「プラダ(PRADA)」は、ショー会場の床から天井まで壁一面を、女性の顔の巨大なイラストで埋め尽くした。描いたのは、4人の壁画家と2人のイラストレーター。「フェミニニティ」をテーマに、デジタルは使用せず、本人たちが一堂に会し、直接壁に描きあげたという。
観客はフロアの中央に設けられた島のようなスペースに座り、"壁画"の前を歩くモデルを見る。それは、道を闊歩する女性を見るようでもあり、美術館でアートを見るようでもある、不思議な感覚だ。ファッションとアートが、そしてモードとストリートが目の前で交錯する迫力の体験は、その場にいるからこそ体感できるアナログなもの。ミウッチャ・プラダが提案する新しいファッションショーの形である。
コンセプトのベースとなっているのは、1920年代にメキシコ革命下で起こった美術運動だ。リベラやシケイロス、オロスコらが先導し、革命の意義を誰でも見ることができる壁画に描き大衆の間に伝えようと考えたこの運動は「革命の芸術」と評されている。一方、ミウッチャ・プラダが起こそうとしている"革命"は、一貫して"女性性"の解放。祈るように胸の前で手を組む女性、感情をむき出したにした女性、見開いた瞳のクロースアップ。絵の中のエモーショナルな女性たちからは、強い意思が伝わってくる。
壁画と同じ女性の顔をプリントしたドレスやコートは、その上にブラジャーをつけたような装飾を大粒のスパンコールやカラーストーンで施している。ブラジャーは、パッチワークやインターシャニットなどのバリエーションで繰り返し登場した。本来服に下につけるブラジャーを表に出して "着る"アイデアからは、強いメッセージを受け取るが、カラフルでどこかコミカルだったり、ビジューの装飾がきれいだったりして、あくまで楽しいファッションに落とし込んでいるところがミウッチャらしい。
素材は、一年前の春夏同様、ファーを多用し、シェア—ドファーを使いモザイク柄で女性たちの顔を描くパターンもある。また、ビジューを飾ったリストバンドやレッグウォーマーからもわかるように、スポーティな要素もポイントで、テニスウエアを連想するリブ使いが、コレクション全体に軽さを添えている。
イエロー、オレンジ、赤、ブルーなど、カラフルな色使いはまさに、街のグラフィティを見るかのようであり、エネルギッシュ。レインボーカラーも登場した。バッグは小ぶりのスクエアがメインで、ここでもまた女性のイラストがプリントされている。
アーティストとのコラボレーションにより発表した今回のショー形式は「In the Heart of the Multitude」と呼ぶ新しいプロジェクトの始まりだという。今後の展開は未発表だが、「プラダ」を介して現代アートとファッションがより密接な関係となることは間違いなさそうだ。