「プッチ(PUCCI)」は4月4日、イタリア・ポルトフィーノで2025年春夏ショーを開いた。同ブランドはカミーユ・ミチェリ(Camille Miceli)=アーティスティック・ディレクターの就任以降、独自のスケジュールとロケーションでのコレクション発表に移行。オンシーズンの新作を披露している。今回のショーは、22年のカプリ島とサンモリッツでのプレゼンテーション、そして23年のフィレンツェ、昨年のローマでのショーに続くものだ。舞台となったのは、かつては修道院だったという12世紀に建てられた歴史的建造物ラ・セルバラ(La Cervara)。ポルトフィーノへ向かう沿岸道路の小高い丘にあるラ・セルバラには手入れの行き届いた庭園があり、そこからは美しいリグリア海を見渡せる。夏のような陽気に恵まれた1日の終わりに、そんな絶景を背景に新作を披露した。
象徴的な“マルモ“柄の多彩な表現
“マルモ(Marmo)“と題した今季は、その名の通り、もともと創業者エミリオ・プッチ(Emilio Pucci)が海に反射する太陽からヒントを得て1968年に制作した同名の渦巻くプリントを軸に据えた。カミーユは「“マルモ“は、私が『プッチ』に加わって最初に恋に落ち、再解釈したプリント。そんな象徴的なモチーフを改めて強調するために、さまざまな表現に取り組んだ」と説明。鮮やかでコントラストの効いた色使いを思い浮かべがちな「プッチ」だが、今季のプリントは淡いピンクやベージュのグラデーションと白黒の配色で、より日常にも取り入れやすいソフトな印象に仕上げている。その一方で、ダイナミックに揺れるフリンジやシルバーのアイレット、白黒の貝殻のようなパーツの装飾で柄を描く職人の手仕事を生かした提案(一部はオーダーメードアイテム)も際立った。
昨年のショーの際にも「リゾートだけでなく、街で過ごす日常でも着られるブランドとしてのイメージを確立したい」と語っていたように、カミーユのアプローチは明確だ。今季は柔らかく軽やかな「エアリー」をキーワードに、ブランドの代名詞である柄と都会的で洗練されたスタイルの融合を推し進めた。体にぴったりと沿うセンシュアルなラインから体を優しく包むリラックスシルエットまでを用意するラインアップの中で新鮮なのは、“エアリー・ボディーコンシャス“な提案。例えば、ギャザーやシャーリングで作るふんわりボリュームのあるトップスとタイトなミニスカートを組み合わせてドレスに仕立てたり、フィット感のあるニットに大胆に広がるミニスカートをコーディネートしたり、ドローストリングを絞ることでメリハリのあるシルエットに仕上げたスポーティーなナイロンジャケットにミッドカーフ丈のタイトスカートを合わせたり。
また、日常をより意識した提案として、“マルモ“柄を控えめに表現したベージュキャンバスのワークパンツやシャツジャケット、オーバーサイズのポプリンシャツとハイウエストのタイトスカートをドッキングしたドレスなども登場。黒をベースにしたドレスには、首元や袖口にリボンのようにプリントをあしらったり、裾にプリント地で作ったフリンジを配したりすることで、落ち着いたデザインにアクセントを加えている。
仕上げは「タトゥージュエリー」と
遊び心あるアクセサリー
スタイルを仕上げるのは、「タトゥージュエリー」と呼ぶ皮膚の上にあしらったシルバーのタトゥーシールや、足に柄を描くようなグラディエーター風サンダル。そのデザインは、「かつてカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)が、『プッチ』をまとう姿は体にタトゥーが施されているかのようだと話していた」ことからヒントを得たものだという。
そして、アクセサリーデザインの経験も豊富な彼女は、ブランドの裾野を広げるためにバッグやシューズ、ジュエリーの提案を引き続き強化。ロープ状のプリント地を編み上げたショルダーバッグやラフィアのバスケットバッグ、広げるとトートにもなる二つ折りのクラッチから、レインブーツから着想したキトゥンヒールのシューズ、装飾を施したヌーディーなサンダル、ウニや貝を想起させるジュエリー、モビールのように丸いパーツが揺れるピアス、ライターケースのペンダント、ロープを用いたウォレットコード、“マルモ“プリントをあしらったメタルフレームのサングラスなど、遊び心あるアイテムをそろえた。
暗い時代にこそ大切な
ポジティブさやハッピーな気持ち
今シーズンはこれまでの弾けるようにカラフルでパワフルなイメージに比べ、色使いもシルエットも柔らかな印象だった。しかし、イタリア人歌手ナーダ(Nada)のアップビートな「AMORE DISPERATO」が流れる中で行われたショーや、夜遅くまで盛り上がったアフターパーティーは、「プッチ」らしい自由で開放的なエネルギーにあふれていた。
世界中でさまざまな問題が起こる中、多くのデザイナーがこの暗く不確かな時代について口にしたり、その思いをコレクションに反映したりしている。カミーユは、そんな今に対して「私自身、世の中で起こっていることに影響されやすい」としながらも、「ショーを通して少しでもポジティブさを届けたいし、ひとときでも不安を忘れてハッピーな気持ちになってほしい。それがない人生なんて終わったようなものだし、うんざりでしょ?」と話す。そんな彼女の「どんな状況においても人生を楽しむ」という姿勢は、人々に高揚感をもたらすデザインで知られるブランドのDNAにも通じるものであり、こんな時代にこそ忘れてはいけないマインドかもしれない。