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「イソップ」の反逆的な花の香り“オルナー オードパルファム”調香師に聞く 「香水が芝居だとしたら私は役者」

INDEX
  • PROFILE: セリーヌ・バレル(Celine Barel) 調香師
  • 概念を覆す“折れない”フローラル
  • 創業者との出合いから生まれた香り“タシット”
  • 香水が芝居だとしたら私は役者のようなもの

PROFILE: セリーヌ・バレル(Celine Barel) 調香師

セリーヌ・バレル(Celine Barel) 調香師
PROFILE: フランス・グラース生まれ。幼少時から地元の工場で漂うベチバーやイランイラン、パチョリなどの香りに触れ、香水のミニボトルや香水の広告を集めて育つ。2001年から米香料大手メーカーIFFの調香師として活躍

イソップ(AESOP)」から、新作フレグランス“オルナー オードパルファム(以下、オルナー)”が登場した。同ブランドは2月、都内で新作発表イベントを開催。フローラルフレグランスの概念を覆す“オルナー”の世界観を表現するインスタレーションやワークショップを開催した。“オルナー”という名前は、古代スカンジナビア語で「装飾される、花々で飾られる」という意味。マグノリアリーフ、ローマンカモミール、シダーハートを組み合わせ、フローラルのハートノートとスパイスやメタリック、ウッディノートが織りなす複雑な香りだ。みずみずしい花弁とたくましい幹、植物と金属、女性性と男性性といった相対する要素を融合している。調香を担当したのは長年「イソップ」と協業するセリーヌ・バレル(Celine Barel)。来日したバレルに、「イソップ」との出合いやクリエイションについて聞いた。

概念を覆す“折れない”フローラル

WWD:“オルナー”はどのような香りか?

セリーヌ・バレル(以下、バレル):静かで反逆的なフローラルの香り。思いがけないコントラストがあり、優美さと強靭さの間にある詩的な張力をテーマにしている。香りの中心はマグノリアで花弁ではなくマグノリアリーフが持つ複雑で繊細さを持つ香りが特徴だ。

WWD:調香の出発点は?

バレル:「イソップ」のクリエイティブチームからのブリーフィングからスタートした“オルナー”は、中国人の詩人である清照李と歌手ニーナ・シモン(Nina Simone)の歌「ライラックワイン」、そして、ヒスイの緑色が着想元になっている。反逆的な恋愛をしていた詩人と恋焦がれる気持ちと怒りを秘めた歌手2人の共通点は、たおやかさと強さ。強さを出すために、「イソップ」の特徴的な香であるウッディを盛り込む必要があると思った。ヒスイからインスパイアされたグリーンノートはマグノリアリーフのフレッシュさに反映している。

WWD:この香りを調香する上でこだわった点は?

バレル:反逆性。フローラルというと優しさや儚さといったものを想像するが、“折れない”フローラルを表現したいと思った。思いがけずエッジの効いた現代的なフローラル。大胆で堂々としている強さのある新しいフローラルを表現したつもりだ。

WWD:“オルナー”はどのように他のフローラルと違う?

バレル:フローラル、アロマティック、フレッシュな要素があり思いがけない香のコントラストが特徴。基本フローラルに分類されるため、 “ローズ”や “グローム”と並ぶ形だが、フローラルとフレッシュ両方の側面を持つ。

創業者との出合いから生まれた香り“タシット”

WWD:イソップと協業を始めたきっかけは?

バレル:2006年に創業者のデニス・パフィティス(Dennis Paphitis)と出会った。文学やアートが好きのデニスとは共通点が多く馬が合った。私は調香の学校を出たばかりで経験がなかったが、ずっと連絡を取り続けて12年に初めて“タシット”を調香した。私が経験を積むのを待ってくれたのだと思う。“タシット”は特別で大切な作品。デニスからのブリーフィングは、イタリア人画家ジョルジョ・デ・キリコ(Giorgio de Chirico)の絵。キリコの絵はシュールだが、「イソップ」にも常に奇妙な要素があると思った。それで、バジルを大量に使ってエッセンスを作り、ベチバーハートを使用し、奇妙な要素を表現した。

WWD:あなたにとって「イソップ」はどのようなブランド?

バレル:オーストラリア生まれで、全てのクリエイションプロセス全てに意味がある。多種多様なインスピレーション源から始まる香りの創造は、抒情的であると同時に科学に根ざしたものでもある。製品には完璧さが宿っているが、同時に不完全な中の美を内包するブランド日本との親和性が高いと思う。

香水が芝居だとしたら私は役者のようなもの

WWD:クリエイションで最も大切にしていることは?

バレル:美しさをどのように見つけ、表現するかという点。自然から合成まで、全ての香料を知り抜き、組み合わせて新しいものを生み出すのが調香師の仕事。自然香料は混ぜ合わせるとお互いに溶け合って複雑になるが、合成香料は香りがブロック状に重なる。自然香料を太陽の光とすれば、合成香料は人工光という感じで感情に欠ける。自然香料も合成香料も的確な意図を持って配合するが、香料を組み合わせて、1+1=3になる場合もあり、コントロールが非常に難しい。香りのインパクトや持続性、残り香といったさまざまな香りの旅をどのようにデザインするかが難しい。

WWD:自身が調香するフレグランスにあるシグニチャーは?

バレル:シグニチャーは作らない。なぜなら、香りはブランドのもので、私はそれを形にする媒介役だから。香りを芝居に例えると、私は役者のようなもの。いろいろなブランドのために、自分は香りのストーリーの登場人物になるように心がけている。毎回、香りが完成したら、新しい役になりきるのが大切。いろいろな作品でいろいろな役を演じるのが私のモットーだ。

WWD:尊敬する調香師は?

バレル:故エドモンド・ラウドニツカ(Edmond Roudnitsuka)。元祖“ソヴァージュ”など「ディオール(DIOR)」のフレグランスを多く調香した人で、著書も多い。“グルマン”カテゴリーを生み出したオリヴィエ・クレスプ(Olivier Cresp)も革新的で素晴らしい。「フレデリック マル(FREDERIC MALLE)」の“ポートレイト オブ ア レディー”を手掛けた故ドミニク・ロピオン(Dominique Ropion)は、センシュアルな誘惑する香りを生み出し、尊敬している。

WWD:あなた自身にとってフレグランス=香りとは?

バレル:現実逃避。いろいろな可能性が広がる目に見えないスーパーパワー。香りを通して何かを思い出したり、自然界に訪れたり、魔法のような存在だと思う。

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