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峯田和伸 × 甫木元空 2人が語る「吉祥寺バウスシアター」と「映画館の魅力」

INDEX
  • PROFILE: 左:峯田和伸/音楽家 右:甫木元空/映画監督・音楽家・小説家
  • 青山真治監督の企画を引き継いで
  • 活弁士ハジメを演じて
  • 虚実入り混じった「バウスシアター物語」
  • 思い出に残っている映画
  • 「BAUS 映画から船出した映画館」

PROFILE: 左:峯田和伸/音楽家 右:甫木元空/映画監督・音楽家・小説家

PROFILE: (みねた・かずのぶ):1977年12月10日生まれ、山形県出身。96~2003年までロックバンド。GOING STEADYのボーカルとして活動。その後、銀杏BOYZを結成。田口トモロヲ監督「アイデン&ティティ」(03)の主演で映画デビュー。以来、音楽活動の傍ら俳優業もこなし、「少年メリケンサック」(08)、「ボーイズ・オン・ザ・ラン」(09)、「色即ぜねれいしょん」(09)などへ出演。「俺たちに明日はないッス」(08)では銀杏BOYZとして映画主題歌を担当したほか、「ピース オブ ケイク」(15)では主題歌と出演を兼ねた。近年では、映画のみならずテレビドラマや舞台へも活動の場を広げている (ほきもと・そら):1992年埼玉県生まれ。多摩美術大学映像演劇学科卒業。2016年青山真治・仙頭武則共同プロデュース、監督・脚本・音楽を務めた「はるねこ」で長編映画デビュー。第46回ロッテルダム国際映画祭コンペティション部門出品のほか、イタリアやニューヨークなど複数の映画祭に招待された。「はだかのゆめ」(22)は、第35回東京国際映画祭Nippon Cinema Now部門へと選出。23年2月には「新潮」にて同名小説も発表し、9月には単行本化された。19年結成のバンド「Bialystocks」でもボーカルとして活動。映画・音楽・小説といったジャンルを横断した活動を続けている。

東京のカルチャーを代表するスポットだった映画館、吉祥寺バウスシアター。映画の上映だけではなく、音楽のライブ、演劇、落語など、さまざまな催し物が行われて、バウスシアターはアートの発信地として、多くの観客やクリエイターから愛された。そのバウスシアターを守り続けた家族の90年の歴史を描いた映画「BAUS 映画から船出した映画館」が3月21日に公開された。本来は青山真治監督が企画して監督を務める予定だったが青山監督が2022年に急逝。その企画を受け継いだのが、Bialystocks(ビアリストックス)のボーカルとして音楽活動をしつつ、小説も手掛けるなど多彩な才能を発揮している甫木元空(ほきもと・そら)だ。甫木元は青山監督から映画を学んだ愛弟子でもあった。そして、映画に出演しているのがミュージシャンで俳優としても活躍する峯田和伸。生前、青山監督は峯田の出演を熱望していたという。映画と音楽のシーンで活動し、両方の感性を持った2人に本作について話を聞いた。

青山真治監督の企画を引き継いで

——本作は青山真治監督が温めていた企画を映画化したものですが、甫木元さんはどのような想いで企画を受け継がれたのでしょうか。

甫木元空(以下、甫木元):物語の骨格はいじらず、自分ができることは何か、ということを考えました。青山さんの映画言語を使ってモノマネみたいになってしまうのだけはやりたくなかったんです。青山さんの脚本と一番違うのは、青山さんはバウスシアターを通じて吉祥寺という土地を描こうとした。青山さんの脚本は江戸時代から始まるんです。吉祥寺という寺が火事で燃えて、その焼け跡に流れ者たちが集まって共同体が生まれる。そして、時が流れて、その土地に映画館ができる。青山さんが土地に視点を置いたことに対して、僕は映画館で生活する家族に視点を置くことにしたんです。

——1927年に青森から上京してきた兄弟、ハジメとサネオが吉祥寺の映画館、井の頭会館で働き始め、社長になったサネオは映画館を家族で経営して、それがバウスシアターになる。本作には家族の年代史という側面がありますね。

甫木元:いろんな時代のエピソードでできた映画ですが、そのエピソードにどうやって一本筋を通すのか。いろいろ考えて思いついた一つが歌でした。ひとつの童謡が土地によって歌い回しが違ったり、流行歌が時代によって聞こえ方が違ったりすることに以前から興味があったんです。90年という時間を描いた物語ですが、敗戦までの歌のあり方を、峯田さんが演じたハジメを通じて描けたら、そこに一本筋が通るんじゃないかと思いました。

峯田和伸(以下、峯田):僕が歌うシーンではないんですけど、映画館の従業員が夕食を食べ終わった後にみんなで「早春賦(そうしゅんふ ※日本の童謡)」を歌うシーンが良かったですね。子供の頃から知ってる歌だけど、ああいう状況で聴くと聞こえ方が違ってくる。僕はその時代には生きてはいませんでしたが、戦争が終わった直後の日本の情景が伝わってきて、一つの歌でこんなにもいろんなことが伝わるんだなって思いました。

活弁士ハジメを演じて

——この映画では歌が重要な要素だったんですね。だからこそ、ミュージシャンの峯田さんがハジメ役に起用された。

甫木元:青山さんは亡くなる前に峯田さんに声をかけていたんですけど、断られたら映画は撮れないかもしれない、と言っていました。峯田さんはハジメと同じ東北出身なので土地の匂いもするし、当時、映画に携わっていた人たちは、ミュージシャンみたいにハイカラでいろんなアンテナを持っていた人だったんじゃないか、と青山監督は思っていたんじゃないかと思います。生まれたばかりの娯楽だったから今の映画よりもライブ感があって、今よりも演芸っぽい感じだったと思うんですよね。

——劇中でハジメが活弁士に挑戦して、お客さんにヘタクソだと言われるシーンがありましたが、活弁士が生で物語るというのは、まさにライブですよね。それにヘタクソな活弁士ってロックっぽい気がしました(笑)。

峯田:あれ、もっとうまくやりたかったんですけど(笑)。

甫木元:峯田さん、厳しい先生について特訓受けましたからね。でも、あのシーンはヘタという設定だったから(笑)。

——峯田さんから見てハジメはどんな人物でした?

峯田:うさん臭いヤツですね(笑)。戦争が始まったら、すぐに髪型とか格好が変わる。でも、完全に染まってるわけじゃないんですよ。娯楽とか芸術には人一倍敏感なんだけど、それを隠して周りになじもうとする。自分の本当の気持ちは友達や兄弟にも見せないんです。標準語を喋っている人たちから見ると、東北弁ってどこかかわいげがある感じがするみたいで良い印象を持たれやすい。それを利用してズルいことを考えている東北人って多いんですよ。そういうキャラクターを演じる機会はあまりないので。やりがいがありましたね。

虚実入り混じった「バウスシアター物語」

——そんなハジメのうさん臭さが、映画の草創期の混沌とした感じを象徴していました。この映画で面白かったのは、映画の虚構性を意識したような演出です。映画館を書き割りのセットで表現したり、スタジオで野外のシーンを撮影したり。それが不思議な空間を生み出していました。

甫木元:この物語は公園でおじいちゃん(老人になったサネオの息子、タクオ)が回想している話じゃないですか。人間の記憶というのは曖昧で、結構適当だったりする。原作は口伝えで映画館に住む家族の中で語り継がれた物語です。峯田さんが演じたハジメは、青山さんの脚本に登場していた3人くらいのキャラクターを集約させているんですけど、この話が伝えられた時にいろんな人のエピソードがごっちゃになったり、盛られて伝わったりさまざまなことが起きていると思います。そういう回想のいいかげんさを、映像で表現したらどうなるんだろうって思ったんです。

——事実に基づいた「記録」と脳が作り上げた「記憶」の違いですね。記憶を描くことでフィクションとしての表現の幅も広くなる。

甫木元:記憶の曖昧さをそのまま描く、ということに気づいたのは井の頭公園で音を録音している時でした。そこにはいろんな人がいて、いろんな声が聞こえてくる。現実も記憶もカオスなんですよね。この脚本には現実のカオスがそのまま描かれていることに気づいたんです。それにバウスシアターも、映画館でありながらライブをやったりもする混沌とした場所だったし。

——峯田さんは完成した映画をご覧になって、どんな感想を持たれました?

峯田:最初に鈴木慶一さん(タクオ)の背中を映すじゃないですか。それも結構長めに撮っている。そのシーンに青山監督の匂いを感じたんです。でも、それと同時に甫木元さんの色もあるんですよね。

——2人の監督の感性が混じり合っている?

峯田:どちらでもあって、どちらでもないというか……不思議な感じなんですよ。

——峯田さんが感じる甫木元さんの色というのは、どんなものなのでしょうか。

峯田:生と死が全く別のものではなくて、生の裏側に死があるというか。虚実入り混じった世界です。この映画は、いろんな伝承や民話を集めて作られた「遠野物語」みたいな感じがするんですよ。

——確かにいろんな逸話を集めた「バウスシアター伝説」みたいなところがありますね。

峯田:この脚本を初めて読んだ時、映画館が主人公のように思えたんです。90歳の人生を生きた生き物みたいに。だから少しファンタジーっぽいところもあるなって感じました。

——甫木元監督は青山監督の作品の匂いというと、どんなことが思い浮かびますか?

甫木元:一つは映画における時間感覚です。青山さんは映画を音楽のアルバムに例えて講義することもありました。映画と音楽を同じ時間芸術として捉えていて、そういった考え方には影響を受けましたね。この作品では、冒頭の慶一さんを撮影しているパート。敗戦までのパート。子供たちの目線のパートとそれぞれ時間の流れ方を変えたので、プログレみたいな映画になってしまいました(笑)。

——プログレ映画(笑)。映画で使用する音楽については、サントラを手がけた大友良英さんとは、どんな話をされたのでしょうか。

甫木元:最後に楽団が練り歩く、というのを青山さんから生前に伺っていて。(ミュージシャンの)ドクター・ジョン(Dr. John)のお葬式のイメージらしいです。ニューオリンズのお葬式は、陽気な音楽で街の中を練り歩いて、亡くなったことを人々に伝えるそうで、まずそのことを大友さんに伝えて、楽団が演奏する映画のテーマ曲を撮影までに作ってもらいました。あとは出来上がった映像を見てもらって曲を書いてもらったんです。大友さんはノイズからキャッチーなメロディーまで幅広く行ったり来たりできる方なんで曲をはめていくのは面白かったですね。

峯田:映画でニール・ヤングの曲が流れるじゃないですか、ぐわーって。大友さんの劇伴もニール・ヤングみたいでしたね。どっちがニール・ヤングか分からない(笑)。

——劇中の大友さんの演奏シーンもすごかったですね。ギターを爆音でかき鳴らして。

峯田:バウスシアターといえば爆音上映、というイメージが強いので、ニール・ヤングと映画はすごく合ってたな。

思い出に残っている映画

——この映画は映画との出会いの物語でもありましたが、お2人が子供の頃に観て印象に残っている作品があれば教えてください。

峯田:僕は実家が電気屋なんです。でも、家電製品だけではやっていけないということで、80年代に入ってからビデオのレンタルを始めたんですよ。僕は小学校3年生から店でバイトをしていて、ビデオの面出し(オススメのビデオのパッケージを前に出して陳列する)は僕の仕事だったんです。バイトが終わったらビデオをタダで借りられたので、映画をいっぱい観ることができたんですよ。あと、家族みんなが映画好きだったので、夕食を食べ終わったら、家族みんなで砂糖をかけたグレープフルーツを食べながら映画を観る会があって。うちのじいちゃんはマカロニウエスタンが好きで、父親は伊丹十三が好きだったんです。それで「たんぽぽ」を小学4年生で観たんですけど、女の人の胸に塩と胡椒をかけて舐めるシーンがあって、それを小学4年生で観て衝撃を受けたんです。

——性に目覚める前の子供には強烈なシーンですね(笑)。

峯田:今の家庭だったら子供には見せないですよね(笑)。でも、うちの親父は全然気にしなくて。「恥ずかしかったら下向いてろ」って感じだったんです。だから、子供の時に観て印象に残っているのは「たんぽぽ」ですね。

——そういう家庭環境だったら、いろんな映画が観られたんでしょうね。

峯田:子供のころって、友達の家に集まって誕生会とかするじゃないですか。そういう時、僕はビデオを持っていく係なんです。それをみんなで観る。そういう場で男子が集まって盛り上がる映画といえばホラーなんですよ。「死霊のはらわた2」「デモンズ」「バタリアン」……いろいろ観てホラーに詳しくなりました。

——そんなに映画が観られたなんてうらやましいです。監督はいかがですか?

甫木元:父親が「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のビデオを借りてきたんですけど、うちのテレビが壊れてて字幕が出なくなっちゃたんです。それで、字幕がないまま「バック・トゥ・ザ・フューチャー」を何度も観ました。英語だから何を言ってるのかわからないんですけど、音楽と映像だけで面白いんですよね。車がやって来て走り去る。そこに音楽が乗るだけで、なんでこんなに感動するんだろうって思ってました。最近、改めて見返したんですけど、(監督の)ロバート・ゼメキスは、絵で物語を物語る職人だなと改めて思いました。

峯田:俺、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の冒頭の15分間が大好きなんですよ。まだ世界で何も起こっていない15分が。

甫木元:時計がカチカチ鳴って、ギターを爆音で鳴らして吹っ飛んで(笑)。

峯田:もう、最高!(笑)。

——2人とも頭に「バック・トゥ・ザ・フューチャー」が刻み込まれている(笑)。子供のころはビデオの存在が大きいんですね。では、お2人にとって映画館の魅力とはどんなところでしょうか。

峯田:真っ暗な空間で、スマホの電源を切って、外界から遮断された空間で全然知らない人たちと同じ映画を観る。そういう体験が楽しいんですよ。「あ、この人はここで泣くんだ」って思ったり、「俺はなんで泣かないんだろう」と自分のことを考えたり。映画を観終わった後に外に出る時の感じも良いんですよ。「映画の主人公が食べてたラーメンがおいしそうだったから俺も食べよう」って主人公の気分になったりする。3時間くらい経ったら、いつもの自分に戻るんですけど、しばらくは映画の世界にいることができるんです。

——映画館を出た時って世界が変わって見えますね。

甫木元:内容は全然覚えていないのに、映画館を出た時の風景は覚えている映画ってあるんですよ。

——映画館に行って帰ってくる。その往復で見たことや感じたことも含めて映画体験ですよね。

甫木元:そうですね。バウスシアターに関していえば、映画館以上にバウスに行くまでの商店街の風景をすごく覚えていて。いつも「こんなに遠かったっけ?」って思うんですよ(笑)。バウスで観た映画を思い出すと街の風景もセットで浮かび上がってくる。映画で見た風景と実際に見た風景が混ざる。それってすごく異常なことだと思うんですよ。映画館で映画を観るというのは、一つの体験として自分の中に刻まれていくんでしょうね。

PHOTOS:YUKI KAWASHIMA
STYLIST:[KAZUNOBU MINETA]HIROAKI IRIYAMA、[SORA HOKIMOTO]KAZE MATSUEDA
HAIR & MAKEUP:[KAZUNOBU MINETA& SORA HOKIMOTO]CHIAKI SAGA

「BAUS 映画から船出した映画館」

■「BAUS 映画から船出した映画館」
3月21日からテアトル新宿ほか全国ロードショー
出演:染谷将太 峯田和伸 夏帆
とよた真帆 光石研 橋本愛 鈴木慶一
監督:甫木元空
脚本:青山真治 甫木元空 
音楽:大友良英
撮影:米倉伸
原作:「吉祥寺に育てられた映画館 イノカン・MEG・バウス 吉祥寺っ子映画館三代記」(本田拓夫著/文藝春秋企画出版部発行・文藝春秋発売)
企画・製作:本田プロモーションBAUS boid 
制作プロダクション:コギトワークス 
配給:コピアポア・フィルム boid
©︎本田プロモーションBAUS/boid
https://bausmovie.com

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