「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」は、2025-26年秋冬コレクションをパリ北駅に隣接する昔の駅舎で開催した。会場は30年ほど前まで、オランダ・アムステルダムなどに向かう列車の発着駅だったという。旅の必需品だったトランクを発祥とするメゾンらしい舞台だ。
ゆえに「ルイ・ヴィトン」のニコラ・ジェスキエール(Nicolas Ghesquiere)=ウィメンズ・アーティスティック・ディレクターは、誰よりも旅について深く考えているのだろう。ニコラは今シーズン、駅のホームに渦巻くあらゆる感情、例えば旅立ちへの期待や愛する人と再会した喜び、帰郷の安らぎ、別離の悲しみなどに着目。昔から変わることのない、駅を行き交う人たちの千差万別な感情を得意のハイパーミックスなスタイルへと発展させた。ニコラは、「今は皆にストーリーを語りかけ、共感してもらうことが大事。駅舎で経験する気持ちにフォーカスしたのは、ブランドのDNAを意識しただけでなく、皆が共感できるから。コレクションの可能性を拡張できるのではないか?」と考えた。彼は、デザインチームと駅でのシーンが印象的な映画やドラマを分かち合ったという。チームが薦めた映画には、「ハリーポッター」もあった。
さまざまな感情が渦巻くよう、コレクションには異素材と相反するスタイルが同居する。ファーストルックは、リボンをあしらったベロアのシャツと、PVCのようなトレンチコートのスタイル。ベロアのシャツは60年代風のレトロな色合いでまだらに彩色。一方のトレンチコートは黒一色のモードでレトロスペクティブな未来感を漂わせる。ベロアとPVC、カラフルとオールブラック、レトロとフューチャー、そんなミックス感が楽しい。
これから気候まで異なる新天地に向かうのか?それとも、到着した目的地では天気まですっかり様変わりしていたのか?旅の必需品とも言える羽織ったり、被ったり、肩で留めたりのコートは、今シーズンのキーアイテム。雨風をしのぐ機能性素材のアノラックも欠かせないが、いずれもベロアやスパンコールのリボン付きブラウスやプリーツを施したビクトリアン調のつけ襟など真逆のテイストのアイテムと合わせる。
帽子は、ベレーからブリムの大きなバケットハット、そして北国を思わせるモヘアニットのビーニー、ヘアターバンとバリエーション豊か。世界各国のヘッドピースが大集合したかのようだ。同じく足元もサンダルからスニーカー、チャンキーヒールのパンプス、シープレザーのブーツなど、多種多様に揃えた。バッグも、注目は“ダミエ”のボディバッグだが、トランクからカメラバッグ、ボストンなど、旅行のお供が勢揃いする。
あらゆる感情が渦巻くさまざまなスタイルと、世界各国の伝統的な衣装に通じるアイテムの融合は、「ルイ・ヴィトン」というブランドが彩ってきた旅の数はもちろん、ニコラ・ジェスキエールの造詣の深さの賜物だろう。そう言えば「ルイ・ヴィトン」を擁するLVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)は最近、オリエントエクスプレス(ORIENT EXPRESS)などを擁するフランスのホテルグループ大手アコー(ACCOR SA)と戦略的パートナーシップ契約を締結したばかり。今後も旅を彩り、そのスタイルを拡張してくれそうだ。と同時に、こうしたニュースをコレクションで増幅できるからこそ、デザイナー交代劇が続く中、ニコラと「ルイ・ヴィトン」は蜜月関係を維持できるのだろうと思う。