ファッション
特集 パリ・コレクション2025-26年秋冬

ラストは可憐な「シャネル」に、淑女な「ミュウミュウ」、ミニマルに誇張する「サンローラン」 25-26年秋冬パリコレ日記最終回

INDEX
  • メゾンコードに裏付けられた 安定感ある「シャネル」
  • 「ルイ・ヴィトン」の新作香水は 冒険者のような女性をイメージ
  • “とっ散らかる“「キコ」は、 他とは違うダンサーの装い
  • 「ミュウミュウ」の次の一手は 捻りを効かせた淑女スタイル
  • 学生時代に思いをはせた 「ウジョー」のプレッピー
  • ラストは「サンローラン」の 一筆描き風のミニマリズム

9日間のパリ・ファッション・ウイークも、ついに最終日です。コレクション取材は本当に体力勝負なので、今回も体調を崩すことなく、取材を終えられそうで一安心。今シーズンもパリコレ日記にお付き合いいただきありがとうございました!それでは、朝イチの可憐な「シャネル(CHANEL)」から、少女から淑女に転じた「ミュウミュウ(MIU MIU)」、トリを飾ったミニマルでありながらダイナミックな「サンローラン(SAINT LAURENT)」まで、最終日の模様をどうぞ。

メゾンコードに裏付けられた
安定感ある「シャネル」

藪野淳「WWDJAPAN」欧州通信員:朝は「シャネル」のショーのためにグラン・パレへ。ガラス屋根と装飾的が施された鉄の柱が特徴の身廊は、いつ来ても壮観。広々とした空間に今回は、巨大な黒のリボンをモチーフにしたインスタレーションが用意されていました。そういえば、ホテルに届いたインビテーションも黒のサテンリボンでしたが、そんな「シャネル」のメゾンコードの一つであるリボンはコレクションのカギにもなりました。

アーティスティック・ディレクターに就くマチュー・ブレイジー(Matthieu Blazy)は4月に着任し、10月にデビューを予定しているため、今季も社内のクリエイション・スタジオ(デザインチーム)によるコレクションです。トップ不在となると、まとまりがなく方向性が見えづらいクリエイションになることも多いですが、そこはブレないメゾンコードが確立された「シャネル」。前述のリボンのほか、ツイードをはじめとする象徴的なジャケットやスーツ、黒と白のカラーリング、パール、コスチュームジュエリーといったコードを再解釈することで、現代的かつ若々しいコレクションに仕上げました。象徴的なのは、ミニ丈で仕上げたツイードスーツやコートの上にチュールのケープをレイヤードしたルック。さらに象徴的なスーツスタイルは、コンパクトなジャケットにラップスカートとフレアパンツを重ねて組み合わせたり、ニットのトロンプルイユで表現したり。リボンはボウタイをはじめ、袖口やスカートの装飾からプリント、ニットの立体モチーフ、カットアウト、ベルト、ヘアアクセサリーにまで採用。一方、パールはジュエリーやウエアの装飾だけでなく、ネックレスを巨大化したようなバッグやシューズのヒールとしても登場しました。可憐でありながらココ・シャネル(Coco Chanel)に通じる自立した女性像を描いた提案は、リアルで顧客から支持されそうです。

ただ、そんな安定感のあるメゾンのスタイルに新たな視点やフレッシュな感覚をもたらすことを期待されているのが、マチューです。彼は「シャネル」のコードや傘下のアトリエによる芸術的な職人技とどのように向き合い、どんなコレクションを生み出していくのか?これからが楽しみですね。

「ルイ・ヴィトン」の新作香水は
冒険者のような女性をイメージ

藪野:続いては、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」の新作フレグランスの展示会へ。今回発表されたのは、フランス語で「彼女たち」を意味する「elles」から名付けられたという「eLVes ルイ・ヴィトン」。マスター・ パフューマーのジャック·キャヴァリエ·ベルトリュード(Jacques Cavallier Belletrud)さんは、メゾンの豊かな旅の歴史をインスピレーション源に、自らの道を自分で切り拓いていく冒険者のような女性をイメージしたといいます。奇しくも、今シーズン浮上した力強い女性像にもリンクします。

それを香りでどう表現したかというと、「21世紀の官能性とエレガンスの典型」というアンバーを基調に、バラとスズランのフローラルノートをミックス。色は、綺麗なパープルカラーで仕上げられています。展示会の会場には、新作フレグランスのカギとなる3つの香りをそれぞれ試すことができる仕掛けが用意されていたほか、調香用の特製トランクも展示されていました。

また、「ルイ・ヴィトン」といえば、秋にビューティラインを始動することを先日発表して話題になりましたね。ちなみに、第1弾はリップスティックなんと55色!!に加え、リップバーム10種、アイパレット8種をラインアップするそう。開発に4年を費やしたそうで、満を持してという感じですね。そんなビューティラインについては、下記の記事でご覧ください。

“とっ散らかる“「キコ」は、
他とは違うダンサーの装い

村上要「WWDJAPAN」編集長:キコ コスタディノフ(KIKO KOSTADINOV)」のウィメンズって、不思議ですよね?スタイリングも含めて、実験的というか、DIYっぽいというか、“生っぽい“というか、ものすごく生きている人間の“あやふや“な感じがあります。

今シーズンは、オーストラリア出身のダンサー、ヴァリ・マイヤーズ(Vali Myers)がインスピレーションの1つ。1950年代のパリのボヘミアンな夜を舞台に、服を脱ぎ捨て、シャンパンを飲みながら夜通し踊り続けた彼女の姿からコレクションを生み出しています。薄手の下着の上にコートを羽織るだけの、「着ている」とも「脱いでいる」とも言えない曖昧な美しさの表現を試みました。

ダンサーに着想源を得て、アンダーウエアの上にコートを羽織る、って、最近は他のブランドも同じようなことをしているんです。でも、なぜこんなに違うんでしょう(笑)。確かに序盤は、チュールやハイゲージニットを用いたレオタードにレッグ&アームウォーマーの装い。そこにフェザーのベストやコルセット風のベルトをプラスして、「着ている」とも「脱いでいる」とも言えないスタイルです。でも、この段階で既に他のブランドとは全然違う。他のブランドは、素材や色数をしぼったり、少なくとも1つの世界観の中で収まっているのに、「キコ コスタディノフ」のウィメンズを手掛けるローラ・ファニング(Laura Fanning)とディアナ・ファニング(Deanna Fanning)は、絶対1つの世界の中に収まらないんです(笑)。50年代のテディ・ガール風のボーイッシュなムードを取り入れたり、そもそもコルセットにあしらったベルトはオリエンタルなムードだったり、ハイパーミックスがスゴい。その後も、確かにハイゲージニットで作るトップスがダンサーの面影は残しつつも、ピンストライプのスカートで英国の紳士調、バラクラバで中東風なスタイルが現れ、中盤以降は「え、ダンサーはどこに!?」なビンテージライクなフォーマルスタイルに転換します。

“とっ散らかってる“と思う人もいるでしょうし、ランウエイのスタイルをなかなかリアルに着こなせる人は少ないでしょう。でも、「うげっ」とは思わなかったり、嫌いになれないのはナゼなのか(笑)?私は、そこに「好きなものを、好きなように着ればいい」というファッションの本質や、「1つのテーマに絞れるほど、人生って単純じゃないでしょう?」という人間の本懐があるからでは?と思うのですが、いかがですか?

「ミュウミュウ」の次の一手は
捻りを効かせた淑女スタイル

藪野:さて、たくさんのセレブが来場する「ミュウミュウ」のお時間です。ということで、会場到着後はまず自分たちの席を確認してから、エントランスの中と外に分かれてセレブの到着を待ちます。隣には、同じミッションに取り組む“戦友“のエディターの方々。一人じゃないと、待つのも苦になりません。日本のソーシャルエディターから来ていたリクエストは計4人。今回は、TWICEのモモ、(G)I-DLEのミニー、MEOVVのエラは撮影成功、IVEのウォニョンは撮り逃してしまったので3勝1敗と思っていましたが、まさかのショー後に編集長がバッチリ押さえてくれたので無事ミッションクリアです。

コレクションは、半年前の少女のようなイノセントでガーリーなスタイルから一転!1950年代ムード漂う古き良きレディーライクな着こなしをベースに、「ミュウミュウ」らしい違和感を加え、新たな一手を見せてくれました。例えば、幅広い肩のマスキュリンなウールコートやジャケットはえり抜きしたようなシルエットや胸の下に斜めに入れたダーツで柔らかくカーブを表現。また、タイトなセーターに先の尖ったコーンブラを合わせて胸を強調したり、カーディガンをオフショルダーで着崩して中のランジェリーライクなアイテムを見せたり。今季も違和感を生むスタイリングは、ロッタ・ヴォルコヴァ(Lotta Volkova)が手掛けています。

これまでもさまざまな視点で「女性らしさ」を解釈しているミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)はショー後の囲み取材で「この困難な時代には、私たちの気分を上げてくれるフェミニニティーが必要」とコメント。腕にかけたファーストールやハンドバッグ、大ぶりのブローチやジュエリー、クローシュハットといった、まさに女性らしさ満点のアイテムがスタイルの決め手となっていたのにも納得しました。

今回はこう来たか!という感じでしたが、村上さんはいかがでしたか?

村上:ミウッチャのコメントを聞いて会場を出ようとした時、「あのテンガロンハットは、絶対セレブに違いない!」と条件反射的に撮影したら、ウォニョンでした(笑)。グッジョブ、自分です。

 

それはさておき、コレクションは“レトロマダム感“さえ漂うレディーライク、淑女感でしたね(笑)。この辺りのルックは、「あたくしのぼっちゃまは、3つもお稽古に通っているんでございますのよ〜」って言い出しそうな淑女感、というよりママ感。帰り際は藪野さんと「〜ざます」口調で話し合ってしまいましたが、ここにフェミニニティーを見出し、それを増幅させることで違和感はありつつも、「なんか、いいかも」って思わせるんだから、さすがです。正直洋服と言うよりは、ドレスの胸元を少しだけはだけて見せたり、ファーのストールやハンドバッグを腕にかけたり、そこに大ぶりのジュエリーをあしらったりというスタイリングやアティチュードでフェミニニティーを表現している感じですが、それこそミウッチャがずっと言い続けている「フェミニニティーは、誰の中にもある」ってことですよね?「ミュウミュウ」を着なくちゃフェミニンになれないワケじゃなく、でも「ミュウミュウ」を着たらフェミニンをもっと自由に楽しめるかもしれない、そんなムードを感じさせるのが上手いな、と思いました。

とはいえ、次のシーズンはこんな教育ママ風のセレブが会場に集結するのでしょうか?それはそれで楽しみ(笑)。なかなか値段が高騰しているブランドですが、アイウエアはすっごく売れそうな気がします。次の秋冬は、みんな「〜ざます」感を漂わせているかもしれません(笑)。

学生時代に思いをはせた
「ウジョー」のプレッピー

藪野:ウジョー(UJOH)」の今季の出発点は、西崎暢デザイナーがファッションに目覚めた10代の頃。厳しい校則に抗いながら自分らしさを表現するために着崩す制服に着目し、レイヤードやカッティング、アシンメトリーなシルエットが特徴のテーラードスタイルにミックスしました。「ウジョー」らしいスタイルに新鮮さをもたらすのは、オーバーサイズのライン入りニットや、ミニ丈のプリーツスカートパーツを合わせたアシンメトリースカート、セーラーカラー風の付け襟、ルーズソックス風のレッグウォーマー。自分の高校は制服はあるけれど私服通学もOKで規定は緩かったのですが、制服に合わせるためににオーバーサイズのカーディガンを買いに行ったな〜と懐かしい気持ちになりました。そして、ルールの多いテーラリングを新たな視点で解釈する「ウジョー」の姿勢と、規定を破るか破らないかのギリギリを攻めるように制服をアレンジする学生たちのマインドには、共通する部分を感じます。

フィナーレにはモデルが数人ずつ、手を繋いだり、手を振ったりしながら登場。ランウエイに置かれた教室を思い起こさせる椅子に座って、談笑します。そんな休み時間や放課後のような演出もハートウォーミングでした。

ラストは「サンローラン」の
一筆描き風のミニマリズム

村上:さて、今シーズンのフィナーレは、「サンローラン」。今シーズンは、メゾンにおける1つの理想型、まるで一筆描きのようにシンプルなシルエットを追求しました。

それでも「サンローラン」としてのエレガンスや華やかさは維持しなければならないーー。そこでアンソニー・ヴァカレロ(Anthony Vaccarello)は、生地とパターン、そしてカッティングに徹底的にこだわりました。用いたのは、シルクのダッチェスサテンなど。極彩色のジュエルカラーを纏わせ、ハイカラーとパワーショルダー、比翼仕立てが特徴のジャケットやボウブラウスを提案します。鮮やかさを一段と際立てるのは、色違いの帯ベルト。タイトスカートもトップスとは色を変え、鮮烈な色同士のぶつかり合いを楽しみました。キャリアウーマンのスタイルのように見えつつ、その色と大ぶりのジュエリーでイヴニングのスタイルとしても通用しそう。中盤以降は、素材をフローラルプリントのシリコンや、ギュピールセールに変え、終盤はネグリジェのような上半身に対して下半身はクリノリンで大きく膨らむドレスにレザーのブルゾンを合わせました。

まさにシンプルながら、エレガンス。先シーズンの「ヴァレンティノ(VALENTINO)」に代表されるよう、マキシマリズムな装飾主義がカムバックしていると評するバイヤーもいますが、「サンローラン」の誇張って、こういうことなんだな、と学びました。

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