
パリならではと言えるのは、まだ見たことのない美しさを提案するアプローチ。新たなシルエットやデザインを探求するデザイナーたちは、アートの世界から大きなインスピレーションを得ている。彫刻の造形美や絵画の表現、クラフトの技術とファッションを融合したクリエイティブな表現が際立った。(この記事は「WWDJAPAN」2025年3月24日号からの抜粋です)
「ロエベ(LOEWE)」
クラフトとアートへの情熱を注ぎ込んだ集大成
ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)が手掛ける最後のシーズンとなった今季は、「アイデアのスクラップブック」のようにコレクションを構想。これまでのショーやビジュアルで用いたアーティストの作品や工芸品が飾られた会場に、メンズとウィメンズの新作を展示した。複数のアイテムを一体化したトロンプルイユや比率を変えて生み出す独創的なプロポーション、大胆なシェイプやボリューム、男女で共有する世界観などのデザインコードと、レザーをはじめとする上質な素材、複雑な職人技を生かした渾身の作品は見応えたっぷり。バウハウス出身のジョセフ&アニ・アルバース(Josef & Anni Albers)の財団と協業したウエアやバッグも披露した。
「アライア(ALAIA)」
造形の探求で描く新たなシルエット
ショー会場となった新社屋に置くマーク・マンダース(Mark Manders)の彫刻などが着想源。セカンドスキンのトップスで描くボディーコンシャスなシルエットに造形を加える感覚で新しいシルエットを描こうとした意欲的なコレクションだ。コードを編み込んだり、折り畳んだ生地を重ねたりと縫製は最小限。クラフトワークも特筆事項だ。クロップド丈のボレロ風ジャケットとヒップハングのスカートのはざまから大胆にのぞく肌は、官能的でフェティッシュなムードを醸し出す。
「ジュンヤ ワタナベ(JUNYA WATANABE)」
「非リアルな服作りに魅了される」という渡辺淳弥は、身近な服をキュビズムの視点で再考した。ライダースジャケットやトレンチコート、ベルベットのドレスは立方体やトゲのような形が飛び出す角張ったシルエットになり、MA-1はたっぷりの中綿でふくれ上がる。そんなドラマチックで幾何学的な造形に目を奪われる。
「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」
見慣れたものの見方を変え、新たな視点を生むことに挑んだ。ニットの写真をのせたドレスの後に被写体となった彫刻的なニットドレスを見せたり、「どんなものでも体を通せば衣服になるか?」という問いから紙袋風のトップスを提案したり。それは、既成概念を覆す現代アートのよう。
「デュラン ランティンク(DURAN LANTINK)」

昨年「LVMH賞」で特別賞に選ばれた若手デザイナーは、シェイプへのユニークな視点が強み。今季は、肩のラインが耳までせり上がっていたり、平らなプリーツスカートが体の前で浮くように固定されていたり。ユーモラスで自由なアプローチはそのままに、ウエアラブルな提案も強化している。
「シーエフシーエル(CFCL)」

デザインのカギは、「線」。輪郭を鮮やかな赤で強調したりジグザグ模様を編みで表現したりと、グラフィカルな表現が目立つ。ニットで生み出す造形は、大きくカーブした袖で描くラウンドフォルムや扇状に編んで作るフレアラインなど、より大胆に進化。
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35周年を迎えた「アンダーカバー」
高橋盾が自身の“ベスト”を再解釈
「アンダーカバー(UNDERCOVER)」設立35周年を記念した今季の出発点は、高橋盾が“私的ベスト・コレクション”と考える2004-05年秋冬コレクションだ。それは、アン・ヴァレリー・デュポン(Anne-Valerie Dupond)が作る独創的なぬいぐるみとミュージシャンのパティ・スミス(Patti Smith)の着こなしに着想したもの。同じテーマを元にしつつ、大人のカジュアルスタイルを生むことに取り組んだ。ベースは、「チャンピオン(CHAMPION)」との協業によるスエットアイテムをはじめ、ワークウエアやテーラリング、ニット、ジーンズといった日常着。ただ、うねるような縫い目やバラバラのボタンなど、高橋とデュポンに共通する歪さの中に美を見いだすデザインで個性を放つ。終盤には、動物モチーフのドラマチックな作品をデュポンが制作した靴とともに披露。