デンマーク・コペンハーゲン生まれの日本人兄弟、井上聡(左)と清史が2004年にスタートしたブランドが「ザ イノウエ ブラザーズ(THE INOUE BROTHERS)」だ。アフリカのビーズ工芸や南米のアルパカの毛を使用したニットなど、その土地に根差す伝統工芸に注目したメンズウエアや雑貨を打ち出している。現在はロンドンとコペンハーゲンを拠点に、ファッションのみならずグラフィックデザインなど多岐にわたって活動中だ。そんな井上兄弟が9月19日に来日し、現在取り組んでいるビキューナプロジェクトをデンマーク大使公邸で披露した。
アンデス地方に生息するビキューナの毛は"動物界で最も細い毛"と言われるほど極細で軽く、シルクのような柔らかい風合いと保温性の高さが特徴。"モダンラグジュアリー"をブランドコンセプトに掲げる彼らが探し求めた素材は、"アンデスの金"と呼ばれた希少性が高い最高級繊維のビキューナウールだった。ペルーに赴き、ビキューナやアルパカ繊維の研究機関であるパコマルカ研究所と現地の先住民らのサポートを受け、2013‐14年秋冬コレクションでビキューナウールを使用したストールとマフラー、カーディガンを発表した。日本では伊勢丹新宿店メンズ館やストラスブルゴなどで販売する。
「ビキューナやペルーの伝統についてもっと知ってもらいたいと思い、今回の取り組みのムービーも制作した。『チャク』と呼ばれる、伝統的なビクーニャの追い込み猟を先住民たちと一緒に行なった時の様子を収めたもの。300人で行ない、刈った毛の重さは800グラム。ストールを1枚作るために必要な重さは125グラムなので、1回の『チャク』でたった4枚しか作れないんだ。いかに希少価値が高いかがわかるでしょう?それに、ビキューナの毛は2.5�p以上伸びないから糸を作ることもとても難しい。なのでストールが約12万円と価格は高くなる。それでもこうした良いモノの価値や背景を伝える活動を今後も続けていきたい」と井上聡デザイナー。彼らは東日本大震災によって仕事を失った東北の人々と協働する「東北プロジェクト」も行なっている。今後の活動も話題を呼びそうだ。