ファッション業界も社会全般も不安で不穏な時代、2025-26年秋冬シーズンは、半年前に芽生えた装飾主義が思ったより広がらず、ミラノでは従前のリラックスシルエットとは異なるコンフォートの在り方を模索する動きが目立った。特に注目すべきは、形あるシルエットに変化しつつあるコートやジャケットに加える流動性や、そこから醸し出す官能的ですらある女性らしさ。フェイクファーがシンボリックに表現する起毛感の強いシャギーな素材使いも目立っている。街中に溢れた、シェルパーカに代わる洋服としての提案だ。こうした流れは、パリまで続いている。(この記事は「WWDJAPAN」2025年3月17日号からの抜粋で、無料会員登録で最後まで読めます。会員でない方は下の「0円」のボタンを押してください)
「フェラガモ」と「ディーゼル」に見るシルエットの変化
形あるシルエットと流動性の両立という流れを見事につかんだミラノのベストは、「フェラガモ(FERRAGAMO)」だ。まだ20代のマクシミリアン・デイヴィス(Maximilian Davis)は、1920年代以降のモダンダンサーたちを思い浮かべた。彼女たちは、練習の時はボディーコンシャスなレオタードを、そして舞台の上では柔らかな体躯や躍動感を印象づける流線型のドレスを羽織り、本番前は構築的なチェスターコートなどをまとう。マクシミリアンのスタイルコードであるフェティシズムを象徴するレオタードと、トレンドの形と流動性の融合を表現するドレス&アウターを巧みに組み合わせた。例えばヘリンボーンのトレンチコートは、脇下には小さなスリットを、首周りにはストールのような1枚の布を加えた。スリットから腕を出せば袖は揺れ、首周りの共布は肩にかければアウターに優しさが生まれる。フェティッシュなサテンやレザーのスカートは生地をたっぷり折り返し、ランウエイに敷き詰めた花のようなシルエットに。ダンサーは優しいムードと官能性の間を華麗に舞う。
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形あるシルエットと官能美の両立という点では、「ディーゼル(DIESEL)」も負けていない。ファッション業界を志す世界中の学生と作った巨大なグラフィティ空間に現れたのは、ツイードやハウンドトゥースなど、伝統的な素材のセットアップ。正直デニムと合わせても、クリーンなままでは“「ディーゼル」らしく”ない。しかし伝統的な生地には、得意のダメージ加工。糸はほつれ、生地は透け、モデルの肌を垣間見せる。「ディーゼル」らしい“破壊行為”によって、形あるシルエットの洋服から官能美を染み出させた。緩やかにくびれる曲線のウエストラインを筆頭に、ペプラムやフリルのブラトップや起毛ニット、破壊的ツイードやデニムとコントラストを成すサテン使い、メンズではボトムスをローライズにするためのカマーバンドなど、クラフツマンシップやフォーマルにも傾倒している。結果、“「ディーゼル」らしさ”は失わないまま、洗練の度合いを深めた。クリエイティブ・ディレクターのグレン・マーティンス(Glenn Martens)がトップを兼任するという「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」も楽しみだ。
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