ネット通販やライブコマース、スマホ決済、ゲームなど、次々と世界最先端のテクノロジーやサービスが生まれている中国。その最新コマース事情を、中国専門ジャーナリストの高口康太さんがファッション&ビューティと小売りの視点で分かりやすく解説します。今回のテーマは、「アニメ映画「ナタ2」に学ぶ中国マーケ戦略」。興収3000億円と、世界的にも記録的な大ヒットを飛ばした映画「ナタ2」のプロモーション戦略を紐解きつつ、SNSを軸にした新しいプロモーションのノウハウに迫ります。(この記事は「WWDJAPAN」2025年3月17日号の転載です)
「ナタ2」は世界の歴代興収ランクは6位。4位の「タイタニック」超えも
中国のフルCGアニメ映画「哪吒之魔童閙海(ナタ まどうとうかい)」(以下、「ナタ2」)が歴史的な大ヒットとなっている。3月6日時点で興収は146億元(約2920億円)、世界歴代興収ランキングの6位。まだまだ記録を伸ばす勢いで、4位の「タイタニック」超えも視野に入る。なぜ、これほどのヒットとなったのか?中国の配給会社ロードピクチャーズの松本祐輝氏に話を聞いた。
PROFILE: 松本祐輝 ロードピクチャーズ (路画影視伝媒有限公司)日本担当

――「ナタ」はどんな映画か?
松本祐輝(以下、松本):中国神話のキャラクター「ナタ」をモチーフにしたCGアニメ映画だ。第1作は2019年に公開され、中国国産アニメ映画史上トップの興業収入50億元(約1000億円)を記録した。今年公開の続編「ナタ2」も期待されていたとはいえ、想像以上の大ヒットとなった。
――学校や企業で観客を動員し、「ディズニーを打ち破った愛国アニメ」と政府が宣伝するために、強引に作り出されたヒット作との見方もあるが。
松本:中国で社会現象レベルの大ヒットを記録した映画は少なからず愛国心をくすぐっている。19年公開の「流転の地球」は「中国初のSF大作」と受け入れられた。「ナタ」の成功も愛国心と無関係ではないだろうが、ヒットしてからの動きだ。初日の動員が好調で、映画専門サイトが歴代1位の興収になると予測したあたりから、ネットやメディアでの注目が高まり、「中国映画の誇り」と持ち上げられるようになった。旧正月休みは映画業界にとって書き入れ時。今年も大作が並んだが、評価でナタが独り勝ちになったことが大きい。3DCGのクオリティーは圧倒的だ。時空の割れ目から無数の怪物が落下してくるシーンなど、一体一体異なる怪物が細かに描写されている。これほど作り込んだCGアニメは世界的に見てもディズニー以外ではなかなかない。
意外とオーソドックスだった宣伝手法
――プロモーションは?
松本:意外とオーソドックスな宣伝手法だった。SNSやショート動画を中心としたオンライン広告、街頭広告などのオフライン広告、劇場内での広告、タイアップ宣伝というチャネルそのものは日本とさほど変わりはないし、同時期公開の他作品と比べても特に露出が多かった印象はない。ただ、クリエイティブの圧倒的な物量には改めて驚かされた。ポスターは通常のポスターだけでもIMAX版、Dolby版などと作り分けている。また、主人公のナタだけではなく、ライバルなど主要人物ごとのものもあれば、旧正月版や大みそか版、興業収入*億元突破の告知など、ともかく手数が多い。
動画の数の多さも圧倒的だ。映画に限らず、中国の広告宣伝は今やドウイン(中国版TikTok)などのショート動画が中心だ。それだけに動画の投下数はすさまじい。世界的に大ヒットしている楽曲「APT.」をBGMに使った動画やSNSの感想紹介、イベントの速報や、アフレコ現場からビデオコンテ、スタッフの毛髪事情までありとあらゆるコンテンツが発信されている。ミニドラマも15本投稿された。キャラクターがポスター撮影用に美肌加工していたり、誰でも簡単に踊ってみた動画を作れるラップ動画もある。公式動画は1日10本程度が公開された。もっとも中国においては大作でなくても、1日数本以上の投稿は当たり前だ。
ショート動画だけではなく、LINEスタンプのようなチャットに使える画像やGIF動画の配信も多い。旧正月時期ということもあって、「休みに入るので仕事受けません」スタンプ、年始に押し寄せてくる親戚にうんざりしたスタンプ、休み明けに仕事したくないスタンプなどのスタンプが丁寧に大量配布されている。二次創作の動画や画像も公式が推奨しているのも特徴だ。二次創作キャンペーンが実施され、優秀作品投稿者にはサイン入りポスターやグッズがプレゼントされた。二次創作が盛んな日本だが、公式がこうしたキャンペーンを打つとファンは冷めるとよくいわれる。あくまでファンの中だけで勝手に楽しむのがパターンだが、中国では公式がリードしてファンが一体になってより盛り上げ、ヒットさせようという動きになる。
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