1993年から上海在住のライターでメイクアップアーティストでもあるヒキタミワさんの連載「水玉上海」は、ファッションやビューティの最新トレンドや人気のグルメ&ライフスタイル情報をベテランの業界人目線でお届けします。今回は友人の起業家が仕掛けるファッション×オンディマンドの新ビジネスについて。次々と新ビジネスが生まれる中国の雰囲気が伝わってきます。
起業、売却、留学を経て
ファッション×テックのオンデマンド起業を設立
PROFILE: 詹金艳(ジャン・ジン・イェン)/「アート・ジャーニー」ファウンダー

今回のお話は北京より。私の友人であるJoss(ジョス)が始めた、とてもキュートでエキサイティングな事業について紹介しよう。
ジョスこと重慶出身の詹金艳(ジャン・ジン・イェン、46歳)の情熱とビジョンから生まれたブランド「アートジャーニー(ArtJourney以下、AJ)」は、「誰でもデザイナーになれる」、まさにAIが後押しする「プリント・オン・デマンド」のブランドだ。
彼女がこのブランドを立ち上げたきっかけは、娘が幼少期から描いていた独創的な絵を形に残したいという思いだった。その思いが、誰でも簡単に自分だけのデザインを作れるプラットフォームの構築へとつながった。
Jossは四川大学外語系英語専業本科を卒業後、2002年にアプリ開発会社のCOOとしてキャリアをスタート。起業、売却、そしてNASDAQ上場まで経験した。一方で、彼女は15年以上にわたりアートとファッションの交差する領域に深い関心を持ち、世界各地で貴重なコレクションを収集してきた。2017年にはフランスに渡り、パリのファッションとマーケティングの専門学校である「IFAパリ」でラグジュアリーマネジメントを学び、本格的にファッション・アート業界へ転身。その経験を活かし、2018年にはファッション留学支援ビジネスもスタート。中国のファッション企業家たちをパリ、ミラノ、ロンドン、東京といった国際都市に導き、ファッションを学ぶ機会を提供した。
コロナ禍により海外渡航は難しくなったが、留学ビジネスで生徒として参加していた紡績やプリント技術などを持つサプライヤーに出逢ったことも紡績やプリント技術などを持つサプライヤーに出逢ったことも今回起業する上で、大きな手助けとなっている。
24年2月に満を持して起業
写真やアートを気軽に服やインテリアに
そして2023年初頭、児童アート作品からインスピレーションを受け、娘のオリジナル作品をモチーフにした親子お揃いのファッションやホームインテリアシリーズを制作。これが2023年4月「AJ」誕生のきっかけとなり、2024年4月に会社を設立した。
「AJ」は生成AI技術を駆使して、オンライン上でアパレルやインテリアデザインを瞬時に作成できるプラットフォームだ(現在は微信内のミニプログラムでオーダー可能)。また、都市中心部には300㎡規模のオフライン体験型店舗を設置し、来店者がその場でデザインし、即座にプリントできる環境も整えている。
現在展開しているアイテムは携帯ケース、Tシャツ、スウェット、水筒、マグカップ、バッグ、スケートボード、ベッドカバー、カーテン〜高級オーダーメイドファッションなど、多岐にわたる。例えばスウェットだけでも10種類ほどのデザインや価格帯があり、好みに合ったものを選びやすい。Jossが起業したため、デザイン性や品質へのこだわりも格別だ。
他国にも類似のサービスは存在するが、例えばアメリカではオンラインショップのみだったり、日本だとユニクロの類似のサービスだと「UTme」になるが、オフライン店舗での提供のみであり、どちらも限られたデザインの中から選ぶスタイルになる。一方で「AJ」は、完全にオリジナルのデザインを自由に作成できる点で圧倒的な違いがある。
私も実際に「AJ」のサイトを試してみたが、その自由度と使いやすさには驚いた。まず、自分の作品となる絵や写真をアップロードし、購入したい商品を選ぶ。画像は自由に拡大・縮小・回転ができ、「AJ」オリジナルのパターンとも組み合わせられる。私は家の猫をデザインしたマグカップを作ってみた。通常の配送で約3〜5日、エクスプレスなら1〜2日で届く。北京在住なら、店舗で直接プリントアウトすることも可能だ。
ちょうどビデオインタビュー中に来店していた14歳の女子中学生は、「クラスメイトに聞いて来た」と言い、自作のイラストをTシャツにプリントしてもらっていた。完成した商品は可愛らしい「AJ」オリジナルボックスに入れられ、手渡しされる。
ゴン・リーやチャン・ツィイーら中国トップ女優を輩出した名門・中央戯劇学院のギフトショップでのアパレル展開や、中央バレエ団との衣装製作、さらには国内外のアーティストとのコラボレーションなど、アプリの枠を超えたクリエイティブな挑戦も加速している。
まだ立ち上がったばかりのブランドだが、日本進出の計画もあるという。日本にはオリジナリティを重視するクリエイティブな層が多く、不景気でラグジュアリーブランドは手が届かなくても、自分だけのデザインを手に入れられるなら、それこそが何よりの贅沢に感じられるかもしれない。実際、Jossが私に送ってくれたTシャツには私の名前が入っており、それだけで特別な気分になった。