「東京ファッションアワード 2025(TOKYO FASHION AWARD 2025)」を受賞した「トキオ(TOKIO)」は19日、青山スパイラルホールで初めてのショーを行い、2025-26年秋冬コレクションを発表した。1985年生まれの木村登喜夫デザイナーは文化服装学院卒業後、OEM企業やアパレルブランドなどで経験を積む。乃木坂46や櫻坂46などの“坂道系アイドル”の衣装製作や映画衣装のスタイリングなどを手掛ける傍ら、古着屋「タイムズヒミツクラブ」の運営や美容師向けエプロンも手掛ける。「トキオ」は21年にスタート。自身のルーツとするパンクなどのカルチャーをベースに、古着のリペアやリメイクで培った技術を生かし、全て手作りで製作している。
光るハンドワークの技術
「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」の公式スケジュールでの大舞台に、バンドを用意した。来場者が着席すると生演奏が始まり、会場は一気に「トキオ」の空間へと変わる。今シーズンのコレクションテーマは、“I'm STRANGER(私はよそ者)”。その背景に木村デザイナーは、「『東京ファッションアワード 2025』8ブランドの受賞者の中で、僕はどこか異端だと思った。それでも僕にしかできないことがあるし、それがファッションだ。僕のファッションを見てほしい、ただそれだけ」と語った。
そう思いを込めたショーの先陣を切ったのは、タータンチェック柄の中綿ジャケットとパンツのセットアップ。ジャケットの前身頃に大きなアウトポケットを4つ、袖に立体感のあるボーダーの加工を施し、ボリュームと繊細なデザインを引き立てた。今シーズンは薄手のアウターを提案するブランドが多いため、「トキオ」のファーストルックはより異彩を放っていた。さらに、ボタンホールや裾にダメージを加え、袖を継ぎはぎしたようなカーペンタージャケット、薄いナイロンで仕立てたオールインワン、ミモザイエローが美しいツイードのセットアップなど、色とりどりの素材を巧みに使ったアイテムが続々と登場。またフリンジたっぷりのニットポンチョ、細かな手刺しゅうを施したテーラードジャケット、鮮やかな緑のバイカージャケットにウィンドウ・ペンのパンツなど、往年のミュージシャンスタイルをほうふつとするルックが並ぶ。まるで、音楽や古着、クラフトを愛し、衣装製作の実績もある木村デザイナーのポートフォリオのようだ。
パリ初挑戦での反省
昨年9月に「東京ファッションアワード 2025」受賞を受け、パリの合同ショールーム「ショールーム トーキョー(SHOWROOM.TOKYO)」に出展するチャンスを得た。しかしショー後の会見で成果を問うと「手応えはあまりなかった」と正直に話した。「パリにはアイテム数を多めに持って行った。僕はいろいろなものが好きで、根底にあるパンクのようなごちゃ混ぜな世界観が伝わればいいなと思っていたけど、それをうまく伝えられなかった。事前のリサーチや準備が足りなかったと思う」。今回のショーではその反省を生かし、自らの得意技を全力で見せた。
パリから帰国後の3月3日、木村デザイナーは「世界に向けたファションショー開催のため」に、300万円を目標としたクラウドファンディングを実施し、13日間で100万円が集まった。「東京ファッションアワード」が会場費など一部の支援を行うものの、演出やモデル、その他にかかるショー経費は、発展途上のブランドにとってあまりにも負担が大きい金額なのが実情だ。「独学でブランドを始め、基本は手作り。周りの方々にたくさん助けてもらいながら、続けることができた。今回ショーをするとなって、こんなにお金がかかるのかと驚いた。協力してくださる方にももっといいものを見せたいし、そしてこの仲間がもっと広がることで、ブランドに力をつけていきたい。パリでは厳しい意見もあったが、それでも自分がやりたいことを貫きたい。この思いを分かってもらうための近道はもっとあるはず。モノ作りをさらに研ぎ澄ましてがんばっていきたい」。