向千鶴「WWDJAPAN」サステナビリティ・ディレクターが取材を通じて出会った人、見つけた面白いことなどを日記形式でお届けします。人との出会いは新しい価値観との出会い。意見を交換し、自分の境界線をじわりじわりと広げてゆく毎日です。
釣り針を取り除きながら巨大な太平洋ゴミベルトを思う
「ヘリーハンセン」で漁網リサイクルレクチャー(1/27)
ゴールドウインのノルウェー発のアウトドアブランド「ヘリーハンセン(HELLY HANSEN)」は1月、「アニエスベー(AGNES B.)」とコラボレーションし海洋問題をテーマに据えた日本限定コレクションを発売しました。この日はスタッフが集まり、コレクションの原料ともなっている廃棄漁網を原料にしたリサイクルナイロン「ミューロン(MURON)」や、海洋プラスチック問題について学んでおり便乗しちゃいました。
講師を務めたのは、「ミューロン」を開発した、アパレル資材を扱う商社モリトアパレルの船崎康洋サステナブルデザイン室室長代理です。我々が手を動かしたのは短時間、しかも触る漁網は洗浄済みです。実際のリサイクル現場はそれよりはるかに過酷で地道な作業でしょう。それでも実際に漁網から錆びた釣り針を黙々と取り除く作業を行うことで現実を少し体感できました。
皆さんは、日本とハワイの間に漂流している「太平洋プラスチックごみベルト」をご存じですか?その大きさは、日本列島4倍くらいだそう。そんな危機感を背景に開発と普及にいそしむ船崎さんには「WWDJAPNA」のポッドキャストにもご登場いただいております。この記事の下の関連記事リンクからぜひ聴いてください。我らながら面白くお話をうかがえています!
江戸創業の繊維商社で革新的なアイデアと出会う
豊島展示会(1/28)
創業天保12年の繊維商社、豊島の展示会で面白い企業の製品と出会いました。廃棄される化粧品の中身を染料としてリサイクルするモーンガータ(MANGATA)です。同社は今では大手化粧品企業とも協業していますが、その原点は家庭での化粧品の廃棄だったそう。使い切らずに放置しているアイシャドウパレットなど、ありますよね。私は正直、1~2年「使うかも」と放置した後に、最終的には罪悪感とともにゴミとして捨ててきました。モンガータは“マジックウォーター(企業秘密)”でそれらを染料にリサイクルし、画材などに生かしています。素晴らしい!歴史ある豊島が江戸時代からその歴史を積み上げているのも、こういった革新的なアイデアをいち早く取り上げる姿勢があるからなのだと思います。
自己表現出来る場があることは人を笑顔にする
ファッション軸のサーキュラー体験イベント「エコマキ」(1/31)
東急プラザ原宿「ハラカド」4階で1月31日から3日間、リペアやリメイクを柱としたサステナビリティ×ファッションのイベントが開催され、ワークショップや映画配信などさまざまな体験型コンテンツが用意されました。この集合写真が象徴していますが、実現させたのは「つながり」の力。約50ブランドが「よしやろう」と集りました。Free Standarが音頭をとり、東急不動産、東急不動産SCマネジメン、CYKLUSと開催にこぎつけました。
会場には10本歩けば知り合いとぶつかるくらい、サステナビリティに取り組む業界関係者が多かったのですが、印象的なのは彼らの笑顔。普段は「あれがうまくいかない」「これが大変だ」なんて課題の話をすることが多いのですが、ここではみんなよい笑顔で楽しそう。自分が信じること、手がけていることをきちんと表現出来る場があることが、これほど人を笑顔にするのか、と新鮮な気づきがありました。そういうポジティブな発露はきっと来場者に伝播しますよね。
東大を会場に「何をもって未来?」を熱弁
経産省「みらいのファッション人材育成プログラム」成果発表会(2/1)
経済産業省の補助事業「みらいのファッション人材育成プログラム」にメンターとして参加し、この日は最終発表会でした。東京大学大学院情報学環・福武ホールを会場に5組の採択事業者(MAI SUZKI、ワコール、メタクロシス、JR西日本SC開発、シンフラックス)が情熱的にプレゼンテーション。関係者の間では、「何をもってクリエイター?」に始まり、「何をもって未来?」へと議論が広がり、伴走する側も時々立ち止まり考えながらの10カ月でした。
Mr.好奇心。大好きなデザイナーを前にメロメロになる
マーク・ジェイコブスへインタビュー(2/10 )
19年ぶりに来日した大好きなデザイナー、マーク・ジェイコブス(Marc Jacobs)へのインタビューが実現し、文字通りメロメロになりました(笑)。私がサステナビリティに力を入れているのはファッションが好きだから。特にマークのような才能あるデザイナーに輝き続けて欲しいから。その世界が持続可能であるためには、間違っていたところは変えよう、サステナビリティを前提とした産業へ変わろう、というスタンスで活動をしています。
2000年代にコレクションマガジン「ファッションニュース」を作っていたとき、マークがインタビューで話していた「僕は時代や未来を予測するのはあまり得意ではないので将来のことはわからない。僕にとって未来は今取り掛かっている作業を進めること」という言葉が大好き。この瞬間を享受して、目の前の場所、人、時間を慈しむ勤勉な姿勢に感化されました。
そして昨年に「ヴォーグ(vogue)」が公開したムービー「A New York Day With Marc Jacobs and Jerry Saltz」で、アート評論家Jerry Saltzとの対話でマークは「まだやっていないこと、についてはわからない。突き動かしているのは好奇心。そして、好奇心には答えは必要ない。ただ存在するだけ」と話していて、その変わらないスタンスが嬉しかった。答えを求めすぎたり、将来を憂いすぎず、尽きない好奇心に突き動かされるままに、ただここに存在する一瞬一瞬を大切にする。自分もそうありたいです。
レンタル後にアップサイクルされる服という新ジャンル
大丸アップサイクルイベント「ループアワード」(2/15)
大丸松坂屋百貨店のファッションサブスクリプションサービス 「アナザーアドレス(ANOTHERADDRESS)」が主催するアップサイクルのコンテスト「ループアワード(roop Award)」に審査員として参加しました。アップサイクルは難しいです。「アップ」というからには、元の製品より価値が「アップ」してほしいですが、正直そうなっていない製品の方が多いのが現状だと思います。
流行やトレンドはどうやって生まれるの?の難題に答える
J-WAVEで井桁弘恵さんのラジオ番組に出演(2/21)
モデルで俳優の井桁弘恵さんのラジオ番組に呼んでいただき、ファッションをテーマに弾丸トークしました。「LOGISTEED TOMOLAB.〜TOMORROW LABORATORY」はJ-WAVE(81.3FM)で毎週土曜日 20:00〜20:54 にオンエア中。身の周りにある森羅万象をテーマにとり上げ、「ラボ」のチーフである井桁弘恵さんが、毎回フェロー(ゲスト)を迎えてさまざまな角度から話を進めるというコンセプトで、私のお題はもちろん、ファッションとサステナビリティ。流行やトレンドはどのように生まれて、変化してきたのか?などなど、聞き上手な井桁さんのリズムにすっかり乗っかり楽しく話しました。アーカイブはSpotifyなどのPod Castでも聴けるそうなのでぜひ!
JSFAなど業界3団体がアパレルのGHG測定・削減にエンジンかける
脱炭素に向けたガイドライン説明会(2/24)
業界3団体がタッグを組んで、アパレルの脱炭素に向けてグイっと一歩踏み出しました。ジャパンサステナブルファッションアライアンス(JSFA)、⼀般社団法⼈⽇本アパレル・ファッション産業協会(JAFIC)および協同組合関⻄ファッション連合(KanFA)が連携して環境省の⽀援を受けてアパレル企業が脱炭素に向けてGHG測定・削減を推進するためのガイドラインを策定。この日開かれた説明会には100人を超える業界各社のサステナビリティ担当が集まりました。
利害関係がバチバチにある企業が集まり、活発に議論を交わし、GHG測定・削減の実践につながる道筋をつけた。これ、結構すごいことです。写真左のワールドの枝村さんをはじめアパレルの「品質管理室」の皆さんの奮闘が大きいようです。大事なことはこのガイドラインをちゃんと使うこと。日本には規制はまだありませんが、上場企業にスコープ3の算定義務化が課される日は間近で、2026年以降には「プライム市場上場企業ないしはその一部」への適用が検討されています。時間はもうあまりありません。