サステナビリティ

もんぺを年間2万本売る「うなぎの寝床」、地域文化から経済循環を生む

INDEX
  • PROFILE: 白水高広/うなぎの寝床創業者・顧問
  • 機能性を訴求した短期的に消費されないものづくり
  • 地域に足りない事業を興して地域の人がやれないことを実現する
  • 人は印象的な体験によって意識と行動が変わる
  • 「知恵は行動しまくったら生まれる」、知識とは別
  • 人に依存し続ける仕組みを作ることが必要
  • 現代社会は「価値化は情報化」

福岡県八女(やめ)市を拠点とするうなぎの寝床は、「もんぺ」を年間約2万本販売する。文化や歴史をひも解いたブランディングとビジネス戦略が巧みだ。日本の農作業着「もんぺ」とアメリカのワークパンツ「ジーンズ」とを重ね、日本のジーンズ「MONPE」として販売を開始。物販の直営店は八女の2店舗に加えて、アクロス福岡やららぽーと福岡、愛媛・大洲、グループ会社と共同運営で下北沢と池袋・千川の7店舗を展開し、もんぺの卸先は100件を超える。グループの売上高は5億5000万円(2025年1月期)。「地域文化商社」と称し、地域文化の「つなぎ手」としてもんぺだけではなく地域のものづくりを紹介する店舗や宿泊施設「Craft Inn手[te]」の運営、ツーリズム事業など、地域文化を編集して伝えている。

うなぎの寝床が町屋を改装して店舗や宿泊施設として運営する八女福島の重要伝統的建造物群保存地区は2002年に指定された場所。これまで約70軒の町家がリノベーションされて新たな店舗や工房、住宅に活用された。そのうち約20人が県外からの移住者だ。うなぎの寝床創業者で現顧問の白水高広氏に地域文化から経済循環を生む方法について聞いた。

PROFILE: 白水高広/うなぎの寝床創業者・顧問

白水高広/うなぎの寝床創業者・顧問
PROFILE: (しらみず・たかひろ)1985年佐賀県小城市生まれ。大分大学工学部福祉環境工学科建築コース卒業。2009年8月厚生労働省の雇用創出事業「九州ちくご元気計画」に関わり2年半プロジェクトの主任推進員として動く。同事業は11年グッドデザイン賞商工会議所会頭賞を受賞。12年7月にアンテナショップうなぎの寝床を立ち上げる。24年、テイクオーバーと資本提携し代表職から外れ顧問に。現在はさまざまな企業のコンサルティングを行う他、2023年テキスタイルデザイナーの光井花と新会社hana material design laboratoryを立ち上げる

機能性を訴求した短期的に消費されないものづくり

WWD:なぜ「もんぺ」だったのか。

白水高広うなぎの寝床創業者・顧問(以下、白水):義母の実家が「久留米絣」の織元で、妻が八女市の伝統工芸館で働いていた時期に「久留米絣をどうにかしたい」と家族で考え始めたことがきっかけだった。物産館で「もんぺ」の展示を見て、日常着として提案してその歴史や機能性が伝われば履いてくれる人が増えるのではと考え、11年に「もんぺ博覧会」を開催した。3日で約1500人が集まり、地元のテレビ局や新聞社は取り上げてくれた。1回きりのつもりが依頼されて翌年も続けることになった。

WWD:それを機にもんぺの製造販売が始まった?

白水:「買いたい」よりも「箪笥の肥やしになっている久留米絣の生地で作りたい」という要望が多かったので、当初は型紙を販売した。型紙は反物幅の布を無駄にしないように設計すると細身になったので12年に「現代風もんぺ」の型紙として販売を始めた。すると現物が欲しいという要望が増え始め、13年に機屋が抱えている縫製の内職さんに頼んでもんぺを作り始めた。それがNHKの情報番組「あさイチ」で取り上げられ、在庫が一瞬でなくなった。内職さんでは追いつかないので織元から生地を買い縫製工場に依頼して作り始めた。全国の店から依頼が増えて卸すようになりファブレス(自社で工場を持たず製品の製造を外部に委託するビジネスモデル)のメーカーになった。

WWD:明確なコンセプトのもとでビジネスを始めたわけではなかった。

白水:思い付きのように聞こえたかもしれないが、物産館で見たときから「いける」感覚はあった。着心地がいいことに加えて「伝統工芸」「ある程度の量が確保できる」「文化的背景がある」など付加価値もあった。「もんぺ」は福岡県南部筑後地方の綿織物「久留米絣」を用いて作られ、戦時中の1943年には婦人標準服として厚生省が活動衣として指定し、「蛍の墓」でも描かれた。戦後も農作業着として着続けられて機能的に実証されている。こうした情報を整えれば価格が1~2万円程度と設定しても売れるのではと仮説を立てた。

WWD:情報を整えるとは?

白水:整える情報は「機能的要素」「文化的要素」「視覚的要素」だと考えた。

「機能的要素」の訴求は一般消費者のリピートや口コミにつながる。「綿100%」「腰ゴム」「膝当てがついている」など機能を分解した。

「文化的要素」は一般の人が興味を持たなくても、メディアが興味を示してくれる。戦時中の厚生省の文献や農業の歴史など古本を集めて歴史をひも解き「日本のジーンズを目指して」というコピーを打ち出すとメディアが取り上げてくれた。

最後に「視覚的要素」はコーディネイト提案をした。ファッション業界は視覚的要素がとても強く、半期や四半期でどれだけ集客できるかというアプローチだが、僕らが重視したのは機能性の訴求。ファッションアイテムではなく生活用品として売るので結果的に短期的に消費されない提案になった。

WWD:情報に複数のレイヤーがある。

白水:「もんぺ」はいろんな情報のタグがあり、見る人によって異なる。たとえば「テレビで見た」という無意識的なタグから「自分が知っている店の人から聞いた」「歴史的な背景」「伝統工芸」「日本製」「かわいい」などさまざまにあるが、重視するタグは人によって違う。人々がタグのどれかに主観的に接触できるように情報を仕組み、結果的に「人は着心地に依存する」という仮説のもと、「機能性」のタグに集約できると考えた。

地域に足りない事業を興して地域の人がやれないことを実現する

WWD:「久留米絣」だけではなく、全国の繊維産地の生地を用いたもんぺをそろえる。

白水:他の産地と比較することで「久留米絣」の特徴はもちろん、全国の繊維産地を知ってもらう機会にもなる。奄美大島の泥染めや福山のデニム、遠州のコーデュロイや会津の木綿、「有松鳴海絞り」など同じフォーマット(型紙)でいろんな産地のもんぺを履き比べることができると、消費者は価格の違いや産地や生地の特性に目が向く。

WWD:それがヒットにつながった。

白水:想い入れがなく淡々と取り組んだのが良かったのではないか。想い入れがあると「これが好きだからこれで作る」となるが、想い入れがないから「柄で作ると高いから、機能性で勝負するために無地で作る」「技術によって値段を分ける」といった判断ができる。「久留米絣」産地だけに興味があるとそういう判断にならない。とはいえ、僕らが久留米産地の生地生産量の約1/4を買っていて、もんぺ立ち上げの目的である産地継続にも力を入れている。1年に約7000反を購入して製品化している。

WWD:「もんぺ」はうなぎの寝床のヒット製品だが、ツーリズムや宿泊、メディア、資源活用、特許庁の地域団体商標のPR動画制作までプロジェクトは多岐にわたる。「地域文化商社」として事業を興しているが、そもそも「地域文化商社」のコンセプトが生まれて定義するに至った経緯を教えてほしい。

白水:地域文化が伝わらない理由は、魅力があるのに知られていない、知らなければ消費者は買うことができないことにある。知らせる・買えるようにする地域商社的領域をどれだけやれるかの実験と実行に取り組むことにした。地域文化を研究・解釈して、活用方法を探り、それを商社機能を使って地域に還元することが大切だと考えて活動している。基本的には地域に足りない事業を興して地域の人がやれないことを実現する。

WWD:具体的にどのようなアプローチで事業を興すのか。

白水:地域文化がベースにあり、それを体感できる場所が宿であり、本屋はやめてしまったけれど、まちづくりの中で地域文化拠点を作ったりツーリズムで体感をつくったりする。価値の見立てを行い、当社の見立てと地域の人や世間が思っている価値のギャップを埋め、価値を高めることを目指している。

そのために当社は地域構造の中で「つなぎ手」の領域を目指している。

「つくり手」や「にない手」は自分が地域を担っている意識がないことが多いので、僕らは文脈をひも解いて解釈を一緒に考える。代わりに調査して企画書を作る感じで、それをテレビ局や新聞社などに送ると取り上げてくれる。すると「にない手」に自分たちが担っているという意識が生まれ、意識が育つとシビックプライドが育つ。これだけだとボランティアになるのでこの状況自体を「つかい手」に伝える事業を行う。「つかい手」がアクセスできる店舗やEC、宿やツーリズムというサービスを作っている。

WWD:23年7月に愛媛県・大洲に店を開いたが、八女の事業モデルを全国に広げていくのか。

白水:八女をコンセプトモデルに他地域で応用できるかに興味がある。産地の資源の見立てと商品の仕入れ、地域内での可視化する店を作り、ECや卸先を探す。

大洲は町屋を修繕することを目的にまちづくり会社のキタマネジメントが店舗開発などに取り組んでおり、同社から依頼があった。

WWD:「地域文化を纏った商品やサービスが現代生活において成立したら、地域文化は残って行くし、そうでなければ淘汰されていく」として、さまざまな製品やサービスを提供する。地域で取り組む意義は?

白水:機能性を突き詰めても大手の製品の方が優れているから、そこで戦っても仕方ない。僕らはその地域でしか見つけられない文脈や情報を掘り下げ、地域で行うことでその文脈を引き継ぐことができるし差別化できる。知ってもらう機会が増えれば残る可能性が広がる。ただし、体感的にもいい製品でないと難しい。例えば着物は、文化的要素は脈々とつながってはいるが日常的に着ることは難しい。カットソーなど着心地がいいものがある中で逆行するのは難しい。過去の文脈を踏みながら、現代生活や現代の情報や需要にフィットしていけているか、生き続けているかを模索している。

情報を逆手にフィットし続けないと残らないという点ではファッション的なのかもしれない。うなぎの寝床全体としては生活用品としてもまちづくりとしても提案する情報の設計が重要で、メディアをはじめいろんな人々が許容できるようにしている。

人は印象的な体験によって意識と行動が変わる

WWD:今の生活文化にフィットしないけど残したいものがあるときにはどう取り組むのか?

白水:それこそツーリズム事業を始めたきっかけだ。モノの需要はないが技術をリファレンスできる状態にしておくことが必要で、プロセスを見せることの価値を創出した。もちろんモノはある一定数は流通させる必要はあるが、多くの人に対しては情報として提案する方がいいので、工房見学などを行うことで収益を生むようにしている。

モノの売り買いだけをしているとモノの売り買いだけで終わる。人は印象的な体験によって意識と行動が変わる。だから、モノを通じた地域文化の伝達はうなぎの寝床で行い、体験を通した地域文化の伝達はUNAラボラトリーズが行っている。

「つくり手」は良いものを作ったら売れるという思考で取り組むことが多いが、実際は「つくり手」がどういう思考で取り組んでいるかということにも価値があり、それをサービスに変えることが重要だと考えている。

WWD:白水さんは「地域文化」をある一定の地域における文化「土地と人、人と人が関わりあい生まれる現象の総体」と定義しているが、“ある一定の地域”とは何を指すか。どのくらいの大きさで、都心部や歴史が浅いニュータウンも含むのか。

白水:地域文化は伸び縮みするととらえている。例えば八女ならまちづくりの観点では重要伝統的建造物群保存地区の範囲でとらえる人もいるし、ものづくりの町としてとらえている人もいる。海外からみると日本らしい町屋の街並みととらえる人もいる。どういう範囲やテーマで文化圏を捉えるかによる。行政区は行政区でしかない。

どこの地域でも文化はある。都市部は自然が失われているかもしれないが、人と人が混じりあって生まれる習慣や慣習は必ずある。そこには自然的背景、地理的背景、歴史的文脈がある。地域は都度設定して何の文化かを定義する必要がある。僕はひとつに絞らないような枠組みにして、あらゆることを許容できるようにあいまいな定義をしている。

「知恵は行動しまくったら生まれる」、知識とは別

WWD:「地域文化商社」として活動するときに大切なこととは。

白水:研究や調査をちゃんとして、商品の見立てをしてから行動してみること。売ったり話を聞いたり、流通させたり。うまくいくものいかないものがあるので、とりあえず行動してうまくいったものは仕組化して残し、うまくいかなかったものはやめる。

うまくいかなくてもどうしても残したいものは何かしら価値があるはずで、そのギャップを何かしらの事業で埋められるのではないかと知恵を絞り行動する。知恵は行動しまくったら生まれる。それは知識とは別の話だ。僕らはそんなに知識は深くはないけれど、地域で動いていたら何かしらの知恵が生まれる。

WWD:失敗したことは?

水:そもそも失敗や成功とは何か、から考える必要がある。会社としては、10年間赤字もなく、トライ&エラーをしながらも成長し続けている。例えば自転車事業や反毛(はんもう)事業に取り組んだがうまく回らず事業を畳んだが、今につながっているので失敗ではない。そういうのはたくさんある。

人に依存し続ける仕組みを作ることが必要

WWD: 後継者不足に対して優秀な人材を産地に送り込むのがいいという声もあるが、人に依存する産地経営は難しいのでは?

白水:基本的に人に依存しない会社や産業の仕組みをつくるべきだと考えているが、地域文化を深く理解して広げるために思考して行動できる人を獲得する仕組みをつくらないといけないとも思う。新しい思考や考えを生み出していくのは人だから、ある程度人に依存しつつ、その人がいなくなっても自走できるような仕組みをつくることは必要だ。いかに人を獲得し続け、許容できるか。その状況をどれだけ作れるかが重要だ。そこで僕は今、インキュベーションのようなことを事業化したいと考えている。能力を持った人の人生をずらし、産地にぶち込むのが重要だと思っている。

例えば、当社でツーリズム事業を取り組むのは東京出身でロンドン大学で人類学を学び、「物語を海外に伝えたい」とやって来た人。2年程度で大学に戻る予定だったが、地元の人と結婚して子どもが生まれた。そうすると八女に居続けるし、新たに人類学観点のあるツーリズムが生まれている。それで回る会社も増えている。

現代社会は「価値化は情報化」

WWD:無価値、無意味とされるような文化や歴史、地域から有価値、意味を引き出すには何に着目すべきか。

白水:無価値のものはほぼない。現代はネット上にないもの、つまり情報として拾い上げられないものは価値がないと特に都市部の人が思い込んでいる状態だと感じている。「無価値だけど価値があるもの」とは、知られてないことは無価値だとする情報としての価値の話が中心だ。現代においては、価値化は情報化でもある。地方の人はその流れを見ながら、情報を差し込んでいくための戦略が必要だが、それをひも解ける人が地方には多くいない。

情報化できる人が地域に入り地域がうまくいっているように見えるが、それが良い状態かというと必ずしもイコールではない。経済規模が大きければ豊かとは限らず、そうでなくても豊かな地域はある。経済、暮らし、ファッション、生活用品など、地域事業者はどの尺度に根差した価値創出を目指したいのかを考える必要がある。

WWD:一社だけではなく地域で連携していくために必要なこととは?

白水:みんなでやるとうまくいかないことが多い。これが面白いからやりたいと主観的に始めてそれが広がれば産地に貢献できて残せるものがあるのではないか。メディアが面白がるのは強い情報にひもづいた産地で、個の強い意志や理論がないと難しいし、その人が活動できるフィールドをどう作るかも重要だ。「これをやったらうまくいく」はないが、起点をどこにするかはビジネスのインキュベーションにおいて重要だ。

WWD:産地として、地域として何を目指すがのよいか。

白水:地域の活動で小規模事業者とある程度の規模の企業のレイヤーが交じり合っていないことが多いが、違うレイヤーの人たちがどう対話して議論を生んでいくかが重要だと思っている。それをつなげるのは行政なのかもしれない。地域資源や土地性、文化や歴史と地域産業をつなげるコーディネイト役が必要だが、それは市長であり、行政の役割なのかもしれない。「政治的にどうしていくか」も重要だと思う。

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