ミラノに引き続き、2025-26年秋冬パリ・ファッション・ウイークは、デザイナーの就任や退任が相次いでいるからこそ、過渡期を思わせるクリエイションが続出。新デザイナーによるリセットや、去就が注目されるデザイナーによる集大成を思わせるクリエイションは、時代を読み取りながらブランドらしさやデザイナーらしさを盛り込む“通常運転”のコレクションとは趣が異なっている。ゆえに洋服から時代の大きな流れやトレンドを見いだすことは難しかった。不安で不穏な時代の中、デザイナー人事で混沌としつつあるファッション業界が新たな方向性を確立するには、今しばらくの時間が必要らしい。(この記事は「WWDJAPAN」2025年3月24日号からの抜粋です)
いまだ拡大の様相を見せるデザイナー交代劇が収束するには、それぞれのメゾンを託された新デザイナーたちが、多くの人にとって納得のクリエイションを見せ、定着していく他はないだろう。その意味で2025-26年秋冬パリ・ファッション・ウイークで新章を迎えた3ブランドは、いずれも絶好のスタートを切った。
「ジバンシィ」は
グレートリセット
まずサラ・バートン(Sarah Burton)は、「ジバンシィ(GIVENCHY)」をグレート・リセット。今からさかのぼること20年前、リカルド・ティッシ(Riccardo Tisci)がトップに就いて以降傾倒した黒一色のゴスやストリート路線に別れを告げ、ミニマルなスタイルの中にエレガンスを見いだすユベール・ド・ジバンシィの真骨頂に立ち返った。直近の「ジバンシィ」しか知らない人は別のブランドのように思うかもしれないが、こちらが本来の「ジバンシィ」だ。「『ジバンシィ』を一言で定義するとしたら?」の問いに、サラは迷わず「シルエット」と断言。現代の女性に向けて提案するコートやジャケットさえ、アワーグラスのシルエットがエレガンスを醸し出す。首元にひだを寄せてドレープする様を楽しむホルターネックのドレスは、シンプルなドレスにトレーンを添えることで優雅さを増幅したユベール・ド・ジバンシィの真髄がよみがえったかのよう。ふんわりと膨らむシルエットはトレンチコートや帯ベルトを合わせた前合わせのドレスで再現し、リトル・ブラック・ドレスはシャンティレースをぜいたくに用いたミニ丈のベビードールドレスに変換した。メンズライクなスタイルと、ミニ丈や肌見せによるヘルシーなムードでコンテンポラリーにまとめながら原点回帰した印象だ。創業デザイナーの特徴だったリボンやスカーフ使いには、首元にあしらったレザーを含む巨大なスカーフでオマージュをささげている。スカーフに見られるノット(結び目)のディテールは、オリエンタルな刺しゅうを施したダッチェスサテンのドレスにも表れた。ウィメンズの経験が不足していたがゆえに、スパゲティストラップのランジェリーミニドレスしか打ち出せなかったマシュー・M・ウィリアムズ(Matthew M. Williams)とは段違いだ。すでにセレブリティのレッドカーペットも手掛けるようになっており、オードリー・ヘプバーン(Audrey Hepburn)との蜜月関係というユベール・ド・ジバンシィのもう一つの側面もほうふつとさせる。長らくの念願ながらマシュー時代には頓挫したオートクチュールの復活も近いだろう。
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