カナダ・モントリオール発のECサイト「エッセンス(SSENSE)」はエッジの効いた個性的なブランドの取り扱いや商品構成に定評がある。主軸のウィメンズ、メンズウェアに加えて、最近好調なのがコロナ禍の2020年にローンチした雑貨を取り扱うセクションの「物とモノ」だ。
昨年冬からはウィメンズファッションの買い付けを統括するブリジット・チャートランド氏 が「物とモノ」にのバイイング・ディレクターに就任。ファッションと雑貨の買い付けを一挙に引き受けることとなった。それによりウィメンズファッションと雑貨のバイイングの親和性が増し、雑貨の売り上げが伸長。しのぎを削るファッションEC市場で「エッセンス」は独自の強みをどのように見出しているのか、チャートランド氏に話を聞いた。
ーー今までウィメンズファッションの買い付けを担当されていましたが、雑貨の買い付けの基準は?
ブリジット・チャートランド(以下、チャートランド):雑貨カテゴリーの「物とモノ」の買い付けはウィメンズの買い付けに似ている部分が多いと思っています。私が「物とモノ」を統括するようになってから、平凡なものから離れ、大胆でユニークなデザインへと舵を切りました。とはいえ、目立ちすぎるものだけをそろえることはせず、データに基づいた手堅い商品も従来通り揃えています。要はバランスが重要なのです。
また、「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」や「トム ブラウン(THOM BROWNE)」のように、ウィメンズで取り扱う一部のファッションブランドで、ホームプロダクトやセルフケア商品を提供しているブランドにも注目しました。デザイナーのラフ・シモンズ(Raf Simons)とデンマークのテキスタイルブランド「カヴァトラ(KVADRAT)」がコラボレーションしたホーム&ライフスタイル グッズ ブランド「カヴァトラ/ ラフ・シモンズ(KVADRAT/ RAF SIMONS)」のように、ウィメンズですでに関係構築のできているブランドやコミュニティーに焦点を当てています。
新たなブランドを発掘し、
シナジーを生み出す
チャートランド:シモーン・ロシャ(Simone Rocha)の友人でもあるレイラ・ゴハー(Laila Hohar)がローンチした「ゴハー・ワールド(GOHAR WORLD)」がいい例です。すでに関係を築いていたシモーンの友人ということがきっかけで知ることができたブランドです。「エッセンス」にはすでにシモーンのファンたちがいます。その友人やコミュニティーにアクセスすることで、新たなシナジーが生み出せるのです。私たちはこうしたコミュニティーとの結びつきを大切にしています。
「エッセンス」ではエディトリアルのプラットフォームを活用して、デザイナーや業界の重要な人たちと関係を築いていくことも、とても重要だと思っています。限定出版物、たとえばイザベラ・バーリー(Isabella Burley)による「CLIMAX BOOKS」のような希少な商品はエディトリアルでもその魅力を紹介しました。
さらに「エッセンス」が得意とするのは次世代の若手アーティストの発掘です。日本はもちろん、デンマークや韓国などの新興国やローカル市場に目を向けることも重要です。これらの様々な要素が絡み合ったものが「エッセンス」の戦略と言えるでしょう。
ーー2つのカテゴリーを買い付ける上での大きな違いは?
チャートランド:雑貨はファッションと違って、必ずしもシーズンカレンダーに従っているわけではありません。季節性が強いわけではないからこそ、どのタイミングで何をリリースするかなどは細心の注意を払っています。また、家具などはサイズや重量が重いため、配送料を気にしないといけなかったり、収益にもフォーカスしないといけません。ファッションと異なる点は試着をする必要がないので、「フィット感」は気にする必要はなくとも、ファッションと同様、魅力的なデザインが求められます。
ーーウィメンズと雑貨の買い付けを1人で統括することのメリットは?
チャートランド:「エッセンス」がすでに得意としているウィメンズファッションに、雑貨の世界観を一致させることができることです。前述したように既存のシナジーを活用しつつ、ウィメンズファッションのために築いてきたブランドアイデンティティーを強化し、繋がりを作ることもできます。
2024年にシモーン・ロシャとともにビューティーバッグの企画を行いました。ホリデーシーズン向けにシモーンがデザインしたバッグの中に「エッセンス」で取り扱うビューティ商品を詰め込みました。このバッグは即完売したのですが、私たちのウィメンズファッションで培ったコネクションを活用することが成果につながるということを実証できました。
ーーファッションEコマースサイトにおいて、雑貨の存在意義は?
チャートランド:今まで付き合いのあった顧客たちも日々進化し、ライフスタイルが変化をしたり、家を購入したりするようになり、雑貨や家具、美容などのカテゴリーが受け入れられるようになりました。
また、特にパンデミックは人々の視点を家の中に向けました。ファッションブランドもトータルコーディネートという観点から雑貨やホームプロダクトにも目を向けるようになりました。ブランドのアイデンティティーをファッション以外の形で表現したいというブランドが増えたため、パンデミックの時期は雑貨を始めるのに適した時期であり、私たちのサイトでも雑貨を立ち上げる意義が生まれました。
ーーファッションEコマース市場における「エッセンス」の強みは?
チャートランド:ユニークなブランドや商品を取りそれることで唯一無二の視点を維持していることです。ブランドに特別なコラボレーション商品を作ってもらうことでの希少性は私たちのコアバリューになっています。
ーー「物とモノ」の中で注目しているブランドは?
チャートランド:個人的には「ゴハー・ワールド」のデザインアプローチも好きですし、「テクラ(TEKLA)」と「オーラリー(AURALEE)」のコラボが大好きだったのですが、すぐに売り切れてしまいました。メルボルン発の「ゾウゾウ ラグス(ZOUZOU RUGS)」は美しいラグを作っていて、「フェラガモ(FERRAGAMO)」のブティックとも密接な関わりを持っているので、ファッションブランドとの親和性もあります。日本の家庭にも馴染むパターンなので、日本のお客さんにもおすすめしたいですね。ロサンゼルス拠点の韓国系アメリカ人アーティストのラミ・キム(RAMI KIM STUDIO)の花瓶やタンブラーも大好きです。
ーー最近拠点をLAに移したそうですが、ライフスタイルは変わりましたか?
チャートランド:大きく変わりましたね。ただ、年始に起きた山火事では避難を余儀なくされました。モントリオールにいた時は冬の間は移動以外ではほとんど外に出ることはありませんでしたが、今はほとんど外にいてアクティブに過ごしています。今ではフラワーアレンジメントが週末の趣味になっていて、韓国から来たアーティストとワークショップを開催しました。
ーー今年「物とモノ」で予定されているコラボレーションを教えてください。
チャートランド:「エッセンス」では特別な商品をお客さまに届けるための限定商品なども販売しています。今年はロンドンを拠点とするデザイナー、ジェームズ・ショウ(JAMES SHAW)の作品をエクスクルーシブで取り扱うほか、選りすぐりの新規ブランドも多数導入予定です。