一ルックに一曲。音がぶつりぶつりと切れる。前後の関連性を断ち切るような演出は、ひとつのルックがひとつの作品であると言わんばかりだ。
川久保玲いわく、「服ではないものをデザインした」という今シーズン。モデルに着せてファッションショーで見せる「服でないもの」とは何なのか?まるで禅問答である。
答えを考えるひとつの糸口は素材だ。
全体的に服のための生地ではなく、生活用品や工業用資材に使われるような素材がコットンやフェイクレザーと合わせて使われている。例えば、ファーストルックのメッシュ状の肌が透ける素材は、触ると強いハリがあり、まるで網戸の網のよう。さらに「服」を形作るヘムの部分は、黒い生地の間にチューブのような弾力性がある素材を挟んである。
特に目立つのは非常に軽い不織布。フリルをたくさん飾り、熊のぬいぐみがついた花柄ドレスの生地も不織布だ。洋服を持ち運ぶ時に使うようなグレーの大きな不織布を接合した「服」もある。
現在、パリの装飾美術館ではコルセットやクリノリンの歴史を紐解く展覧会が開かれており、「コム デ ギャルソン」が1997年春夏シーズンに発表したこぶドレスが「ジャンポール ゴルティエ」や「アレキサンダー・マックイーン」のアーカイブとともに展示されている。
その展示会と併せてみると、格子状のトップスやオーバースカートは、コルセットやクリノリンを彷彿とさせる。ただし、それらは人の身体を矯正する本来の役目は果たさず、服の上に重ねられている。スカート部分が丸い球体になったドレスは、球体に開いた穴から中にぎゅうぎゅうに詰め込んだロングドレスがところどころ飛び出している。
ショーの後、拍手は約3分間、川久保の登場を待って鳴り止まなかった。問答の答えは見る者それぞれに委ねられているが、拍手をする間、服と体の関係性について再考していた人は多いだろう。