映画「ロッキー3」のテーマ曲「アイ・オブ・ザ・タイガー」のアレンジが流れる中、ゆっくりと階段を上がってステージに姿を見せるモデルはリングにあがるファイターのごとく。ボクサーが羽織るローブのような低い位置にベルトをつけたオーバーサイズのコートや、豪奢なファーのボクシンググローブがその印象を助長する。
アレキサンダー・ワンは今何と闘っているのか?その答えはどうしても「バレンシアガ」と結びつけたくなる。目前に控えたパリコレでは「バレンシアガ」の新クリエイティブ・ディレクターとしてその仕事ぶりが厳しく問われる。若干28歳にして、そしてアジア系アメリカ人として、パリでその重圧と戦いながら手掛けたであろう今回のシグニチャー「アレキサンダー・ワン」には、パリコレ直前に自身の街ニューヨークで見せる “自分らしさ”とは何なのか?という自問自答が反映されているようだ。
ショーで見つかったアレキサンダー・ワンらしさは、1.シンプル&スポーティ、2.ラグジュアリー素材、3.新しいプロポーションバランスの追求、の3つ。得意なスポーティ&ユニセックなスタイルを、上質素材とパターンでもって新しい提案につなげる。アプローチ自体は新しくないが、わずか数年で若手からトップブランドへと駆け上がったブランドのストーリーと結びついていて説得力がある。
テーラードジャケットやトレンチコート、Tシャツやトレーニングパンツなどスタンダードなアイテムをベースに、ネオプレンや厚みのあるサテンやモヘア、ポニースキンやムートンなど上質な素材を使って仕立て、新しいボリューム感を作るためのアイデアを盛り込む。極太ラペルのテーラードジャケットやコートは肩線をなくしてオーバーサイズに。パンツは袴のような折り返しを加えて同じくボリューミーに。シンプルなハイネックニットも前身頃に捻りを入れることでユニークなバランスを生んでいる。色はグレー、白、黒、インクブルー、時々ブラウンと、いたってシンプルだ。
コンセプチュアルに傾いた前シーズンと比べるとぐっとシンプルになったが、受ける印象はむしろ力強い。コマーシャルラインへの展開も想像がつきやすく、バイヤーにとっても安心なシーズンではないだろうか?
フィナーレの後、階段を数段飛ばしで駆け上がり、笑顔で挨拶をするとあっという間にバックステージに姿を消したアレキサンダー・ワンの自信に満ちた姿もまた、闘志を燃やすファイターに見えた。
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