2025-26年秋冬ミラノ・ファッション・ウイーク取材日記も今回で最終回。今季のベストショーだった「フェラガモ(FERRAGAMO)」から、ミラノの大御所「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」、お騒がせ若手ブランド「アヴァアヴァ(AVAAVA)」などが登場します。
「エルマンノ シェルヴィーノ」の
女性像は“現代的”か?
木村和花/記者(以下、木村):「エルマンノ シェルヴィーノ(ERMANNO SCERVINO)」のショータイトルは「テーラリング フリーダム」。リリースには、現代における「自由奔放な女性らしさを称えます」と記し、「規範からの解放」といった言葉が並びます。
コレクションは、透けるレースのペンシルスカートにコルセットやランジェリードレス、レースのブラレットと合わせるパンツスーツなど。オーバーサイズのシアリングコートやバッグに付けるチャームなどトレンド要素も盛り込まれてはいましたが、いつもの「エルマンノ シェルヴィーノ」。
今季のミラノでは、「ヌメロ ヴェントゥーノ(N°21)」や「プラダ(PRADA)」など、「女性らしさ」を真っ向から問い、新しい表現を模索するブランドが多かったように感じます。そうした流れの中でみる「エルマンノ シェルヴィーノ」は、もちろん仕立ては美しいのですが、革新的なモダニティーは正直感じられませんでした。
20代デザイナーが作る
「フェラガモ」に驚愕
村上要「WWDJAPN」編集長(以下、村上):「フェラガモ」は、今シーズンのミラノのベストでしたね。驚くべきは、コレクションを手掛けるマクシミリアン・デイヴィス(Maximilian Davis)は、まだ20代ってこと。インスピレーション源の1つとなった1920年代のムードのリサーチはもちろん、クラシックな音楽と赤いバラを敷き詰めたランウエイで表現するオーセンティックでフェティッシュなムード、そして流れるようなコートやケープで作る大人なフェミニニティーの表現まで、正直末恐ろしい20代です(今年30歳になります)。詳しくは、木村さんの記事でどうぞ!
不気味なメイクで
迷走する「バリー」
村上:米投資会社のリージェント(REGENT)が買収し、「ディースクエアード(DSQUARED2)」のジェネラル・マネージャーを務めていたエンニオ・フォンタナ(Ennio Fontana)が最高経営責任者に就任してリストラを加速させているという「バリー(BALLY)」は、招待客が100人ほどの小さなショーを開催しました。
すでに退任のウワサが浮上し、結果「ジル サンダー(JIL SANDER)」への移籍が決まったシモーネ・ベロッティ(Simone Bellotti)=クリエイティブ・ディレクターによるコレクションは、正直精細を欠いていたというか、“心すでにここにあらず”みたいでした。コンパクトなグレーのジャケットにオックスブルーのシャツを基調としながら、少し田舎っぽいというか、ダサかわいいカンジのフォーマル路線を継続していますが、今季はお腹が膨らんだシルエットをプッシュ。でも、お腹が膨らんでいるように見せたい人って、いないですよねぇ。
何より驚いたのは、メイク。ちょっとコワくないですか?これまでのスイスの朴訥とした男性や女性像を想像した、“いなたい”モデル選びは共感できたのですが、なぜに銀塗りや、超個性的なキャットアイなのか?迷走が始まってしまった印象を受けます。
クール・ガールズが集った
「ドルチェ&ガッバーナ」
木村:「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」の会場に到着すると、いつものようにセレブリティーのファンたちが大勢詰めかけていました。今回は特に韓国のアイドルグループATEEZのメンバーのサン(San)、韓国女優のキム・ソヒョン(Kim So-hyun)が最注目ゲストでしたね。いつもと違うのは、ランウエイが屋外にも設えられ、集まったファンたちもショーが見られるようになっていた点。せっかくこれだけの人が集まるのだから、みんなにちゃんとショーまで見てもらおうとするのはナイスアイデア!と思いました。
「クール・ガールズ」と題したコレクションは、世界の街角のクールな女の子たちからインスピレーションを得たそうです。ポイントは自由なコーディネート。モッズコートやオーバーサイズのMA-1といったアウターを主役に、メンズライクなローライズデニムやカーゴパンツ、センシュアルなランジェリーなどを自由にレイヤード。印象はカジュアルですが、ビジューを全面にあしらったベストやボトムスも登場し、ブランドらしくグラマラス。最後は、まさに今回のコレクションを象徴するようなクールな女性DJがフィナーレを盛り上げ、屋外フェスのようでしたね。
異なる質感を楽しむ「MSGM」
村上:「MSGM」の会場には、カラフルなチュールが天井から吊るされていました。予想通り(笑)、カラフルなチュールをニットやロンT、花柄のボディスーツなどに被せたコレクションです。
それが「スケスケ」なら、その他の質感はもう2つ。1つはフェイクファーで作る「モフモフ」、そしてパテント素材の「ピカピカ」です。「モフモフ」は、フェイクファーのショートコートやボレロタイプのトップスなど。「ピカピカ」は、パテントで作ったオーバーサイズのブルゾンやタイトスカート、パンツなど。「スケスケ」のフワッと広がるシルエットや、「モフモフ」なボリューム感との対比を試みているのかもしれませんね。
私は、カラフルなシースルー素材越しにコレクションを拝見しました。シースルーという名の通り、確かにちゃんと見えるけど、本当は素材越しじゃなく、直接拝見したかったです(苦笑)。
「ボッテガ・ヴェネタ」の新オフィスで
パティ・スミスの朗読に聞き惚れる
木村:この日の夜は「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」の新オフィスで開かれた、パティ・スミス(Patti Smith)と現代音響芸術集団のサウンドウォーク・コレクティヴによる特別公演にお邪魔しました。こちらの新オフィス「パラッツォ・サン・フェデレ」は、19世紀後半から20世紀初頭にかけてミラノの名高い劇場として使われていた建物だそうです。音楽と映像、詩の朗読が一体となったパフォーマンスは、圧巻でした。最後はパティ・スミスが、「実は今晩亡き夫フレッド(・スミス)との結婚記念日なの。フレッドに捧げる歌をみんなで一緒に歌ってほしい」と呼びかけ、「Because The Night」を観客みんなで合唱。心温まる美しい時間でした。
地球という原点に立ち返る
「ジョルジオ アルマーニ」
村上:さぁ、私のフィナーレは、御大による「ジョルジオ アルマーニ」です。「変わらないことにも意味がある。特に顧客ビジネスならなおさら」という考えを根底に持つ御大のコレクションは、正直大きく変わることはありません。特にシンボリックな存在の「ジョルジオ アルマーニ」はなおさらでした。
今シーズンも、「原点」と銘打ち、楊柳パンツやアンコンのジャケット、そこに東洋的な前合わせのトップスなどを加えますが、今季はカラーパレットが違います。永遠のグレーやネイビー、そして女性を引き立てるパステルカラーもありますが、例えばブラウンと深い緑、そして光沢素材とアストラカンのような起毛素材で表現したシルバーなど、自然にまつわるカラーパレットが多いのです。木々の緑やブラウン、そして氷河のシルバーという趣でしょうか?ブラックも鉱石のように鈍い光を放ちます。流線型のシルエットが多いから、とても優雅に輝きます。
きっと今シーズンの「原点」とは、ご自身の原点であると同時に、我々にとっての原点である地球の美しさを伝えるものだったのでしょう。いつも通りのスタイルだけど、いつもと少し違うだけで、思いってこんなに強く伝わるんですね。
あぁ、ミラノ・ファッション・ウイークも楽しかった!続きはパリで!と思ったら、最後にお騒がせ軍団が残ってましたね(笑)。木村さん、どうでしたか?
「アヴァヴァヴ」は
ゴスで可愛いゾンビが登場
木村:私のラストは、ミラノで発表を続けている「アヴァヴァヴ(AVAVAV)」のショーでした。デザイナーのベアテ・カールソン(Beate Karlsson)は去年来日した際、初めてインタビューできました。過激なショー演出で“お騒がせブランド”と呼ばれるこのブランドですが、カールソン本人は意外と大人しくてシャイな印象でした。演出の背景にも、「人が無意識に恐れているものや避けているものを意図的にテーマにすることで、凝り固まった考え方をほぐすセラピー」を提供したいというしっかりとした考えがあります。
今回のコレクションは“ザ・ホール”と題し、ゾンビ風のメイクのモデルたちが穴から這い上がって登場する演出。ネクタイとシャツをプリントした、ボディーが透けて見える長袖シャツや、ダメージ加工を施したジャケットとスカートのセットアップ、スエットなどをゴシックなムードにまとめています。メイクも相まってアヴァンギャルドな雰囲気ですが、一点一点は普通に売れそう。リボン付きのグローブやバッグ、ナードなメガネなど、アクセリーも可愛い。昨シーズンに続く「アディダス(ADIDAS)」とのコラボアイテムは、波状のカットアウトが骨のように見えるTシャツや、同じカットアウトのスカート、ボリューミーなスニーカーなどが登場しました。強い世界観と売れそうなアイテムのバランス、さらなるブランドの伸びを期待させるショーでした。
今シーズンも駆け抜けましたね!お疲れ様でした。