1993年から上海在住のライターでメイクアップアーティストでもあるヒキタミワさんの連載「水玉上海」は、ファッションやビューティの最新トレンドや人気のグルメ&ライフスタイル情報をベテランの業界人目線でお届けします。今回は3月25日〜4月1日に開催された「上海ファッション・ウィーク」。若手の台頭やサステナブルへの対応など、国際的な潮流にも追いつきあるようです。
上海ファッション・ウィーク、独立系の勢いが増す
3月25日〜4月1日に開催された2025年秋冬の「上海ファッションウィーク(SHFW)」は、中国経済の不透明感が続く中での開催となった。消費の冷え込みが続く一方で、上海ファッションウィークはアジア最大級のファッションイベントとしての地位を維持している。特に独立系ブランドの活躍が際立ち、業界内外からの注目を集めた。
今季の上海ファッションウィークは、例年と同様に「新天地(シンティエンディ、Xintiandi)」と「レーベルフッド(Labelhood)」の2つの主要カレンダーで展開された。新天地では、大手ブランドのコレクションが発表され、スーパーモデルの呂燕(リュー・イェン、Lü Yan)がプロデュースする「コムモア(Comme Moi)」などがランウェイを飾った。一方、レーベルフッドは若手デザイナーの登竜門として機能し、「マーク・ゴン(Mark Gong)」や「シュシュトン(Shushu/Tong)」などのブランドが革新的なスタイルを披露した。また、デザイナーは公式カレンダーを外れてショーを開催する一部のデザイナーもいて、独立系ブランドの勢いも増している。
3月25日から4月1日までの期間中、「チューブショールーム(TUBE SHOWROOM)」や「オンタイムショー(Ontimeshow)」などのショールームも大きな注目を集めた。「チューブショールーム」は新進デザイナーを支援するプラットフォームとして定着し、持続可能な素材や職人技を取り入れたブランドが多く出展した。環境負荷の低減や伝統工芸の継承を重視した展示が増えるなど、一過性のトレンド発信の枠を超えつつある。一方「オンタイムショー」は中国国内外のブランドが集う最大規模のトレードショーとして成長を続け、今シーズンはエシカルファッションやアップサイクルを軸にしたブランドが目立った。新素材の活用や循環型デザインを推進するブランドの出展が多く、今後の市場動向を占う重要な場となった。
注目イベント「サスタシア・ファッション・プライズ」
今季注目のイベントの一つに、「サスタシア・ファッション・プライズ(SUSTASIA FASHION PRIZE)」がある。持続可能なファッションの推進を目的とし、環境負荷の少ない素材や製造プロセスを採用するブランドを表彰するものだ。インド、フィリピン、香港、インドネシアなどから集まった8名の才能あふれるファイナリストの中で、今年のグランプリに輝いたのは聶若涵(ルオハン、RUOHAN)。論理的かつ構造的な視点から持続可能なファッションに取り組む姿勢が高く評価された。アジア全体のファッション業界におけるサステナビリティ意識の向上に、大きな一歩を刻むイベントになりそうだ。
さらに、同会場では「持続可能性と地域文化の融合」「グローバル化への道 – 革新と海外進出戦略」「実験室から衣服へ – 新素材の未来」という3つのテーマでパネルディスカッションが行われた。「グローバル化への道」では、中国や中国香港のデザイナーに加え、日本からは土居哲也「リコール(Re:quaL≡)」デザイナー、「実験室から衣服へ – 新素材の未来」ではスパイバーの横田東洋マーケティング&コミュニケーション部門長が登壇し、アジアのファッションブランドが国際市場で競争力を持つための戦略や、新素材の活用について議論を交わした。
デジタル配信の面では、中国の独自SNSが主流となり、WeChatや小紅書(RED)を活用した情報発信が中心となった。一部のブランドは海外市場を意識し、西洋のSNSにもコンテンツを提供したが、全体としては中国国内向けのプロモーションが優先された。
2025AWシーズンの上海ファッションウィークは、国際的なラグジュアリーブランドの大規模イベントが減少する一方で、独立系ブランドや持続可能なファッションが前面に押し出された。「チューブショールーム」や「オンタイムショー」といったショールームの役割が拡大し、「サスタシア・ファッション・プライズ」がサステナブルなファッションへの関心を高めたことで、上海ファッションウィークの方向性がより明確になった。経済状況が厳しい中でも、新たな価値を生み出し続けるデザイナーたちの存在が、このイベントの活力となっている。
次回は引き続き上海ファッションウィークより、私自身が実際に会場に足を伸ばしたあるファッションショーについてお届けしたいと思う。