国立代々木競技場園地の野外スペースを再出発の地に選んだのは、森川マサノリ新クリエイティブ・ディレクターが率いる「ヒュンメル オー(HUMMEL 00)」だ。同ブランドはデンマーク発のスポーツメーカー「ヒュンメル」のデイリーウエアラインで、スポーツ用品のエスエスケイ(SSK)が手掛ける日本企画である。デビューからわずか1シーズンでチームを刷新し、新体制で迎えた2シーズン目となる2025-26年秋冬コレクションを、「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」で18日に発表した。
サッカー少年が老舗を革新させる

ファーストルックに登場したのは、ユニホームTシャツにブレザーを合わせたスクールガール。ボックスシルエットのジャケットとスリムに整えたハーフパンツは、軽量の裏毛スエットでスポーティーに仕立てた。足元はサッカーソックスにポインテッドトーのキトゥンヒールパンプス。クラシックにテーラード、そしてストリート&スポーツ。100年以上続く老舗スポーツブランドの新たな幕開けを象徴するルックとなった。
新生「ヒュンメル オー」のコンセプトは、“ニューヘリテージ(New Heritage)”。森川クリエイティブ・ディレクターはまず、1923年に創業した「ヒュンメル(HUMMEL)」の膨大なアーカイブを振り返った。学生時代にサッカーをしていたこともあり、サッカー用品からスタートしたブランドの知識を得ることにさほど時間を要さなかっただろう。そこで、80年代のゲームシャツ(ユニホーム)やブランド名の由来でもあるマルハナバチ(※ドイツ語で「ヒュンメル」)をかたどった“バンブルビー”のエンブレム、V字模様の“シェブロン柄”などアイコニックなアイテムに触れ、自身のブランド「ベイシックス(BASICKS)」で支持されるスポーツやストリートのセンスを調和させた。
昨年7月に披露した「ヒュンメル オー」のデビューコレクションは、北欧スタイルを軸にしたエレガンスな大人のウエアだった。対して今シーズンはスポーツを軸にし、ブランドヘリテージを鮮明に表現しているのは明確だった。ピタッとしたマイクロミニサイズのゲームシャツ、シックなベロアやフレアパンツで見せたトラックスーツ、フリースのチェスターコートなど、スポーツウエアをモダンに進化させている。スポーツウエアに多用される肌あたりのよい4本針の縫製技法、フラットシーマも継承する。森川クリエイティブ・ディレクターが大事とするサステナビリティの観点においても、環境負荷の低いリサイクルポリエステルやオーガニックコットン、転写デニムなど積極的に採用してきた「ヒュンメル」のプロジェクトに共鳴している。
“デザイナー×スポーツ”の可能性
森川クリエイティブ・ディレクターが着任したのは12月で、コレクション制作の期間はわずか2カ月だった。30ルックを披露したショーを終えて、「今回できなかったアプローチもあったが、そこも含めて新生『ヒュンメル オー』のイントロダクションとなる方向性は示せたかなと思う」と手応えを語った。
ファッションデザイナーとスポーツブランドの協業は、近年ますます活発になっている。「サカイ(SACAI)」の阿部千登勢デザイナーや、「N.ハリウッド(N.HOOLYWOOD)」の尾花大輔デザイナーといった海外で活躍する日本人デザイナーとグローバルメーカーのタッグを筆頭に、最近では国内の若手が「アンブロ(UMBRO)」や「プーマ(PUMA)」と小規模で短期間のコラボレーションを行う。対して「ヒュンメル」は、新ライン立ち上げという勝負に出た。若い世代に響くスタイルには定評のある森川クリエイティブ・ディレクターは、「ヒュンメル」のレガシーを次世代に向けて明確に示したといえるだろう。デザイナー×スポーツブランドの関係性にまた新たな風を吹き込みそうだ。