を感じたり、アイテムを試したりできるようになります。

LEDが光る「アンリアレイジ」
21世紀のメッセージTシャツ提案

村上:私は「アンリアレイジ(ANREALAGE)」のコレクションへ。今回は、ステンドガラスが美しいパリ市内のアメリカン・カセドラル。最古の教会の1つとして知られています。現れたのは、そんなステンドガラスに負けない鮮やかな光を放つ服。LEDで光る繊維を編み込んだ洋服は、プログラミングによって、色や柄はいかようにも変化するのでしょう。音に合わせて、そして会場の風景に合わせて、千変万化します。まずは教会のステンドグラスのように、その後は、チェック・オン・チェックが次々と変化。ポンチョやリラックスシルエットのトップス&パンツは、さながら巨大なキャンバスなのでしょう。光、色と柄、その変化を最大限に見せるため、生地は贅沢に用いました。

森永さんは、今回の洋服を21世紀のメッセージTシャツに例えました。確かにプログラミング次第では、きっと言葉や、感情を込めた色柄をのせられるでしょうね。そして、テクノロジーやアイデアだけが先行するのではなく、着る人の気持ちにも思いを馳せたクリエイションになんだか嬉しくなったんです。

「アンダーカバー」は祝35周年!
新たな形でよみがえる名コレクション

藪野:「アンダーカバー(UNDERCOVER)」は今年でなんと、ブランド設立35周年!今季は、高橋さんにとってのベスト・コレクションである2004-05年秋冬コレクションを、オリジナルから20年以上が経った今、あらためて作るというユニークなアプローチ。詳細は下記のリポートをご覧ください。

今季の会場は、17区にある歴史あるホールSalle Wagram。まだ自分がパリコレ取材に来始めた頃、2014-15年秋冬の「COLD BLOOD」コレクションのショーが開かれたのも同じ会場でした。当時、ストーリーテラーである高橋さんが描くダークファンタジーな世界観に引き込まれたのを今でもはっきり覚えていて、懐かしい気持ちになりました。

成長真っ只中の「LVMH賞」セミファイナリスト

藪野:お次は、今年の「LVMHプライズ」でセミファイナルにも残っている「アランポール(ALAINPAUL)」。今回もシャトレ座のステージ上にランウエイと客席を用意し、ショーを行いました。バレエダンサーからファッションデザイナーに転身したアランは、引き続きダンサーの装いや体の動きを探求。現代人のワードローブにおけるフォーマルとカジュアルの二面性を表現しました。

そのラインアップは、ラペルや襟を取り除いたシャープなデザインのテーラリングやカスケードラッフルをあしらったドレススタイルから、中綿入りのナイロンアウター、ペイントを施したバギージーンズ、トラックパンツまで。特に今季はニットの着こなし方がポイントで、身頃と袖が分かれたカーディガンやタートルネックセーターの片袖を首にマフラーの様に巻いたり、テーラリングの上に途中まで着てアシンメトリーなアクセントを加えたりしています。また、デッドストックのタイツやストッキングを編んで作ったチャンキーなセーターやドレスなどユニークな提案もあり、デザイナーのアランは得意とする構築的なテーラリングやダンスウエアにひもづくアイテムを軸に、遊び心を加えながら徐々にスタイルを広げていっているという印象です。

そんな彼に先日インタビューもしました。デザインに対する考えや、生い立ちやファッションに目覚めたきっかけなどパーソナルな部分ついては、下記の記事でどうぞ!

「アライア」のどんな時でも、どんな場所でも美しい洋服

村上:「アライア(ALAIA)」は、新しく完成した社屋でショーを開催しました。センス抜群のピーター・ミュリエ(Pieter Mulier)クリエイティブ・ディレクターが導くメゾンのオフィスには、オランダの彫刻家マーク・マンダース(Mark Manders)の作品など。これが、今シーズンの着想源です。

ちょっと調べてみると、マーク・マンダースは、自分の作品のキーワードを「時間の凍結」と語っています。おそらくピーターは、こうした彼の作品から、美の永続性について考えたのでしょう。プレスリリースの中で彼は、「場所、境界線にとらわれない美しさの規範という考え方は、『アライア』の哲学、つまり私たちのアイデンティティーに繋がるもの」と語っています。

そこでピーターは、洋服を通して異なる時代や場所の表現、言い換えれば、どんな時でも、どんな場所でも美しい洋服を考えました。こうして生まれた今シーズンのコレクションの特徴は、まずボディコンシャスなシルエット。女性の体は、いつの時代も芸術家たちを刺激してきましたからね。セカンドスキンのようにピッタリとフィットするニットは、体の輪郭を炙り出しました。そこに加えるのは、同じくセカンドスキンのようなニットで覆った大きなリング。あるリングは顔を囲みレリーフのようだし、あるリングは腰回りに配置。そこからドレープした生地を垂らし、女性の柔和な曲線に、さらなる曲線を与えます。体にピッタリとフィットするニット、もしくはもっとも自然な形に収斂する編み込みを多用する一方、縫製を最小限に抑えることで普遍性の高い有機的な形だけでシルエットを形作ろうとしました。なんとアーティー。やっぱりパリコレは、新しいアイデアが目白押し。今を生きる人を観察して洋服を生み出すのも大事ですが、一方で「こんな美しさは、どうでしょう?」や「こんな洋服もアリですか?」と自発的に問いかけてくれるパリ・ファッション・ウイークは、まだ始まったばかりです。

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