「請求書送付のご案内」と書かれた日本語の書類に印刷された“毒気”のあるインビテーション。「ヨウジヤマモト」のショー当日に発刊された「WWD-NY」には、NYで発表された「Y-3」10周年を機にした山本耀司のロングインタビューが掲載され、昨今のファッション界への苦言とともに、緊迫する日中関係への懸念や日本の戦争責任などにも言及している。そんな緊張感を振り払うように、ランウェイにはアシンメトリックなパターンで仕立てられたドレスを着たモデルたちが足早に闊歩していく。薄い藤絹を使った風の中を舞うような繊細さと、目元を強調したメイクが象徴する強靭なイメージとのコントラストが目を引く。山本耀司いわく、「80年代に発表したコレクションのように、ともかくステージにたくさんの作品を出したかった。あの頃の気分を取り戻したくてね」。
ショーの中盤では、特攻服のようなミリタリールックのモデルが登場。これは若者向けに立ち上げた新ライン「ヨウジヤマモトレギュレーション」のお披露目であり、ミリタリーやワークウエアを中心にフルセットで10万円以内の価格帯になるという。「ファストファッションの台頭で、美しいモードに対する意識が希薄になっている昨今の若者に、もう一度ファッションのルール(規則)を教えてあげたいという思いから、“レギュレーション”と命名した」。アシンメトリックなフォルムと薄手の素材にこだわったコレクションは、ショー後半からトランスペアレントなドレスへと移行していく。「風に舞いながら、空気の中に溶け入ってしまうような女性を描きたかった」という耀司の言葉通り、日本の素材が持つ繊細な風合いを熟練のアトリエワークで仕立てた作品は、“孤高のモードマスター”山本耀司の存在意義を自ら証明してみせた。