「プラダ」がミラノで一番のトレンドセッターを務めるにはワケがある。それはひとえに、「リスクを覚悟している」から。たとえば2012-13年秋冬シーズンは、(リーマンショック以降のリラックスムードが全盛の中)あえて窮屈なまでに完璧な貴族的ドレスアップを打ち出したし、それがフォーマル再考のきっかけとなり、13-14年秋冬には他ブランドがこぞって完璧なVゾーンの構築に心血を注ぐと、今度はそのトレンドからあっさり離脱。反対に、敢えてハズしたスタイリングのVゾーンを提案し、「パーソナルなドレスアップ」という新たなトレンドの先駆者となった。
その意味で言えば、今シーズンの「プラダ」は、新たなトレンドを一から創出したとは言い難い。ヤシの木や腰ミノ姿の女性など、多用したモチーフから察する限り、今季は「プラダ」もムードはトロピカル。これは、ピッティ・イマージネ・ウオモの「カラー」を筆頭に14年春夏のビッグテーマであり、「プラダ」はそのトレンドにどっぷりと浸かっている。
しかし、その打ち出し方は、やはり独特だ。ロンドンメンズから顕著な「ハッピー」や「共感を誘う」クリエイションを重要視するなら、トロピカルはスカイブルーやコーラルピンク、シトラスオレンジ、そしてレモンイエローなどがベースとなるハズなのに、「プラダ」のトロピカルはワインやビリジアン、ブラウン、ネイビーなど、常夏の楽園からは想像できない秋冬カラー。しかも強い色同士を掛け合わせているため、そんな色の共演から生まれるイメージは「ハッピー」とは若干異なり、なんだかどぎつく、俗っぽい。誤解を恐れず言えば、全体的にオーバーサイズだったり、ジャケットがダブルブレストのピークドラペルでちょっぴり時代錯誤な雰囲気だったりすることも手伝い、チンピラ風。せっかく南の島に来ているのに、サンセットが美しい時間帯、敢えて日の当らないダークサイドにいるような、ほんのりした毒気のようなものを感じさせる。
日々の生活に忙しい男性にとって、「常夏の楽園」と言えば、だれもが憧れるもの。そんな場所をイメージしたコレクションは、十中八九「共感を誘う」ものになるはずだ。しかし「プラダ」は、毒気さえ感じさせたり、さんさんと輝く太陽の下というイメージを避けることで、憧れの場所のスタイルであるはずなのに、「共感」を誘わず、むしろ挑発しているような印象さえ受ける。やはり、このブランドは「リスクを覚悟」している。半年後、この流れはほかのブランドまで波及するのだろうか?注目したい。
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